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2016/02/17 00:23  | 米国 |  コメント(6)

ウォルター・ラッセル・ミード 『Special Providence』①


『アメリカの反知性主義』の書評でも述べましたが、米国は難しい国です。我々の生活には、あまりにも多くの米国的なものが溶け込んでいます。またビジネスや勉強で米国に関わる日本人も沢山います。

このため、我々は、米国のことをよく知っていると思い込んだり、米国人とはこんな人たちだというイメージをもっていますが、この思い込みやイメージは簡単に裏切られます。米国に深く関われば関わるほど、様々な姿が現れて、一口で語ることはできなくなります。

一つ言えるのは、米国は多様性の国ということです。海岸部の米国と内陸部の米国は、これが同じ国なのかと思うほど違いますし、同じ都市、州の中でも、民族、宗教、思想、文化が混在している上、最近は国民の分裂(Divided America)が社会現象として認識されています。

したがって、米国を理解するためには、まず、この多様性を受け入れ、その内容を丹念に追っていくことが必要になります。米国外交を考える上でも、この多様性の観点を外すことはできません。

孤立主義(モンロー主義)なのか介入主義(普遍主義)なのか。民主主義・人権といった普遍的価値観を重視するのかリアリズム(パワーポリティクス)なのか。覇権志向(ヘゲモニー)なのか多極志向(バランス・オブ・パワー)なのか。米国の外交は、その時代や対象によって様々な顔を見せます。

この一貫性の欠如と、同時に古くから流れる思想の潮流を理解する上で、大きなヒントを得られるのがこの本です。

■ Walter Russel Mead 『Special Providence: American Foreign Policy and How It Changed the World』

著者のウォルター・ラッセル・ミードは米国の政治学者であり、著名なシンクタンク外交評議会(CFR)の研究員です。フォーリン・アフェアーズにたびたび寄稿し、ニュース番組にもコメンテーターとしてよく登場します。

タイトルの「Special Providence」とは「神の恩寵」という意味で、オットー・フォン・ビスマルクの「God has a special providence for fools, drunks, and the United States of America.」という発言に由来します。ちょっと解釈が難しい発言ですが、米国のようなナイーブな国が曲がりなりにもそれなりに外交を展開しているのは神の御業であるとビスマルク一流の皮肉を込めて述べたようです。

皮肉かどうかは別として、本書の著者ミードの意図は、ビスマルクの言うように、米国は特別な国であり、それが故に米国の外交は成功してきた、という一種の「アメリカ例外主義(American Exceptionalism)」を示すことにあります。ミードによれば、米国には以下の4つの外交思想の潮流があります。

ジェファーソン主義
フランス、大陸国家、国内志向・孤立主義、農本主義、南部(バージニア貴族)、地方分権(州)、(伝統的な)民主党

ハミルトン主義
イギリス、海洋国家、国際志向・自由貿易、重商主義、北部(ニューヨーク)、中央集権(連邦)、(伝統的な)共和党

ジャクソン主義
ナショナリズム、ポピュリズム、軍事重視、フロンティア、(現代の)共和党

ウィルソン主義
国際主義、普遍的価値(民主主義・人権)重視、(現代の)民主党・ネオコン

何のことかと思われるかもしれませんが、これらの思想の潮流は、それぞれの潮流を体現する政治家に託されて表現されています。雑な言い方をすれば、これらの政治家の思想、その時代の背景を知れば、米国の外交の基層を理解することができるということです。それぞれの潮流の具体的な内容については次回以降説明します。

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6 comments on “ウォルター・ラッセル・ミード 『Special Providence』①
  1. ペルドン より
    その見方・・

    オーソドックスで・・
    最近・・崩れかけている・・
    今の予備選挙で・・顕著に表れている・・
    との意見も・・あちらの専門家間で・・出ていましたね・・・(笑い

  2. へルドン より
    オバマ予備選挙に介入

    公然とトランプを非難・・
    トランプ陣営・・歓喜の声・・
    大統領が予備選挙で・・他党の予備選挙候補者・・格下を攻撃するのは・・初めて・・
    専門家の読み・・トランプを共和党指名者にして・・ヒラリーで叩く・・落選させる・・
    返す手で・・ヒラリーを間接支持・・

    その読み通りに・・逝くでしょうか・・・??(笑

  3. JFKD より
    ネオコン

    ネオコンは③の共和党ジャクソン主義だと思ってました。キッシンジャーもネオコンと親和的に見えました。彼は欧州時代はウィーン体制のバランスオブパワーを研究し、米国大統領補佐官時代は中国を引き入れたパワーバランスを構築し、冷戦に勝利したように見えます。上手く持論を応用したような感じ?。日本にとっては軽視される悲しい一歩の始まりでしたね。

  4. JD より
    ペルドンさん

    まず基本を押さえることが重要です。最近の分析手法は次回以降に述べます。

  5. JD より
    JFKDさん

    ネオコンは、価値観主義とパワーポリティクス主義のミクスチャーですね。価値観主義に関しては、同盟国重視につながるので、実は日本にとっては頼もしい人たちという一面があります。もっとも、信頼に応えないといけないという点では、しんどい人たちということになりますが・・笑

  6. 下北のねこ より
    原点回帰?

    もしかして、共和党について今までニクソンさんやキッシンジャーさんの対ソ冷戦期やロナルド・レーガンさんのカウボーイ的なイメージで勘違いしてたのかなって、この記事見て感じました。
    とっても昔の人でたぶんリアルではわからないと思いますが、ネルソン・ロックフェラーさんを思い出しました。(最近の宮崎謙介議員を見ても連想しちゃったんですが、浮気って命に関わることもあるんだよね~、宮崎さんは心臓に毛が生えていそうだけど。)
    はっきり言って、ニクソン&キッシンジャーやレーガンさんとは対極にある人です。この人の系統はパパ・ブッシュさんもそう言われてましたが、ロックフェラーリバブリカンって呼ばれて共和党の癌なんて言い方もされていたくらいで、正統ではないんだろうとこの記事を読むまで思っていたのですが、きれいにハミルトン主義に該当するように見えます。
    となると決して異端ではなかったのかなって思えます。
    今の共和党主流派もハミルトン主義に近い考え方になってきているようにも思えるのですが。

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