2017/01/23 00:00 | 米国 | コメント(2)
トランプ新大統領の就任式
1月20日、とうとうこの日がやってきました。世界が注目したトランプの大統領就任演説。その結果は・・・まあ、予想どおりでした。
まず内容は、報道ですでに出ているとおりですが、目新しい点はありません。選挙戦中から繰り返してきたメッセージそのままです。
これを今更どうこう論じる必要はないでしょう。むしろ、就任演説においてなおこれまでと何も変わっていないという事実が注目されます。
大統領の就任演説とは、本来、「戦い」を終わらせるものです。選挙選においては、様々な利益の代表が現れ、激しい議論を交わします。それは往々にして醜い戦いになります。利害が対立する者同士が国民の支持をめぐって争うのですから、これはある意味で当たり前のことです。
しかし、選挙が行われ、結論が出れば、戦いは終わります。そのあとは、国民は一致して同じ方向に向かわなければなりません。そのためには、勝者は、敗者を見捨てるのではなく、これを取り込まなければならない。戦いの中で増幅した憎しみを癒さなければならない。それが民主主義です。
そして、就任演説とは、国民の憎しみを癒し、国家の分裂を修復するための貴重な機会であり、儀式なのです。過去の米国大統領の演説を見れば、いずれも国民の統合、国家の統一性の回復に重きを置いていることがわかります。
こうした民主主義と就任演説の意義からすると、いかにトランプの演説が異例であったことが分かります。
彼のメッセージは、「自分は米国を偉大にする」「自分を信じて欲しい」「自分を信じられる者はついてこい」です。そこには、自分に異を唱える人たちに対するメッセージがありません。
まあ、これも予想どおりで、驚きはありませんが、相変わらず不確実・・・ということは言えます。より正確に言えば、やりたいことはある程度見えているが、どう実現するのか、実際どこまでできるのかが不明・・・ということですが。
ここまでは客観的な分析ですが、少しだけ私個人の印象を述べると、多くの人が、これが米国の新時代だ、ここから世界は新たなステージに入る・・・といったすごいインパクトを強調していますが、そうなのかなあ、という、ちょっと冷めた思いです。
たしかに、こんな「わがままな米国」がとうとう出現してしまったのか・・・こんな日が来ることもいつかはあるとは思っていたけど、まさかこの日が来るなんて、という思いはあります。
日米同盟については、かつては左派から強く批判され、どちらかといえば米国べったりはいかん、というムードが国内では主流だったように思いますが、これに対しては、そんなことを言って、米国が本当に日本を見捨てたらどうするのか、という反論がされていました。
私自身も、日米安保協力関係を「同盟」と呼んではいけない、などと言われた時代から外務省で日米関係を担当し、ワシントンDCにもいましたから、この頃の議論には強い思い入れがあります。
日米同盟を批判する人たちは、「米国が日本を見捨てるなどあり得ない」という甘えた認識に立って言いたい放題してきたわけです。それが現実逃避であることは自明でしたが、ただそうは言っても、やはり米国は大丈夫だろう、最後の最後はそこまでには至るまい・・・という感覚は、米国が日本を見捨てたらどうするのか、と警告する人たちにすらあったと思います。
その根底にあったのは、米国の国益と思想潮流(「ウォルター・ラッセル・ミード 『Special Providence』」書評参照)を考えればそこまでの一国主義はとれないはず・・・という認識です。
しかし、これほどに「わがままな米国」、突き抜けた一国主義を打ち出す政権の誕生は、その常識を上回るものでした。そういう意味で、かつてない事態に世界と日本は直面しているといえます。
しかし、これが本当に米国の姿を体現しているのか、これが新時代の米国の姿なのかといえば、今の時点で判断するのは早計でしょう。
就任直前の時点ですでに51%の国民が「支持しない」と述べています。また、このHPではトクヴィルやブライス駐米英国大使の発言を引用しましたが、米国は、揺り戻しが激しい国です。極端な方向に走ることもあるが、自律的な力が働いて元に戻る、ということを繰り返しています。
とりあえずは1期4年は付き合わざるを得ませんが、後から見ればこれも米国の一側面を反映した時代だった、と言われて終わるのかもしれません。それどころか、4年も続かない可能性もあります。
もちろんこの政権の一挙一動には最大限の注意を払ってウォッチする必要があるのですが、同時に、果たしてこれがどこまで米国のファンダメンタルに関わるものなのか、4年あるいは10年のスパンで見たときはどうか・・・という冷めた目をもつことも重要と思います。
まあ、そうはいっても、現実の生活は一日一日が勝負です。私も毎日の動きを見るのが仕事なので(笑)、今後もきめ細かくフォローします。今年は米国への長期出張も検討しています。
今更ですが、トランプの人物像を知る上で有益な一冊。
トランプ本はいろいろ出ていますが、内容の安定感、包括性、客観性からはまずはこれが間違いないでしょう。
最後に、就任式といえば、私は2005年にワシントンDCにいて、ジョージ・W・ブッシュの二期目の就任式を現場で見ています。
イラク戦争で上昇した支持率も51%まで低下し、すでに一時の勢いを失いつつありましたが、それでもこの就任式の時点では国家が一致団結することの高揚感がありました。今回の就任式とはだいぶ違います。
まあ、ここで言いたかったことはそれではなくて、寒さです。この時期のワシントンDCの寒さはすさまじいものがあります。正直、私も、寒さのせいで外に出たくないな・・・と思ったほどです。
その寒さがどれほどのものかということでネタになるのは、ウィリアム・ハリソン第9代大統領。コートを着用せずに2時間演説し、そのせいで肺炎になって一か月後に他界したという、ある意味伝説の人物です。私なんかは、コートを着ないであの寒さの中で2時間いるだけですごいなと思いましたね。
東京も、天気は良いですが、とにかく寒いので、からだには気を付けましょう。
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2 comments on “トランプ新大統領の就任式”
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外交的にはオバマが警察官辞めたといういう状態の継続ですよね。でも今後は用心棒だとはっきり言い換えた、解りやすい。となると子分はカツアゲ覚悟しなければならない。ぐっちーが言うようにJAも解体かも。
戦略は大転換だ。敵視をロシアから中国に変更し、やりたい放題を抑える。プーチンが以前NATOに入ろうとした筋書も選択肢だ。ティラーソンはこれをやるのに最適か。G8も復活?メルケルの判断が注目だ。それだと最大の中国潰しになるな。インドと日本もオブザーバー以上の準会員で世界平和は取り戻せそうだ(笑)。習近平とオバマははそうされるだけのことをやってしまった。
ただ中国で飯を食ってきた奥の院が、経済で混乱するのを承知でこれを認めるとは思いにくいしロシアでは食っていけないと思うが、中国に見切りをつけたので、トランプにOKを出したのだろうか。ティラーソンはロックフェラー直結だ。
レーガンの時と同じように、中国を軍拡競争で終わらせる思惑もあるのだろうか。トランプの理想は今さらながらの冷戦時代の古き良き時代だとすれば、中国をその相手に仕立て上げなければならないが、中国は自分で立候補している。笑
結局、中国とdealし子分のカツアゲで終わったということでは困るな。せっかくトランプが出てきたのだから、ここまでやってもらわないと。それだけのメンバーを閣内に揃えたと思うので。
肺炎…お気の毒に…。
この政権、面従腹背が蔓延り、背後から遣られるのでは…。