■ トランプ米大統領、コーミーFBI長官を解任（5月10日付BBC）

米国を震撼させたトランプ大統領によるFBI長官の更迭劇。これ自体は大統領の権限によって制度上正当に行われており、手続き上の問題はありません。

しかし、ジェームズ・コミーFBI長官本人に事前通告もなく電撃的に行うという強引にして失礼なやり方（長官は出張先のLAで知り、自費で帰る羽目になった）、解任の理由に不可解な点があることから、クレムリンゲート問題の拡大を防ぐために行った措置ではないか･･･という疑惑が寄せられています。

もしそうであれば、大統領が保身のために司法の独立を破壊した行為であり、法の支配、米国の精神を揺るがすという意味で、歴史的なスキャンダルになりかねません。このため、米国では大きなショックと危機感を与えています。

解任の理由については、まず、トランプが解任を通告した書簡には司法省の進言に従った、とあります。その進言を行ったのがロッド・ローゼンスタイン司法副長官。そのローゼンスタイン副長官が述べた進言の理由は、コミー長官によるヒラリー・クリントンのEメール問題の扱い方に問題があったことです。

具体的にローゼンスタインが問題視したのは、FBIの捜査について、「打ち切った」（16年7月5日）、「再開した」（10月28日）と途中経過を説明してきたことです。捜査の状況など公表する必要もないのに、司法省の方針に反して、コミー長官は自身の判断で好き勝手に述べてきた･･･それが権限逸脱だと言っているのです。

ところが、トランプ自身は、ヒラリーのメール問題の捜査を再開した発言に対しては支持する旨述べています。自らの勝利につながったので当然の振る舞いではありますが、ここは、ローゼンスタインの説明とは完全に食い違っています。

しかも、トランプの書簡には、自分（トランプ）がクレムリンゲートの捜査対象でないことを3回も説明してくれて感謝している･･･などとクレムリンゲートの捜査拡大が解任に関係していることを示唆しています。これらは公式文書から判明している情報ですが、この他にも、関連する事実として、今回の解任はコミー長官がクレムリンゲートの捜査拡大を発表した直後に行われたこと、トランプの一連のツイートなどを見ると、やはりクレムリンゲートの隠ぺいが目的だったのでは、と推測させるものがあります。

なお、トランプはコミー長官が「目立ちたがり屋」であることも解任の理由として述べました。これはローゼンスタイン副長官が問題視したスタンドプレーに通じるものがあるのかもしれませんが、コミー長官が2メートルを超える長身であるところ、トランプは自分より身長が高い人は自分より目立つので嫌うのが理由･･･なる奇説もあります（笑）。

このように、公式文書だけを見ても不可解な点が多く、おそらくこれから事実関係が判明してくる部分もあり、今の時点ではっきりした評価をすることは難しいです。このため、識者の間でも、トランプの決断を支持する声もあり、割れています。

ただ、この問題がトランプ政権にとって大きなリスクになる可能性は大いにあります。この点については次回述べます。