プロが語る世界情勢・政治・経済金融の最前線!

The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2008/07/31 10:33  | Weblog |  コメント(10)

日経の責任は大きい


今日は久々に本石町さんに乗ってみましょう。たまには飲みにいきましょうね!


ということで日銀から7月4日に出されたグローバル金融システム委員会報告書の抄訳が出されました。 その一部である 「市場の混乱に対する中央銀行のオペレーション」。まあ、我々にとっては必読であります。

http://www.boj.or.jp/type/release/adhoc/bis0807a.htm


原文は49ページに渡る膨大なものなのですが、今回の騒動、所謂流動性危機におけるにおける中央銀行の一連のアクションを検証する、あるいは振り返るという建て付けになっております。 その中で、案の定というか、


Misinformation and misinterpretation of central bank actions are more likely and costly in times of stress. During such periods, central banks should enhance their communication with market participants and the media.


となっていて、日銀訳では


金融市場のストレスが高まった状況の下では、中央銀行の行動に対する誤解は重大な結果をもたらす可能性。これを踏まえ、中央銀行にとっては一段と丁寧な市場・プレスとの対話が必要


とかなり謙虚な訳(笑)ですが、更に原文を手繰っていくと本石町さんが抜粋されたように


there was a perhaps overly heavy focus by the media on the size of reserve injections, without sufficient attention to other offsetting operations or to the details of central banks’ monetary policy implementation frameworks. These instances of misunderstanding suggest that there is a need to explain central bank actions to the public better.


と実はかなりきつ?く、明確に書かれていますね。


特に流動性の供給に関しては一方的にサイズのみを強調しその他の補完的かつ包括戦略的見地を無視したメディアがあった、とあります。(つまり政策を全く理解しないで供給がでかい、とかいくら、とかサイズだけをかいているあほな報道機関があった、ということ)


このことは、一連の流動性危機に関する報道に限ったことではありません。日々の日銀のオペレーションなどについて、さらにもっというと株式市場、債券市場に対する報道の中にあまりに目を覆うべき記事が多く、かつそれが市場そのものに重大な影響を及ぼしている、という指摘にもつながりますから重要です。特にああいうストレスがかかったときは大変だ、とBISが言っているのですから大変なんでありますよ(笑)。


勿論、日経だけが名指しにされているわけではありませんが、重要なことは、日経において、そういう間違った報道がなされたときに、「あいつはばかだねー」、と我々プロはわかるわけです。


しかし、一般の投資家のみなさんやしろーとの銀行の役員の方なんかだと、日経が正しい、と信じて疑わない訳ですよね。日経が間違っていて東スポやましてやぐっちーが正しいなんてことは有り得ない、というのが世の中の認識なのです。その意味では東スポであれ何であれ、これが正しい、と判断がつくのがベストですけど、専門的な経済記事となるとそうもいかない。 思わず日経の間違った報道に基づいてオーバーリアクションを取ったりする。


最近では本石町さんはじめ、良心的なブロガーが「あれはうそです」、とか「日経はばかです」、とか書くので10年前よりは、はるかにましだと思いますが、こういうある種の報道サイドの「間違い」「誤解」を常に市場との対話能力が無い、などと言って日銀などの当局の責任にするのはとんでもない間違いで、日本ナンバーワンの日本経済新聞の記者諸君がしっかり誤解の無いよう理解をして報道する方が先決でしょうし、他の一般紙の皆様も「日経は間違ってるよ」、とはっきり指摘する方がいい。


 悪気はないのかもしれないけれど、日経にはそのレゾンデートル故の、BISが心配する程の「重大な結果」をもたらすパワーが相当大きいと言う自覚だけは持っていただきたいと思うわけであります。


その意味でBISが言うように、流動性供給総量を足し算して「みだし」にするというような下品な報道はそろそろやめましょうよ、ということになる訳ですね。


今回の一連のサブプライム問題の報道についても、実はこの問題を語る上で絶対に避けて通れない専門家が少なくとも3人おります。もちろんアメリカ人ですが、結局日本から彼らの所に情報収集に来るのは我々のような業界人ばかりで、メディアの方は誰もこないらしく、「日本のメディアではサブプライムは問題になっていないの」、などといつもからかわれております。


つまり日本のメディアで報道されている内容は彼らに直接取材したアメリカの新聞やテレビの二番煎じであり、一時情報ではない、という点が実にさみしいですね。

「日経は来なかったけど人民日報は来たよ・・・」、


と言われたときには悪い冗談にしか聞こえませんでした、マジで。


更に余談ですが、益々複雑になっている昨今の金融システムですから、入社3年目程度の担当者や、3年ごとに人事異動で回ってくる記者さんを騙すなんてことはご同業の皆様にとって、赤子の手を捻るより簡単ですからね(笑)。


まあね、正しいニュースソースを確保する、と簡単にいいますが、これは2?3年の担当期間では無理ですね。そのあたりをどうお考えなのか・・・・まあ、まじめに書いてないんだからいいの、なんて開き直られたりしてね(笑)。


ということで本石町さん


http://hongokucho.exblog.jp/


 

メルマガの申し込みにはご登録のお手続きが必要です。

当社に無断で複製または転送することは、著作権の侵害にあたります。民法の損害賠償責任に問われ、著作権法第119条により罰せられますのでご注意ください。

10 comments on “日経の責任は大きい
  1. ぺルドン より
    日・・・

    これだけ急速に、
    金融関係も高度化もしくは複雑化されると、
    記者を育てるよりも、
    専門家を記者にする経路が必要ではありませんか?

    勿論経費は高くつくが、当然のことで一流紙なら甘受すべき良心・プライドのコストではありませんかね?

    ぐっちーさん、
    朝日に安く・・アルバイト並み以下ひょつとしたらタダで・・こき使われてるんじゃござんせんか??
    先駆者は辛いか・・・

  2. けろよん より
    Unknown

    ところで副総裁は一人でも問題ないようなので
    民主党さんは副総裁の定員を1名とする
    日銀法改正案を出してくれませんか

  3. rina より
    推奨ブログ

    経済関係の推奨ブログを教えていただけませんか。

  4. アラン より
    ん?

    日経ってアメリカに特派員いないんですか?

    まあ日経に関わらず日本のマスコミは必ずといっていいほどニュースの本質を誤って伝えますよね。

    おっしゃるとおりネットを通じて有識者の意見に触れられるようになった分助かってますね。

    ぐっちーさんもこれからも金融の伝道師として益々頑張ってください(笑)

  5. 恋のジャックナイフ より
    Unknown

    思うんですけど、取材される金融機関の人にも一部責任はあると思います。ぐっちー氏も「記者さんを騙すなんてことは・・・簡単」と書かれていますが、記者を騙すというような子供じみたことをするから記者も育たないんだと思います。

    記者はアホだ、取材を受ける時間なんてない、とか言いながら、一方で情報はむちゃくちゃ欲しがる。金融機関の人もちょっと高飛車になってんじゃないですかね。

  6. やまさん より
    私も同感です。

    私も同感です。記者の主観を交えてしまうとエロ本以下の価値の情報しか書けない新聞社の責任は大きいと思います。最初から「わたしゃばかでーす」と鼻水たらして間抜け顔で宣伝していればちっとも問題ないのですが…。本当に困ったもんです。

  7. hau より
    Unknown

    昨日の夕刊「波音」もひどかったですね。
    >外国に無関心な若者も増えた
    これは他メディアで報道された「若者の海外旅行減少」というニュースに基づいているのだと思いますが、統計の初歩の初歩すら分からないのかと。
    元データを見ると、減ったのは「若者の数」そのものと「若者の海外旅行者」と「海外旅行者に占める若者の割合」であって、「海外旅行をしない若者」なんて絶対数も割合でも減ってます。

  8. Unknown より
    Unknown

    >「日本のメディアではサブプライムは問題になっていないの」、などといつもからかわれております。

    まあ、今のところは対岸の火事ですからねぇ。ぐっちーさんとかの工作員にだまされてババつかまされて、日本人が大きな被害をこうむった暁には、もう少し真剣な報道になるのではないでしょうか。

  9. 雪斎 より
    Unknown

     昔は「朝日新聞」が夏目漱石、柳田國男、吉野作造を入社させるようなことをしたのです。
     今は、どうなんでしょう。

  10. Unknown より
    痛快なご指摘です

    内情を知る人間として言えることは「新聞記者は、正しい情報を書けば評価される仕事ではない。すっぱ抜き記事を書くことで評価される仕事である」ということ、「3年程度でローテーションされる人事体系は今後も続くだろう」ということです。このローテーションは、日経が「経済紙」である以上に「企業動向紙」であるという体質に由来しています。ぐっちーさんが比較の対象としておられるのがWSJなのかEconomist誌なのかわかりませんが、日本でEconomistみたいな硬派な雑誌はちょっと市場の大きさからみて成立しにくいのではと思います。ご存知のようにWSJの発行元は経営不振で2007年にニューズに買収されました。正しい経済情報を伝える担い手が有名ブロガーになっていくのは時代の流れでしょう。

コメントを書く

* が付いている欄は必須項目です

*

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>

いただいたコメントは、チェックしたのち公開されますので、すぐには表示されません。
ご了承のうえ、ご利用ください。