2006/09/25 09:43 | Weblog | コメント(0)
日本式資本市場
久々に債券の話題をば・・・
先週、国内最長の債券が発行された。発行体はなんとイオン、普通の民間業者が50年の借金を確定するというのだから、かなり無謀である。50年先の民間企業などどうなっているかわかったものではない。事実これまでの最長はあの道路公団の40年債券で、まあ、賛否両論だろうが、道路公団であり、いざとなれば・・・と考えても不思議ではない。
一方今回のイオンである。アメリカですらこの業種は栄枯盛衰が激しく、日本ではダイエーが再生機構送りになるくらいだから、50年先の小売業など、だれもわかったものではない・・・・・。と思っていたら、さすがに日本的な采配がなされていた・・・・ハイブリッド債という特殊な範疇を編み出していたのである。MSCBに続く所謂メードインジャパン商品だ。(ディールそのもの、という点ではアメリカにも存在する。但し、こういった大企業のファイナンスとしては受け入れられず、通常のファイナンスが難しい状況の企業に用いられる。詳細は後述)
引き受けは世界のゴールドマンとみずほ。
50年先が償還の債券、つまり借金ですな、これはあまりにも不確定だろう、という事を逆手にとって、半分を負債ではなく資本と見做す、というなんともすごい話でこれを日本の格付け機関であるR&Iが「A」という格付けを付与するという。これにより投資適格となり、幅広く販売することが可能になった訳だ。
しかし良く考えて見て欲しい。
投資家にしてみると半分資本に組み入れられているので、債券の利息にあたる部分の半分相当が株式配当、つまり基本的に支払い義務なし、という区分なのだ。(株式の配当に支払義務なんてないんですから!) 仮にイオンが明日赤字に転落してしまい、そのまま50年間経営が続いたとなると50年間CB並みの低利の債券を抱えるという状況な訳だから現実的にはこれは債券とは呼べないだろう。実際は、その前に倒産するだろうが、その場合は半分、10億投資をしていたら5億は資本として消えてしまう(株式と同じだから)という計算になり、S&PもしくはMoodysならこれはBも取る事は難しい代物だ。
R&Iは極めて日本的格付け機関で世界でも日本でしか通用しないのでこういうアクロバットが完成する訳だが、なぜイオンなどという極めて景気変動要因の激しい業種のキャピタルにこれだけ高い評価を付けられるのか、全く説明がない。利益縮小による配当停止のリスクなどいくらでも考えられる筈である。
利回り面を見てみると、変動利付きのトランシェで当初10年間にLiborプラス140BP,以降240BPということで「10年経ったら償還されますよ」、という昔聞いたような事をささやいて売っているに違いないが、こういう事情からみればこれを「投資適格債券」と呼ぶにはあまりにお粗末だろう。BもしくはCCC程度の立派なジャンクボンドである。
因みにアメリカでは社債に関していうと100年債券まであるのは事実だが、これは全てDebtに区分され、実際に発行企業は100年間の支払いストレステストにさらされる。利払いを一回でも飛ばせばもちろんその瞬間にデフォルトである。
こういう商品が出てくる背景には、日本にはそういう意味での「セーフティーゾン」にいる巨大投資家がまだまだ存在する弊害があると言っていいだろう。郵貯、簡保が民営化したとはいえ、我々が資金を預けている機関投資家の投資モラルはまだまだ、という現状をよく表したディールである。こういう場合、売る方のモラルが激しく問われやすい訳だが、こういう商品を見るとバイサイドのモラルが完全に野放しになっている現状もまた???と言えよう。
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