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The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2016/08/31 00:00  | 映画・文学・芸術 |  コメント(12)

映画『シン・ゴジラ』


映画『シン・ゴジラ』を見てきました。面白かったですね。さすが庵野英明監督。その作品への思い入れ、細部までのこだわりと、それをエンターテイメントに昇華する力量に唸らされました。

物語の序盤に内閣官房の危機管理センターが出てきますが、実は、私は以前、ここで働いていました。映画の中で出身官庁のゼッケンをつけている人たちが登場しますが、私もああいうゼッケンをつけて、危機が起きたときの初動の訓練などしょっちゅうやっていたのです。

もちろん、実際に危機(多くは地震などの自然災害、まれに核実験やミサイル発射など・・・東日本震災と福島原発は経験せず)が起きて、昼夜問わず対応したことも何度もあります。

そんな元インサイダーの私から見ても、あの官邸周りの動きは、本当にリアルです。よく研究されていると感心します。

おそらく、最初に皆さんの印象に残るのは、政府の手続のめんどくささ、重たさでしょう。何を決めるにしてもまず会議。そのために必要な準備の膨大さ。官庁の厳密な縦割り。会議の後には記録を残し、関係者にシェアをする。大変な労力です。

縦割りについては、主人公の総理補佐官が、このような対応が至急必要だ!とカッコよく叫んだ後、官僚が「今の指示はどの官庁に対して?」と聞きます。これは、私も、まったく同じ疑問が頭に浮かびました(笑)。

映画の登場人物も言っていますが、こんなことをやっている場合ではない・・・と思うでしょう。会議を開いている間にゴジラに踏みつぶされるではないかと。

しかし、これも映画の主人公が言ってましたが、どんなに不毛であっても、法治国家である以上、法定の手続をふむことは絶対に避けては通れません。先ほどの官僚の滑稽に見える発言も、官僚であれば当然の感覚というか、むしろ、そういう風に頭が回らなければプロとは言えないのです。

ただし、この映画が面白いというか、良くできていると思うのは、不毛なことばかりして、政府は何もできない・・・というありきたりのシニカルな結論に終わらないところです。

この映画に出てくる政府の関係者は、途方もなく面倒で不毛な手続をひたすらに通しながら、それに終わらず、最善の結果を実現するために、具体的な行動を導くまで、必死にもがくのです。

ただ会議だけをやって終わるのではない、現場が最善の行動をとることができるよう、無制限に必死に頑張る・・・これが官僚や行政のトップのあるべき姿です。実際、日本の政府はこんな感じで動いているのです。

しかし、手続が重すぎると、これに労力を割かれ、まともな意思決定や行動ができなくなってしまうことは否定できません。

したがって、起こりえる事態をあらかじめ想定し、そのための手続を事前にどこまで合理化・効率化できるか、言い換えれば、実際に危機が起こったとき、現場にどこまで手続的な負担をかけずに、柔軟、機動的に動けるようにできるか、そのための仕組み作りが何よりも重要なのです。

安保法制も、こうした文脈で検討されるべき制度でした。たしかに、法治国家である以上、合憲性に関する議論は避けては通れない問題です。

しかし、極限までに危機的状況に陥ったときに現場で対応する者の切迫感、自らの判断や行動、そのスピードが国家と国民の損害に直結する重大な責任を負うことの緊張感、これは、やった者でなければ分かりません。この切迫感と緊張感のプレッシャーに耐えて、クオリティとスピードを最大限に高めた判断を行うために必要なのは、とにかく、あらかじめ回避できる手続的な負担をできるだけ取り除くことなのです。

国家のリソースは最初から所与のものとして決まっています。行政の役割は、それを極限まで生かすことであり、また、それに尽きるわけですが、それができるかどうかは、平時からどれだけの準備をしておくかで大部分決まります。

安保法制に関していえば、政治的な駆け引きもあり、様々な議論を経て内容が複雑化し、結果として、現場では使いにくいものになってしまった、とも批判されます。

ただ、起こりえる危機を起こりえないものとして現実逃避することをやめ、真摯に現実に向き合い、危機が起きたときに現場がいかにうまく動けるようにするか、その準備をするための努力はいとわない・・・そういう姿勢を示し、国民の理解を得たことは、一つの成果でしょう。

映画に戻ると、本作品は、危機的状況における国家の判断と手続の大変さ、それに関わる実務家の苦労がよく分かるという意味で、優れたシミュレーション映画ともいえます。アクションシーンも素晴らしいですが、こうした統治機構のリアリティも意識しながら見ると、より面白さが増すでしょう。

あまりに登場人物の心情に寄り添うと、ストレスがたまるかもしれませんが(笑)、個人的には、そうした感覚を大事にして欲しいと思います。

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12 comments on “映画『シン・ゴジラ』
  1. ペルドン より:
    ゴジラ世代

    JDはゴジラ世代か・・

    庵野監督・脚本も・・官邸周辺の事情・雰囲気・・
    現場の人・・例えばJDなんかに取材せねばワカランナ・・
    JD・・一枚噛んでる・???・・・(笑

    正直に告白してくれれば・・見に行くぞ・!

  2. パードゥン より:
    金は法よりも強し

     ベルドンさん書いた方向ですね。 
    同盟国アメリカや友好国の日豪を気にして
    いられない。  まずは国益だそうです。
    まあ、アメリカだって、北の拉致ではあからさまに
    自国脅威の核優先で国益は明確でしたから世界標準でしょうけど

     ”比外相「国益最優先」…南シナ海対中妥協を示唆”

    国益的には、日本も鳥島の弱点があるから、
    比を応援しすぎたかも  中国の高笑いになるのかな

  3. パードゥン より:
    北朝鮮、副首相を処刑

    北は処刑だの、砲弾で爆破だの凄い話が続きますが
    これって、実際にやられてんですか?
    判決と実施とは別で、独房に入れられてるのでなくて?
    JDは情報を持ってますか?

     イラクと違って実際に大量殺戮兵器を持っているだけに
    万一の場合は、ゴジラですまない
    官僚が腐心する必要はなくて、いざという時に政治家が
    責任をとる覚悟を示せるかでしょ?
    後で逃げちゃいそうだから、法的な確認に拘るのが本音(笑)

  4. パードゥン より:
    沖縄でも金は強し

     区長「仕方がない」…米軍基地の一部返還

    基地を返還してもらって嬉しいのかと思ったら
    財源が減るのでそのまま租借してほしいと要望中

    軍の移転はしてほしい、但し租借料はほしいは
    無理筋   沖縄は基地の割合が大きいから
    土地があけば活用策はあると思いますが、
    返還要求の間、構想をねってこなかったのですかね
     民間でも使用目的のない借地の返還要求は
    難しいのですけど

  5. 空の財布 より:
    今日、観てきました。

    JDさん、「長谷川 博己」役で主演してましたね…(笑)

  6. 空の財布 より:
    感じたこと。

    日本人による日本人のための映画。
    本来的に各国でそうあるべきで、そうだったはず。
    それがハリウッドのゼニ儲け主義で、言葉がなくても通じる、まあ、音楽はそうなんだが、映画で、自然、アクション物、暴力物が主流になる。
    監督、日本のCG技術力。
    観客皆、見入っていたと感じました。

  7. メルマガ読者 より:
    仕組みに無駄が多すぎる

    いつも楽しく拝読させて頂いております。

    JDさんが所属しておられたような意識も能力も高い人たちが集まった部署とちょっと話の次元が違う話になりますが・・・。

    民間自営業者が接する大多数の地方公務員は、既存の仕組みにいかに無駄で不合理な点が多くとも、「決まりだから」と開き直って、それが民間の経済活動の足かせになっているのに何の問題意識ももっていない人が多すぎるように感じます。

    パブリックサーバントなら、不合理な仕組みは改善する努力をして然るべきと思いますが、私が接するお役人の大半は、民間人から見たら夢のような退職金と年金まで大過なく現状維持で仕事をこなして逃げ切ることしか眼中にないように見えます。

    お役所が時や社会の変化に応じて柔軟に変われる組織だったら、経済も人口も社会福祉も、こんな事態にはなっていなかったでしょうに。グッチーさんがいつもおっしゃるように、人口動態は極めて予測しやすい指標なのですから。おまけに年金や原発をみても象徴的ですが、誰も責任をとらず、ツケはいつも国民が払うことになります。

    私は40代ですが、この国の政官には期待しても無駄だとあきらめています。国民の義務と思って選挙には行きますが、いつも消去法。仕事に関しては、既存の仕組みのなかで、いかに自分の資産を稼いで節税するか考えていません。

    すみません。何も法令違反は犯しておらずそれなりに納税しているのに、お役人には定例指導だなんだと仕事の邪魔をされてばかりいるので、思わず愚痴ってしまいました・・・・。

  8. JD より:
    ペルドンさん

    さすがにゴジラ世代ではありません。笑
    ハリウッド版ゴジラはリアルタイムでしたが。
    見に行ったら、私が発見できるかも・・

  9. JD より:
    パードゥンさん

    講演会でのツッコミが怖いですね・・・笑

  10. JD より:
    空の財布さん

    お恥ずかしい・・・笑
    長谷川博己、大人気ですね・・・

  11. JD より:
    メルマガ読者さん

    おっしゃること、よく分かります。
    残念ながら、そういう役人が多いのも、たしかに現実です。
    そういう人しか集められない職場もある、という面もあるかもしれません。難しい問題です。

  12. ペルドン より:
    本人認識マーク

    上半身裸で・・出演しましたか・?

    石破元大臣・・週間朝日で苦言・・
    今度・・制作シンシン・ゴジラに役立てて欲しい・・

    軍事専門家が・・レーダー誘導装置も持たん癖に・・
    中進諸国でさえ持っとるのに・・御冠・・・(笑

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