2008/09/04 12:06 | 金融全般 | コメント(18)
アメリカに見る金融再編
最近のサブプライムでこけるまで、アメリカの金融業は絶好調だった訳です。入社一年目の新入社員まで入れてもウォールストリートの平均給与は25万ドル(2500万円)もありましたからわが世の春どころの沙汰ではありません。
しかし、考えて見るとアメリカの金融業界と言うのはやはり凄いもので、これだけ絶好調の中、片方でダメなものはどんどんリストラしてきた訳です。サブプライムでこけてリストラするならまだしも、絶好調時にもリストラの手を緩めることはありませんでした。
振り返ってみましょう。
80年代は当にトレーディングの時代。投資銀行といういわば仲介手数料業務にいそしんでいた連中を、自分のキャピタルをかけて相場を張る、そしてそのポジションをあらゆる投資家にデリバリーすると言う、それまでの伝統的な良質な顧客とのリレーションシップに基づいた投資銀行業務を「下品」なトレーディング業務が凌駕した時代。こういうのはわりと最近始まったことなんですね。
この時代の雄はソロモン・ブラザースという会社です。1984,5年当時、日本のサラリーマンが1億円取るなんてことは信じられなかった訳ですが、当時の東京のトレーディングヘッドの明神さんは10億円の給料を取っていました。そのころのソロモンの連中は悠々自適で今はアリゾナで寿司屋とかやってますが、会社そのものは吹っ飛んでしまいました。
理由は簡単で、ゴールドマンとモルガンスタンレーと言う伝統的投資銀行がこりゃ、いかん、ということで本気を出してトレーディングに突っ込んでいったらやっぱりかなわなかったと言う訳です。ソロモンは、ゴールドマンやモルスタに対抗する為に最終的にはアメリカ国債の相場操縦で訴えられる、という惨めな終末を迎えます。
その意味で「あだ花」と言えるのは、このソロモン、スミス・バーニー、ファーストボストン、バンカーストラストなどなど、中途半端なブローカー及び商業銀行出身の会社は総崩れで、全て討ち死にしました。
ソロモン、スミスは今のシティーに吸収されましたが名前も残っていませんね。バンカースはドイツに吸収されましたが、これも名前がなくなりました。ファーストボストンだけがCSFB、クレディスイスファーストボストンとして名前が残っています。
ですから、アメリカの金融業の話をする場合に、十把からげて「米系金融機関」ましてや欧州勢まで含めて「外資系金融機関」というのはとんでもない間違いです。合コンに行きたいOLのおねーちゃんが
「お金持ちの外資系金融機関の男を集めてよ!!」
というのは仕方ないと思いますが、プロのジャーナリストがそれではまずいです(笑)。
メリル、先ほどのソロモン、潰れたベアー、そしてリーマンもすべて株式ブローカー上がりの会社で、アメリカでは差別されます。(区別ではなく、差別です)
一方、商業銀行あがりの投資銀行業務をやっている、という連中がシティー、JPといったメンバーでやはり本業は商業銀行なので、プレスティージは持っていますが元来こういう「切った張った」はうまくありません。投資銀行業務に出陣したのはいいけれど、肝心の手数料収入が上がらない為に、ジャンクボンドの引き受けや、CDOの引き受けで手数料を稼ごうとした結果が今回のサブプライム関連の大損失に直結した訳です。ゴールドマン、モルスタが殆ど無傷なのは偶然ではありません。
JPモルガンという銀行はも元々はモルガンスタンレーと同じ会社でして、JPモルガン商会といいます。預金などの、ちまちました商業銀行を引き継いでいったのがJPモルガン。投資銀行業務を引き継いだのがモルガンスタンレー、と言う訳ですね。
もともとグラススティーガル法という、独占禁止法で商業銀行と投資銀行の兼営を禁止したものの、制限のない欧州勢にやられそうになって、兼業を認めたわけです。そこから、今の歴史が始まります。その意味では早い時期にJPとモルスタが元のさやに納まってしまえば今頃世界制覇だったのかもしれませんが、そうは行かないところがまた面白い所です。
ベアースターンズというのは株式ブローカーから成り上がりながら、証券化商品のブティックとして名を馳せました。それがあだに成った訳ですが、彼らの持っていた証券化商品のプライシングシステムはウォールストリーとでも相当抜け出した存在で、これを二束三文で買ったJPは大変お得だったかもしれません・・・・但し、証券化商品がまだ今後も商品として存在すれば、という条件は付きますよ。
そういう意味では本当に買って意味がある、と思われる投資銀行はゴールドマンかモルガンスタンレーしかありません。GEなどはいまだに重要なファイナンスはこの2社のどちらかにやらせます。独占です。
どうでもいい社債の引き受けなんかはほかの連中にもやらせますが、重要なものは触らせません。 この点から見れば、この2社に出資するのは大変意味がある事なのですが、それがリーマンとなると??でありまして、買収するのでは?といううわさが絶えない三菱ですが、その程度はわかっているのではないか、と私は思います。
リーマンはその意味で何も無い会社です。株式などのブローカー上がりですからアメリカ金融資本や企業資本に重大なコネがある訳でもない。
(指摘がありましたので追記します。が、もともとブッロッカレッジ(Brokerage)出身ということですね。)
ベアーのように特別なノウハウも持っていないし、特別な優良資産を持っている訳でもない。その意味では買ってもあまり意味がありませんね。個人顧客リスト位でしょうか、財産は。ですので、多分だれも買わないでしょう。
ということで、アメリカの金融資本についてはその大まかな歴史的背景を知っておくとすこしすっきり情報が整理できる筈です。ご参考まで。
PS
ハニートラップでぐぐったらここに来た、という方がおられました。随分古い記事ですが、そうですか・・・有難うございます。しかし、「ハニートラップしてこい!!」、という会社もすごいもんだなー、と感心しておりましたが・・・。ま、せいぜいご自愛のほどを(笑)
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18 comments on “アメリカに見る金融再編”
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野蛮な来訪者
ライアーズポーカー
大破局(フィアスコ)
フジマキさんの本
が私の知識のすべてです。
読み返したいのですが最近老眼がきつくて
メリルに出資したみずほ、バークレイズに出資した三井住友の評価はどうなんでしょう?それとモルガンスタンレーもちょっとダメージ大きいように思います。そう考えるとGSはすごいですね。でも政府に人間送ってるし絶対インサイダーっぽいんですけどね。
リレーションシップ!
なんと古風な!
とっくに死語になっていた、と思ってましたが・・
これで再構築する以外ないにしても、古き良きアメリカに回帰出来るでしょうか?
サプライズハリケーンで、
飛ばされたヨーロッパと英国とのリレーションシップは?
マッケーンは国民との間に・・結べるでしょうか?
オバマは?
我等の国は?
う・・・ん、鳩に餌でもやってましょう?
外資系金融の立ち位置がわかり、もやもやしていたものが
すっきりしました。ありがとうございます!
リーマンがたいした会社ではないというこは良いとして。。
リーマンが株式ブローカレッジを本業でやっていたことは多分ないと思います。
創業来百数十年、基本的には債券一筋の会社なので。
数年前、債券から株式部門へ経営リソースをシフトさせるというプレスをした際、株式アナリストから、慣れないことは止めた方がいい、とまで言われていましたし。
ご参考まで。
すでにCSは名前からFBをとっぱらってますよ。
所詮投資ゲームはインサーダーありきですよね。
相場操縦なんて簡単だし。
そんなゲームで勝てる人材を神のごとく崇めるアメリカってなんなのでしょうね。
そしてぐっちーさんはなぜそんな世界から引退しないの?
普通は20年もやったら嫌になって辞めると思うんですけど。お金いっぱい貰ってたんでしょ?
ロンチャーナウさん(だったと思います)が書かれた「モルガン家」という本をご存知だと思います。モルガンの歴史を書いたもので読んだ時には驚きました。日本では国・政治を中心に歴史を教えますが、特に戦後は金融から世界をみたほうがよくわかるのではないかと感じています。
JPモルガン、MS……本当に凄い会社ですね。
ところで1933にグラススティーガル法ができた時、JPモルガンはなぜ商業銀行になることを選択したのでしょう。投資銀行でもよかった気がするのです。
今日のお話ですと商業銀行のほうが威厳があるということなのでしょうか。
もし気が向いたらご教授ください。
この20数年でインベストメント・バンクの
激しい浮き沈みを貴ブログで再確認しました。
当時アーク・ヒルズに入居したばかりのソロモン・ブラザーズは学生の注目の的でしたね。マスコミで
同社の受付の豪華さが話題になったと思います。GSは東京ではソロモンほどに知名度はなかったと思います。同じビルにあったので就職活動をする学生達がGSに気がついたみたいです。MSは大手町センターにあって応接室に洒落た日本画かかっていた記憶があります。時代の流れを感じます。
JPMは、結局はるかに格下のケミカルバンクに飲み込まれたわけですから、商業銀行の方が下克上が激しいのですかね?
昔はあったじゃないですか、「財閥」っていうものが、あす意味こういった形態がアメ公ではそれぞれの時代で、色んな業態でやっているわけですね。
で今の日本というかずっと昔から商社と製造業でしょ。金融業なんて一番の生産性の低いバカの集まりですよ。なんたって、ここ20年来日本で一番の人材を集めた(ここも疑問ですが)にもかかわらずこの有様、今では人材の墓場ですよ。黄昏親父に石なげりゃ東大卒にあたりまっせ。
ということでみんな外資でしょ。
三菱東京UFJ銀行で三菱UFJメリルリンチPB証券の商品の話を少し聞きました。
最低預け金額が3000万円で外貨で債券で運用するのですが、円建てで戻ってくるとか。
1,2年目は10%の利益が確実で3年目から1ドル100円を割らなければ6,7%の利益で元本保証、償還期日が最高30年だとか。利率がこのまま高いままだと早く償還されるとのこと。
プライベートバンクには、そんなオイシイ話が有るのかと思う反面、営業マンの言うようにうまいこと事が運ぶのかなとも思いました。
それにメリルリンチが潰れるようなことがあったらどうなるのでしょうか?
ニューバーガーは財産には入らないんでしょうか??
古風でいいなぁと思うのですけど。
それとも今のBSでごり押しする金融機関にはあわないんでしょうか??
JPMの今の社長、Jamie Dimon(ダイモンていうとある刑事ドラマを思い浮かべますが)も原則商業銀行をベースに成長路線を描いていると、Bloombergが発行している雑誌で最近書かれていました。
Lehmanは韓国の銀行団の投資を受け入れるとか、話題になっていましたがBloomberg RadioでLehmanは「投資銀行も駄目、トレーディングも駄目、Wealth Managementだけがまあまあ」という辛らつなコメントを貰っていたのを聞いたことがあります。はっきり言うもんだなと感心しました。
韓国のウォンがヤバイらしいですよ
通貨危機が9月10日に来るらしいです
2chでお祭りになってますよ
ということで、本邦でこれに対抗するためには、商社+メガバンク(まーしょうがねーか)+郵貯(+年金+生保の資本力)のコングロマリット=旧財閥ですかね。
モルガンvs三井+三菱+住友(当然ミズホなんて蚊帳の外)の対決でしょ。
素人にも解り易い解説をありがとうございます。
時々、アメリカ金融資本について述べられてますが、
今回は、それらの総集編ってところですか…
素人にとっては知識を得る機会を作ってくださる方々は、とても有難い存在です。
解らない言葉や興味を持った事柄は自分でググレれば宜しいことですし。
歴史における世界情勢の急変も金融資本の仕組みを知らなければ、
権力を持ってる一部の人間に騙されてしまいます。
そのことを学校の先生は絶対に教えませんし
“ぐっちー”さんのブログを知らなければ、
タイタニック号の親会社がJPモルガン商会だったことも知らなかっただろうし、
太平洋戦争を仕掛ける日本のマネーの出所がモルガンだったり…
日露戦争時の国債引受会社が何処だったのか?
日露戦争に勝利した日本は、ロシアから賠償金も取れず戦費と利息を外資にセッセと支払ったりとか、
いわばイモヅル式に今まで理解できなかったことが氷解します。
戦争には莫大な資金が必要なのに、
学校ではそれが何処から調達できたのかを教えませんよ。
こういう事実は学校で教えるべきだと思いませんか?
特に義務教育では教えるべきですよ。
他国を侵略した事実と一緒に、戦争に必要なマネーの出所も教える必要があると思います。
どんな道でも歴史を知ることは重要なんだなと改めて思いました。感謝です!!