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2019/04/19 05:00  | 歴史・法・外交 |  コメント(7)

所有権の歴史(2):ワイマール憲法・ニューディール・日本国憲法


「所有権の歴史(1):ローマ法とゲルマン法」(3/22)の続きです。

前回は、ローマ法ゲルマン法における所有権のとらえ方と近代ドイツのナショナリズムと法学について解説しました。今回は、所有権をめぐる論争が米国のニューディールと日本国憲法に与えた影響をお話します。

※ここから先はメルマガで解説します。アウトラインは以下のとおりです。ただし最後の「歴史学の面白さ」の項のみ特別に一般公開します(一部の記述は簡略化しています)。

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所有権の歴史(2):ワイマール憲法・ニューディール・日本国憲法
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●国民国家とドイツのナショナリズム
●ワイマール憲法における財産権
●ニューディールと日本国憲法における財産権
●歴史学の面白さ

ローマ法やゲルマン法と聞くと、なんだかずいぶん昔の話をしているな、歴史は物語として楽しむのはいいけど、我々とは関係がないファンタジーに過ぎないのでは・・と思ったかもしれません。しかし、これらの歴史的な思想と法制度は、近代の西欧文化の基盤になり、ひいては米国の政策、そして日本国憲法の制定過程にもつながってくるわけで、今回の記事を読めば、決して我々と無縁とはいえない・・ということが分かったと思います。

また、こうした機会を通じて西欧そして米国の文明の基層を知ることは、欧米の諸制度や考え方に対する理解を深め、世界情勢を見る上でも有益です。さらにいえば、所有権については、その歴史性と相対性を知ることで、シェアリング・エコノミーやフィンテックなどテクノロジーの発展に法制度が追い付かない場面で、新たなる法制度を考えるヒントになる・・かもしれません。なお、私が師事したローマ法の権威の教授は、ローマ法の「占有」概念からサブプライムローンを読み解いていました(壮大過ぎてついていくのが大変でした(苦笑))。

私は、歴史の魅力とは、こうした思想、制度、文化、社会、経済といった集合的な記憶を言語化し、それが現代にどうつながるか、という点の考察にあると思います。このようなアプローチに立つと、統計学、人類学、言語学、法学といった諸学問の研究手法と成果を生かし、実証性を伴った豊かな学問的探求が可能になります。

こうした「歴史学」の醍醐味を明らかにしたのがフランスのアナール学派(Annales School)であり、リュシアン・フェーヴル、マルク・ブロック、フェルナン・ブローデル、ジャック・ルゴフといった偉大な歴史家たちです。先に述べたアンリ・ピレンヌもこの系譜に属します。レヴィ・ストロースの構造主義人類学やミシェル・フーコーの知の考古学(アルケオロジー)とも深い関係があります。

歴史というと、「事件」や「重要人物」の動きを叙述するイメージがあると思います。「歴史を動かした」事件や重要人物に着目することは、直感的に分かりやすく、またロマンが感じられるので面白いでしょう。それはそれで一つの楽しみ方とは思います。しかし、個々の事件や人物の役割をことさらに強調して物語を作ることにとどまっていては、「歴史小説」と変わりません。

たとえば日本では、幕末から明治維新の時代が好まれ、その時期の人物評伝や出来事を書き連ねて「歴史」を語る人が多いようです(政治家にも多いように思います)。しかし、それはいわば「素朴な英雄史観」であって、司馬遼太郎の文学や大河ドラマの延長に過ぎません(なお、司馬遼太郎の「竜馬がゆく」の元ネタが、明治のジャーナリスト坂崎紫瀾の伝記と米国の日本研究者マリウス・ジャンセンの研究にあったことは以下の記事で述べたとおりです)。

「プーチンの時代(1):ロシア大統領選挙」(18/3/29)

私は、そうした人物評伝と出来事の羅列に終わらない、より知的な奥行きのある「歴史学」の面白さを伝えたいと思っています。そして、過去を観察するにあたっては、現在の視点と言葉から我々が離れられないことを常に意識することが重要です。英国の歴史家E・H・カーの「歴史とは現在と過去との間の尽きることを知らぬ対話である」という言葉はこのことをよく言い表しています(カーの思想には個人的には共感しない部分があるのですが、この言葉は好きです)。

今回の所有権をめぐる話が、こうした「歴史」の意味と「歴史学」の魅力を知る手掛かりになればうれしく思います。歴史をめぐるテーマはこれからも追い追い取り上げたいと思っています。

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あとがき
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本日配信した記事は記念すべき通算第300号でした。17年8月1日からスタートした本メルマガもここまで来ました。感慨深いものがあります。

読者の方からは「次は300号ですね」というご連絡をいただいておりました。ありがたいことです。ここまで続けることができたのも、ひとえに読者の皆様の応援のおかげです。

購読されている方々もずいぶん増えました(ぐっちー師匠にはまだまだ及びませんが・・(笑))。皆様からのお便りとコメントは大変励みになり、また様々な気づきを得られ、勉強になっています。今後ともよろしくお願いします。

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7 comments on “所有権の歴史(2):ワイマール憲法・ニューディール・日本国憲法
  1. KB より
    面白さの秘密

    「世界情勢ブリーフィングとは、現在と過去との間の尽きることを知らぬ対話を実写化したものである」(ベタなパクリですみません(笑))私にとっては、時空と空間(国境)を自在に行き来できるこのメルマガはまさにこのような感じです。

    日本国憲法にこういった要素と背景があったとは・・・、知りませんでした。共和と民主の対立を語るにも、この知識を抑えることは非常に重要そうですね。AOCはMMTを援用しながら、現代版ニューディーラーを目指しているのでしょうか?
    こういった話はすぐには理解が追い付きませんが、本日のこの視点をひとまず大事にしながら、勉強して(慣れて)いきたいと思っています。

  2. china より
    歴史学

    前半のコラムから期待値マックスにしてお待ちしておりましたが、その期待を裏切らぬ傑作でありました。日本国憲法の財産権・・条文自体を知ってはいますが、「公共の福祉」にそんな歴史があったとは・・・と目からうろこで感激中です。

    「歴史学」も学ぶことの新たな楽しみ方を教えて頂けて大変ありがたいです。歴史を読むだけの2次元的な世界が、異なる学問分野からの多角的なアプローチをとることにより3次元的な世界になるかのような感覚を覚えました。私にとっては新たな視点でとても新鮮でした。
    しかしながら、それには各学問のアプローチ法を知っていることがおそらく前提なので、ここは更なる努力が必要となりそうです。でも、その先に知的好奇心をくすぐる世界が待っているという事であれば、努力も楽しみに昇華できるでしょうか・・。

    余談ですが、例のごとく地図やら他資料に脱線しながら本日のメルマガを読んでいたのですが、アングロ・サクソンがグレートブリテン島に侵攻しました、のあたりを調べていた時に恥ずかしながら初めて「七王国」の存在を知りました。これがきっとGOTのモデルなのですね。という一人で静かに喜びを噛みしめるプチ発見をしました。

    通算300号、おめでとうございます。
    何事も継続することは大変なことだと思うので、ただただ素晴らしいの一言に尽きます。
    それも単に継続しているだけではなく、メルマガの中身を進化させてきているのがすごいですよね。文章も回を重ねるごとに読みやすく洗練されてきていると思いますし、ミスリードを防ぐためのカッコ書きなど、毎回読者目線で丁寧に書いていらっしゃるのだろうなと感じます。ありがたいことです。
    ということで、これからもJDさんのメルマガより知的刺激を賜りたく、プレッシャーをかけるようであれですが、今後ますますの進化とご活躍を心より期待しております。

  3. 新参者 より
    いつもありがとうございます

    大変勉強になっております。
    小生にとって「歴史」を学ぶとは、時系列に並んだ事象を古いものから順に並べる作業に過ぎなかったんですね。それでは、味気なくて眠くなるわけです。
    ただ、そんな残念な思考回路を引きずって半世紀近く生きてしまったため、今すぐに「実証性を伴った豊かな学問的探求」をすることは難しい・・・。どうか引き続き、多くの気付きが詰まった記事を配信し続けてください。こちらも、めげずに思考の訓練を続けていきます。
    300号、発刊おめでとうございます。これからも、応援しております!

  4. 那須の山奥の兄ちゃん より
    ウッドワード感想

    450ページくらいまでしか読んでいないのですが
    だいたいこの本の評価の感想を(笑)

    JDさんのメルマガに書いてあることが
    殆ど事実だと確認できました
    それだけこのメルマガが素晴らしいこと
    と思います

    ただし
    ①ウッドワード本人はそれほどトランプは嫌いではないと思う?(笑)
    ②側近ははっきりいえば無能

    ①に関していえば
    トランプの素晴らしい言動に関しては描写がすごい、引き込まれる。
    反対に悪口に関しては素気なく書いている
    本人は嫌いと言っているが、なんか本当に嫌いなの? と思う
    ②には辛らつに書きます
    無能なサラリーマンが居酒屋で上司、会社のわるくちを言っているのと
    同じレベル。
    気持ちはわかるが、まず、トランプの言っていることが
    まちがいと決めつけすぎ
    1.貿易赤字が正しいと彼らは言うが
    国から資本が流出することが正しい、とインテリぶって言っているが
    そんなのが正しい訳がない、個人的にはトランプのデタラメというのに賛成票(笑)
    2.安全保障にゼニをかけすぎ
    将来、起こるか起こらないもの、万が一の保険というものに家計では1-2パーセントが通常
    国家で20-30パーセントも割いているのはおかしい
    結果が出なければやめるべき、というトランプの主張が間違っている
    とは思えない
    それを正しいと思い込む側近連中の頭のほうがおかしい
    反対に減税はすぐにやるって
    単なる既得権益の論者だろ、としか思いません
    クビになるべくしてクビになって
    居酒屋というインタビューでクダを巻いているのと一緒のレベル
    全体の構図をみれば
    安全保障にカネをかけすぎ、というトランプの言っていることに
    まちがいがあるとは思えない
    3.移民政策は
    安全保障をカットすれば
    アメリカの入国を規制するほかない

    というように
    個人的には思います

    トランプが主人でその部下にはぜってーなりたくないけど
    トランプは自分の意思を伝えるのが下手くそすぎ
    また、人間的には、おかしいことがたくさんありすぎ(笑)
    でも
    側近は部下なんだから
    意図をきちんとくみ取るべき
    トランプを自分の思い通りにならないからと
    いってバカ認定する前に
    自分の馬鹿認定を先にしなさいよ
    ということです(笑)
    どうせ、思い通りになんかなんねーという
    当たり前のことにこの頭のよい連中はいつ気づくのだろーか
    と思った(笑)

    ともかくトランプはまともなことを言っているように
    思う、というのが感想
    逆に無能な部下連中がトランプを貶める運動を行っているというのが
    この本の感想
    とくにバノンって単なるバカだろうと思う
    ほかは
    どこの国、どこの会社にでもいる
    勘違い野郎なんだろーね、と思う
    インテリ、エスタブリッシュメントというのは
    勘違いの奴が多いというのが感想です
    おめーはしょせん、使われる身で
    偉そうなこと調子こいていってんじゃねーよ
    と思う

    が、感想です
    裏話の話は面白い
    でも、絶対的に全面的には信用しない、きっぱり。
    良い本をご紹介していただきありがとうございます。

  5. china より
    GOTS4

    今シーズンも急転直下の展開で、S4を見終えジェットコースターに乗った後のような放心状態です。ジェイミーの更生を願っている場合ではありませんでした。

    なんといっても今シーズンはジョフリー。彼のヘタレぶりと勘違いぶりは今更言うに及びませんが、今回とても興味深かったのは、彼のラストシーンにおいて1ミリも心が動かなかったこと。あのラムジーにですら、彼が出生にコンプレックスを持っているのだなと感じたときは、3ミリくらいですが心が動いたものですが、ジョフリーに関して皆無。むしろ爽快感すら覚えてしまった自分に若干戸惑いましたが、それくらい彼に対してはストレスを貯めていたということでしょう。しかしながらここまで視聴者にもれなくストレスを貯めこませ、最後にそれを真逆の感情へと見事に転化させた、ということであれば、ある意味ジョフリーの演技はすごかったのかもしれない・・と今更ながら考えたりしています。(いや、やはりあのキャラのおかげかな・・)

    マージェリーも権力欲がすごくて怖いなと思います。サーセイより若い分、伸びしろがある気がします。でも男の人から見るとどうなんでしょう、このタイプの女性。そこそこきれいな子がニコニコ優しく接してきてくれたら、案外トメンみたいにコロッと落ちてしまうのでしょうか。
    決闘裁判はある意味ラムジーより見ていて辛かったですね。画的に辛いのは勿論のこと、ちょっと優勢に進んでいて「あれ、イケるかも?」と期待を持たせられた分、結末にはがっかりさせられました。
    シェイの裏切りも辛かったな。ティリオンとの出会いを考えるともしや最初から?と勘ぐってしまいますが、いやいや、彼らの愛情が本物であったと信じたい。
    イグリットが最後に矢を放つのを躊躇したシーンが一番ジーンときましたね。
    アリアがシーズンを重ねるごとにどんどん逞しくなっていくのも目が離せません。
    毎シーズン見終えるごとに、前シーズンがほんとに遠い昔のように感じますね。
    S4を終えて折り返し地点まで来てしまいました。今後1シーズンごと見終えるのが惜しくなっていきそうです。

  6. KB より
    木庭顕教授

    こういった方の論文等を見る機会もないので、ちょっと見てみたのですが、日本の法律について説くにあたり、ローマ法から、言語学、社会学等を出して解釈・解決法を導き出す方法があるのですね。これまでの、JDさんのメルマガの雰囲気ともかぶりました。

    相続や債権・債務、預金の話が、こういった他の学問とリンクしながら述べられていて、なるほどそういう世界があるのか。という発見がありました。(レベルが低いですが・・ご容赦を)

    JDさんのメルマガのように、丁寧な説明がないので、つまるところ何を言っているのか理解できないのですが(笑)、判例や条文だけが「法」ではないんだ、という雰囲気は味わいました。

  7. JD より
    GOT

    >chinaさん
    さすが、存分に楽しんでいるご様子ですね。
    ロブ・スタークの衝撃も乗り越えられたようで良かったです(笑)。
    シーズン4、そのへんの話なんですねえ。
    シーズン5からまたとんでもないニューキャラクターが出てくるので(もうご覧になっているかもしれませんが)ご期待下さい。

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