2008/10/16 22:10 | サブプライム | コメント(20)
虫の知らせ
金本選手が表紙の今週のアエラにも書いたのですが、金融、特に融資、というのは要するに「金貸し」の世界であって、「ナニワ金融道」が制する世界なのに、それはかなりタレントに左右されるということで効率化を狙って金融工学で数値化してしまったのが今回の金融危機のすべての始まり、ということです。
一番デジタルに向かない世界をデジタルにしてしまった究極の世界がいまの混乱の原因。かんべえ先生も同意見のようであります。
さて、正直強気にはなれない、と申し上げたとおりの展開です。
13日の人類史上最大の上昇分はこれですべて吐き出しました。今日のニューヨークは胃袋まで吐き出すのではないでしょうか。 根拠というほどのものではないのですが、「虫の知らせ」程度にはお伝えしておいたほうがいいでしょうか、ということで以下・・・
1. アメリカンスタイルの変質
おととい書いたように今回の一連の措置はまさに市場資本主義との決別に他ならないわけですが、いよいよ本家本元のアメリカンライフ(つまり、ビッグマック3つ食ってコーラ飲んで、リッター2Kしか走らない車のタクシーでジムに行き冷房がぎんぎんに効いた部屋で運動し熱を発散し、挙句の果て電動のトレッドミルではあはあ言ってCO2を大量発生させ、熱いシャワーを浴びてでかい冷蔵庫できんきんに冷えたビールをしこたま飲んでテレビとクーラーと電気をつけっぱなしで寝る生活のこと)の変貌を余儀なくされるかもしれません。
10年前に、まさか、アメリカ人がガソリンの値段を気にするなどとは誰も思いませんでしたし、昨年の夏あたりだとまだリッター2キロくらいしか走らんSUV中古車がかえって安くていいや、と吹聴していた輩までいた訳です。そのくらいアメリカンライフはばかばかしいほど行き渡っているし染み付いている。
13日、一連の救済策を受けて1930年以来という「爆騰」を果たしたダウですが、一方で値下がり銘柄で目立ったのがなんとペプシとコカコーラ。SPインデックスではSPSOFT DRINKSというインデックスが作られており、何せ朝からコークを飲む人たちですからこの指数、不況にだけは滅法強い、という特徴があります。
かなり景気が悪くなっても、ビーフがチキンになろうとも、コークはコーク、ハンバーガーにコークは不滅な訳です。だから、いくらペプシの業績が悪いからといって、こういう日にずるずる下がる、という理由はない。しかもペプシは3300人もリストラするというのですから、今までとは風向きがかなり違う。
私にはアメリカ全体を覆う生活不況感が出てきたのは今回が初めてだという気がするのですね、こういう動きを見ると・・・ちなみに生活必需品インデックスで見ても年初来下げ幅は15%を超えてきました。元来不況に強いインデックスがこれではどうも具合が悪いのです。
2. 理想と現実のすさまじいギャップ
信じられないかもしれませんが、ついこの前まで、ほんとつい最近まで、今年の10-12月期を過去最高の利益と予想している企業がほとんどでした。実際、6月時点での統計を見るとSP500採用銘柄企業の10-12月予想利益を足し上げると四半期としては過去最高の2400億ドルとなっていました。
しかし今、何が起きているでしょうか・・・・・
言うのもばかばかしいのですが、先週だけでSPは18%下げ、これは過去75年で最大の下落幅でして、年初から見ればほぼ半分になってしまってます。投資家の目標株価は先ほどの利益水準を前提に作られているのでどこかで大幅修正をしなければなりませんが、すでに10月、間に合いませんね。
つまりあとは現実にあわせて修正するだけなので、さて、投資家の皆様はいくらまで売ればいいんでしょかね。わたしには皆目検討がつきません・・・
3. あまりにもおかしいアメリカ国債の動き
たとえば株が史上最高の反騰だった13日、当然アメリカ国債は売られました。あれだけの公的資金注入を発表し、株価が上がり、どのくらいそれが金利市場に反映されたのか?
10年債は4.07%へと動いていますが、30年債は3.89%からわずか4.28%までの修正。 TEDスプレッドという、3ヶ月のアメリカ国債のレートと民間のプライムバンク(最上級のクレジットの銀行の調達レート)の差は、株価がぼろぼろだった先週が4.64%と過去最大、これがどのくらい縮まるかと思いきや、13日は4.36%で終了。史上最大の反騰にしては縮小があまりにもしょぼい。
少なくとも金利市場は一連の対策の効果をそれほどは信じていない訳です。さらにその前の週、株価急落中の10月8日から9日にかけて、アメリカの10年国債の入札がありましたが、この日はFlight To quality どころか、公的資金原資の調達懸念から一日で20BPも金利が上がってしまったのです。願ってもないフォローの風が吹いていても一日で400億ドルのファイナンスはいかにも重かったという訳ですね。
今回の公的資金を捻出するために、当然これまでの国債の償還をロールしたりする費用がかさみますが、増発分はネットで1兆ドル!といわれます。一部には2兆ドルという予測数字まであり、200兆円の新規増発、っていったいなんなんでしょうか。
私は80年代からマーケットに参加していますが、こんな数字、見たことも考えたこともありません。今まで日本からせいぜいアメリカくらいまでの距離しか考えたことが無い人にとって、突然火星までいくぞ、といわれたようなもんですね。
さらに、この国債に入札できる資格のあるプライマリーディーラーはどんどん減っています。メリルはBOAと同枠、ベアーもJPへ、リーマンはなくなり、カントリーワイドもBOAに吸収、事実上枠が四つも減ってしまいました。レバレッジをかけて積極的に応札していたモルスタ、ゴールドマンは普通の銀行になってしまい、これまでのように応札するわけにはいかない。ただでさえ発行は増えるのに・・・
と債券相場は実に不安だらけです。 アメリカの国債金利が上昇すれば担保価値が目減りして即死状態になる、ということはこちらの読者はもうご理解頂いていますね。
そうなんですよ・・・
4. 頭かくして尻隠さず
この、アメリカで金融機関に投入された膨大な公的資金は一体どこにいくのでしょうか?
元来だったらこれでGMやフォードに融資をしなければならないのですよ、目的から言えばそうなんです。でも現実には「びた一文」回らないと思われますでしょ?。そのとおり。まわりっこない。
不良債権の償却にまわされるか、もっと安易に稼げるほうにまわすかいずれかです。これは日本でもそうでした。っつーか、日本はそれどころか、投入した資本がなかなか融資に回らず・・・・下手をすると・・・現在に至る、じゃないですか(笑)。
理由は明らかで初めの話にもどるのです。
FRBにせよ、金融庁にせよ、融資のクレジットリスクを数字で計っているからです。これが今回のサブプライムに端を発する信用危機の最大の原因でもあるのですが、そもそも信用リスクなんぞ、グレーゾーンもいいところでAAAだからOKでBだからだめ、なんて杓子定規なことはないのです。
しかもその基準は企業の数字のみに基づいて出している。せめて「経営者誠実指数」なんてのでもあればいいんですが(爆)。今は「ミナミの帝王萬田銀次郎」が必要な訳であり、「萬田はん」は数字だけを見て金貸しをしている訳ではありませんね。要するに相手と世の中を見ているのです。
これを金融庁が数字でチェックするのは不可能で、金融機関独自のノウハウ(萬田はん)を信じるしかない。だめな場合は萬田はんに牢屋に行ってもらい責任を取ってもらうということです。
かんべえ先生もお書きになっているように 人を見て貸す、なんてアナログなことをやってちゃ能率が悪くてだめなんだ、と指導したのはFRBであり金融庁だったことを忘れずに。
その挙句に彼らの物差しにはなんら引っかからなかった証券化商品に「引っかかった」訳ですから、この点を改善しない限り、いくら公的資金を突っ込んでも効果はありませんね。
悲しいことやのう…今の人間はみな目に見えるもんしか信じられんようになってしもたんや…
明言ですな、萬田はん。
ナニワ金融道とミナミの帝王がごっちゃになったような気がしますが、すみません(笑)。では、また!
おー、シティーの損失はすげーな、おい・・・・
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20 comments on “虫の知らせ”
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ご了承のうえ、ご利用ください。
アメリカの消費スタイルの変貌って、俄に信じられないのですが。でも、やる時はやるのがアメリカ人かもね。
(ここからはかなりシリアスな話ですが…)
実は、今アメリカのエネルギー省が中心になって産業セクターの省エネの国際基準作りをやっています。(つまりISOね)これは、かなりシリアスな話で、日本の省エネ技術にはかなり陰りが出ているなかで、もうこれ以上省エネを実施することができない状況で、排出権取引がデファクトスタンダード化するのです。個別の工場の削減量を定量的かつ推定可能な形式で長期に計測するのには、省エネ手順の標準化が有効なので、アメリカ政府がこれを強力に推進しようとしています。すでに2000年にANSIが、省エネ標準を制定しています。
アメリカはなんといっても、消費レベルがじゃぶじゃぶの石油に依存しているので、日本と比べると「糊しろ」がでかい。ゴア副大統領じゃないが、これからは、排出権を制した国、省エネ技術に長けた国が伸びると思うのです。
リーマンが増資を計画をしていた所で、韓国産業銀行が土壇場で逃げた為に計画が頓挫した、なんて話もあるようですが、その辺りについて何か一言!
ぐっちーさん、こんばんわ
ミナミの帝王を最近ツタヤなどでレンタルして
ハマってたりしてます?^^
私はDVDの35ぐらいまで見ましたよ
EDの
欲望の街 竹内力(RIKI)
の歌が私は大好きですよ^^
歌はこれです^^
欲望の町
動画
http://jp.youtube.com/watch?v=u_kqg5PWohA
・・・カイジ黙示録が最近のお気に入りです(笑
逆張りで儲けさせてもらうわwww
ソフトランディングに成功する
ポジティブなシナリオも聞きたいです
でもぐっちーさんが書いたら全力買いしてしまいそうだ…
弱者からゼニをむしり取るシステムが資本主義
ナニワのマルクス青木雄二さんの慧眼には驚きです
>今日のニューヨークは胃袋まで吐き出すのではないでしょうか。
また騙されたw
これ読んでまた円高になると思って売ったらこれだ・・・
オレも馬鹿だなぁ・・・
なるほど、
そうかも知れない、恐らくそうだろう。
が
ぐっちーは大変謙虚で、態度も顔もデカクナイから、控えめに
『虫の知らせ』
としたが、
『虫の息』
と書きたかったのだろう、実は。
が
ニューヨークの慈善パーティでの両大統領候補者のスピーチを聞くと・・
マッケンは素晴らしかった、三回の討論会もこれと同じなら、オバマもパンチドランカーになったかも知れない。
だが
オバマの返しは凄みがあった。
あったのみならず、この男なら・・と聴衆に感銘をもたらす、明日の光があった。
米国はまだまだ大丈夫、
と東洋の島国の住人にも安堵を与えるものだった。
『虫の息』
ではなく
『虫の知らせ』
でもなさそうだ。・・・精神的にね・・財布ではなく・・
いいではありませんか、空の財布には希望が詰まっているのだから・・
どこかで読んだことあるけど、
やっぱり金融業っていうのは「幻想」なんですよね。
シンガポールも危なそうですな。
住民がマレーシア通貨への交換へ走っているとか。
外需依存度が高い国は脆いです。
しがない個人投資家ですけど
大暴落になって却って、ぐっちーさんの更新が頻繁となって
助かりました。勉強させてもらいます。
目に見えないものを信じるのは語るのは難しいですね。
私も惻隠の情ぐらいしか判りません。
ぐっちーさんもそろそろブログのタイトル変えないと財産没収&刑務所行き?(笑)
個人的には世間のウォール街の奴らざまーみろ、因果応報、地獄行け風潮は少し違和感あります。(私もたまにざまーみろ思いますが笑)
ここらへんの米系金融人の今の心境お聞きしたいです。
アメリカ人の贅沢が中国やインドを引き上げる、即ちマネーゲームという嘘から出た世界実体経済の底上げみたいな真のような効果もあったとも思うのですが…
ホント相場観ありませんの
いつも参考にさせてもらっています。
今回の「アメリカンスタイルの変質」はとても興味深かったです。
×虫の知らせ
◎虫けらの知らせ
商売においてもっとも大事なものは信用です。
その信用に関わる作業を効率が悪いからという理由で
デジタル化してしまったのがアメリカ金融の
繁栄とその後のカタストロフを引き起こしたという
解釈でよろしいのでしょうか?
当方、月収22万のハケンで金融の現場には疎いのですが、
この文章には非常な説得力があります。
日本の銀行は効率が悪くても
中小企業の信用を見極め、利回りがショボくとも
プラスになるのならば融資すべきで、そういう積み重ねが日本の景気をよくしていくのだと思います。
アメちゃんには、新しい資本主義のルールが構築されるでは、投資を控えたほうがいい気がします。
三菱のモルスタへのアレは、税金みたいな物なんでしょう
こんな秋晴れの暖かな日は
なにが起こっても、
絶対大丈夫!何とかなる!
と、思うのは私だけでしょうか(笑
まだまだ混乱の最中で
お忙しいことと思いますが
ファイト!!
昨年の夏にネバダの不動産会社の方に話を聞いたところ、2年前から不動産は売れないとの事でした。
さて、中国人の元気さは有名ですよ!NZも中国人とインド人だらけ、彼らは安くなって捨て値のような物件で粘っこく商売をするのが得意です。アメリカも来年から鎖国政策になりそうですが、なければ、中国人やインド人だらけになるでしょうね!
そういえば、Fの430の中古、一気に安くなりましたね!
プライマリーディーラーの数が21から17に減ったとしても、毎回国債入札の応札倍率が3倍程度であることを考えればそこまで大きな影響があると思えないのですが・・・