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The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2009/10/29 18:14  | 金融全般 |  コメント(5)

白塚論文


かんべえ先生に先を越されてしまったのだが、これはスルーするにはあまりにももったいないのであえて取り上げます。

http://www.economist.com/businessfinance/displaystory.cfm?story_id=14649284

この論文、実はForthcomingと書いてある通りまだ出ていません。
恐らく・・・・オフレコですぜ、とちょっと披露したところ、しっかり記事にされてしまった、という感じでしょうか。あのクオリティーペーパーであるEconomist相手と言えども侮れず、という見方もあるかもしれませんが、彼らをもってしてフライングさせるだけの内容だった、とも言えるのではないでしょうか。

おれたちは日銀とは違うんだぜ、と(本当はやばいなと思いつつも)大見得を切ってきたバーナンキが「うっ」、と息をのむ内容、と言えるでしょう。

特に

Mr Shiratsuka’s arguments vary, at least in part, from those of people like Ben Bernanke, the chairman of America’s Federal Reserve, who says there are conceptual differences between Japan’s previous form of QE and the “credit easing” that the Fed is currently engaged in. In January Mr Bernanke said that the Fed’s approach was focused on buying up loans and securities—that is, on the asset side of its balance-sheet. By contrast the BoJ’s approach was focused on the quantity of bank reserves held at the central bank—or the liability side of its balance-sheet. (下線部は筆者)

の部分は興味深い。つまり、アメリカはバランスシートのアセットサイドを使って様々なローンや債券を購入した政策を採用しており、日銀が銀行のリザーブシステムにまつわる量的コントロールを主導した、負債サイドに焦点を当てた政策であった点で大いに日銀の政策と違うのだ、とバーナンキは大見得を切って、今でもそう主張しているのはご存じの通りなんですが、白塚さんは「何言ってんだか・・・・」と。

Mr Shiratsuka, however, sees “striking similarities” between these approaches because the asset and liability sides of central banks’ balance-sheets interact so closely.

おんなじだぜ、ベイビー、と一刀両断。おれはYAZAWAだぜ!

まあ、我々現場の人間がこれまで直感的に主張してきたことでもあるのですが、だからゆえに日本が今抱えているような問題・・・つまり金融機関を救済・延命することはできるんだが、マクロ経済というかその先にある末端(低位という意味ではない)の製造業などにコントリビューションが行き渡らなかった為に長期に渡りデフレを引きずってしまう、という状況にアメリカもなるでしょう、という話。結局セントラルバンクの範疇を超えているんだと僕は思う。白塚さんは日銀マンだからそうは言わないけど。

バーナンキは青いでしょうが、これはこのブログでも前に「日銀がいくらしゃかりきに緩和したところでそれはインターバンクでの話でマクロ全体に及ぼす影響は残念ながら極めて軽微だ」と主張しておりまして、だいぶ反論も頂いた訳ですが、まあ、その通り、ということでありましょうか。

いくらインターバンクを緩めても末端の銀行が現実に何をやっているかはご存じの通りですよね。つまり、くどいようですがそれは根本的に中央銀行の役割の問題ではない・・・ということです。

いずれにせよ、この論文、諸外国の中央銀行、特にバーナンキにとってはあーあ、言われちゃったよ、という意味で実に意味深い内容です。
これが散々ぱらバーナンキの先をいってやってきて、鳥居坂でさんざんコケにされた日銀マンの中から出た、ということに大いに意味がありまして今後ともこういう発信を大いにするべきであります。

それにしてもほら見たことか、と言わない奥ゆかしさ。白塚さん、日本人の鏡でありますな。こういう立ち位置、結構重要です。

白塚さんは日銀のエコノミストにしては珍しく留学組ではないそうです。
ご自分で論文を書いて日本に居ながらにしてドクターをおとりになったという話を聞きました。うーん、やりますね。
因みにラーメン二郎方面のご出身と伺いました。だからどーだ、っていわれればそれまでなんですが・・・・

本件に関しましては本石町さんや、当ブログに寄せて頂いているCRUさんにも是非コメントを頂きたい所でございます。如何でしょうか?

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5 comments on “白塚論文
  1. かざしも より
    ダム

    水漏れはもっての外ですが、梃子でも水が出なかったら、これはこれで立派な不良ダムですよね。金融界の巨大公共事業?

  2. ぺルドン より
    白・・

    高名なるお二人を差し置いて・・汗顔でありますが・・

    欧米の一流の頭脳も、
    わが国の一流の頭脳と遜色がなかった、
    と分かった。
    灰色の脳細胞は日米欧とも変わりなかった。灰色だった。
    ニューロンの絡みと発達に違いがあるにしても。
    常に冷笑と嘲笑の的であり、避けるべきモデルであった・・失われた十年は、あなた方の物でもあった。

    ガイドブックもお役に立たなかった。
    この反面教師はお役に立たなかった。多分、カンニングした報いなのでしょう、間違いの解答を・・

    皆様団体で同じ蟻地獄に墜ちられた。
    這い上がるのはチト難儀であります。インフレというウスバカゲロウの幼虫が頭を出しているのであります。

    ジャパニーズは握り飯で耐えられるのであります。握り飯一個と沢庵が一切れがあれば・・ガタルカナルも負けなかった。竹槍があればB29も怖くなかった・・

    冷や飯に慣れきった日本は、自信を持っていいのでしょうねぇ?!
    お空にはオリーブを加えた鳩が飛んでいる・・・

  3. (・ω・)ノ ウマー

    100年に一度のうねりの中にいるわけだが、景気回復と潤沢に資金を供給しても銀行で資金がストップし、あげくはまた投機に手を染め、再び宴にうつつをぬかしながら経済を混乱に導こうとしている。その先は高額な報酬に課せられた責任と古式に習えば、ビルからダイブあたりが見えてきているが。

    土地バブル・サブプラ他々陰に銀行あり。ぶっちゃけ資本主義の不安定要素として銀行いらね、が進化の過程かも

  4. どうもです。

    最近、ツィッターに傾斜しておりまして、白塚氏の件も「つぶやき」で紹介させてもらいました。まあ、ブログでも良いのですが、この手の議論は一部から強い批判も受けるので、取りあえずツィッターです。いずれブログでも解説する予定です。

  5. KoNan より
    白川総裁と白塚さんの比較?

    ぐっちーの指名でコメントします。CRUのひとり言を書いているKoNanです。考えてみると、2つペンネームがあるようで、おかしいかもしれません。そのうち事情はご説明します。

    さて、バーナンキvs.白塚論争ですが、中央銀行は銀行であり、貸借対照表を、普通の企業や銀行同様持っているということが、余り知られていないと思います。事実として、中央銀行は銀行であり、貸借対照表があります。最近の日銀のHPでは、負債サイドで銀行券(=お札!)が75兆円、金融機関の預金である準備預金が13兆円などが計上される一方、国債69兆円など、資産規模は111兆円となっています。

    単純に言えば、バーナンキも白塚さんも正しいと思います。かつての量的緩和政策のように負債(準備預金)を増やそうとすれば、資産を増やさざるを得ません。今の米国のように、様々な資産を増やそうとすれば、自然に負債は増えます。その意味で、バーナンキと白塚さんは、コインの表と裏の議論をしている訳です。

    あえて違いを際立たせるとすれば、かつての日銀の量的緩和政策の際は、株式や資産担保証券が資産サイドで増えましたが、準備預金増加の裏付けとなる資産増加の主体は国債でした。他方、今の米国では、国債に加え、MBSのように企業・個人の債務に直接関係する資産が増えていて、個人・企業部門の資金繰り面に直接役立っているようにみえます。バーナンキはこの点を強調しているのだと思います。

    ただ、当時の日本の場合、市場で流通する商品は国債が中心で、資産担保証券のように企業・個人部門の債務に関係するものは、余り市場で取引されていませんでした。従って、日銀が今のFRBのように、企業や個人の債務に関係する資産を買い集めようよしても、自ずと限界があったわけです。この意味で、白塚さんも正しいと思います。

    そのうえで、ぐっちーは的確にポイントをついています。要は中央銀行の政策は、たとえバーナンキがいくら強調したとしても、その効果に限界があるということです。実はこの点は白川総裁が明確に指摘しています。今年4月23日のジャパンソサエティNYにおける講演をみると、以下のように指摘されています。

    「マクロ経済政策(KoNan注:マクロ経済政策は、中央銀行の金融政策を含みます)は経済の急激な減速に立ち向かううえで鍵となる役割を果たすのですが、万能薬ではありません。バブル期に蓄積された過剰の整理に目途がつかない限り、力強い経済成長を取り戻すには至りません。同様に、マクロ経済政策は、企業がビジネスモデルを調整できないことに伴う生産性の低下に対処することもできません。この点は非常に重要ですので、若干説明を加えたいと思います。バブル期において、日本経済に蓄積された不均衡は非常に大きなものでした。1980年代のブーム期に、日本の企業は借入れを急速に増やし、設備投資は、1990年までの3年間に年率2桁のペースで拡大しました。しかし、一旦バブルが1990年代初頭に崩壊すると、実体経済面で資源の稼働率が急速に低下するとともに、不良資産が増加し始めました。結局のところ、日本は債務・設備・雇用の3つの過剰を大幅に蓄積していたのです。このような大きな不均衡を解きほぐすのに長い時間を要することは明らかです。」

    この点は今の世界経済にも当てはまるかもしれないと示唆しています。

    結局のところ、白塚さんより白川総裁の方が直裁で大胆である、もしぐっちーが4月の総裁講演に気付かず、今回のエコノミストの記事に気付いたとすれば、いかに日銀の情報発信よりエコノミスト誌の方が影響力がある、という2点が示されたということでしょうか。

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