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The Gucci Post [国際政治・経済・金融 × プロフェッショナル]

2016/08/19 01:15  | 中国 |  コメント(9)

南シナ海の仲裁判断の衝撃③:日本の選択肢


「南シナ海の仲裁判断の衝撃②:国際法の戦い」の続きです。

まず、コメント欄で、JFKDさんから、沖ノ鳥島はどういう扱いになるのか、というご質問がありました。これは重要なポイントで、前回も指摘しようと思っていました。

沖ノ鳥島は現在無人島であり、満潮時には一部の小島を除いて海面下に隠れてしまう状況にあります。しかも、これらの小島も、侵食されて海面下に隠れるおそれがあり、人工的にこれを押しとどめている状況と聞きます。

前回の記事で述べた仲裁裁判所の基準に従えば、継続的な定住の可能性があるとは言えないでしょうから、「」に該当することになりそうです。まして満潮時に隠れるとなれば、「岩」の中でも、領海すら設定できないという地形に該当します。

仲裁裁判所の「岩」の判断基準には、「in its natural condition」という限定があるので、人工的にこれを食い止めても意味があるのか不明です。したがって今回の仲裁判断は日本の領土にも直接の影響を与える可能性があります。日本としては仲裁判断の射程をできるだけ限定したいところです。

もう一つ日本外交に直接の影響が及ぶポイントとして、今回のフィリピンの提訴の手法を真似して、日本が何らかの手段に訴えることができるか、という議論があります。

フィリピンの提訴は、国連海洋法条約が定める紛争解決の手続きに基づきます。裁判所が締約国の提訴を受理すれば、相手方の締約国は裁判を回避できず、裁判を欠席しても判決は法的には相手方を拘束します。

ただし、締約国は、境界画定に関する紛争など一定の事由に該当する場合には、この手続きに服さない旨、あらかじめ宣言できます。これらの事由に該当する場合には、裁判所の管轄権は認められず、裁判を回避できます。

国連海洋法条約の締約国である中国は上記の宣言を行っていましたが、仲裁裁判所は今回の件は除外事由にはあたらないとして提訴を受理しました。フィリピンが判断を求めているのは、中国が人工島の造成を行っているミスチーフ礁などが「島」か「岩」か、といった問題であり、境界画定に関する紛争などには該当しないと判断したのです。

詳しくは「南シナ海の領有権問題:常設仲裁裁判所によるフィリピンの訴え受理」をご覧下さい。境界画定に関する紛争を直接法廷に持ち込まなかったフィリピンの絶妙な戦術が功を奏したといえます。

では、日本がこういう提訴ができるか。まず竹島についていえば、「島」か「岩」という議論にすることはさすがに無理でしょう。

次に、中国とのガス田開発がもめている東シナ海ですが、これも、中間基線方式か大陸棚方式かという議論であって、フィリピンの提訴の仕方とはかみ合いません。

あり得るのは、フィリピンの主張の一つである環境破壊です。これは仲裁判断でフィリピンの主張が認められています。しかし、これも認められるかは微妙です。掘削など色々な国が色々なところでやっています。勝てるかもしれませんがやってみなければ分からない、という相場観でしょう。

ということで、法的に言えば、日本の選択肢が大きく広がる、というものでは残念ながらなさそうです。

しかし、政治的なインパクトは別です。こういう提訴ができる・・・という可能性を示すだけで、外交上のプレッシャーになります。大いに検討し、提訴の可能性があることをアピールすべきでしょう。

ちょっと挑発的な話になりますが、あえていえば、これは核武装にも言える議論です。

日本が核武装する可能性は、政治的、経済的に考えればゼロといってよいでしょう。しかし、だからと言って、核武装が無理であることを積極的にアピールする必要はありません。条件が整えば可能である・・と思わせぶりにしておくことは、中国と北朝鮮に対して外交上のプレッシャーをかける武器になります。

もちろん、「核開発できますよ」なんて無粋なことを言う必要はありません。ほのめかすだけでいいのです。私は、このぐらいのブラフをかけるのは、有効な外交戦術として十分許容できる思います。

06年に麻生太郎外務大臣(当時)が、核武装は否定されない、という趣旨の発言をしたことがあります。失言扱いされましたが、麻生さんほどの人が思いつきで言うはずがありません。そこには上記の戦術的な意識があったはずです。

話が逸れましたが、ここで言いたかったのは、実際にやる可能性がなくとも、やろうと思えばできる、という姿勢を示しておくことは重要ということです。

中国など、権謀術数が大好きな国ですから、日本が何か怪しい動きをすれば、ありもしない日本の大戦略、陰謀論をこねくり出して、勝手に警戒するものです。こういうのに乗じて相手にプレッシャーをかけるのも立派な外交です。

そういうわけで、領有権問題に関して裁判所に訴える可能性を理論的に詰めておくことも、それ自体意味がある、といえます。

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9 comments on “南シナ海の仲裁判断の衝撃③:日本の選択肢
  1. ペルドン より:
    選択肢

    威猛々しく・・
    中国やってますね・・戦前の我ら大帝国・・彷彿・・
    もう少し大人の国らしく・・
    とはいっても・・座して習近平失脚を待つ以外なさそう・・
    バイデンが一晩で日本は核兵器作れる・・と保証・・
    リップサービスにしても・・
    長距離ロケットもある・・プルトニュームもある・・
    今は大人しいが・・刃物を振り回した過去もある・・
    眠れる猫・・下手に刺激すると・・トラになる可能性もある・・・(笑

  2. ペルドン より:
    一月イラン釈放の米人質値段

    400億円現金払い・・
    テヘランに輸送機を飛ばした・・
    オバマらしい・・姑息な手段・・二枚舌・・

    トランプ舌鋒鋭く迫る・・
    オバマ叩けば・・ヒラリーも共振・・隠れパンチ・・

    増々・・本選・・ルーレット・・・(笑

  3. 木立茂平 より:
    権謀術数

    金持ちましぐらのころより拝見させて頂いております
    (初めてコメント致します・・グッチーさまごめんなさい)
    ・・最近?登場されたJDさまの見&識は勉強になることばかりです(メチャ面白い)・・

    さて、中国は日本の能力を分析(他国に対しても・・)できないくらいに本当におバカなのでしょうか

    中華思想故?

    彼の国に対してはいろいろと思うところはありますが、それはさておき、これからも示唆に富むお話、楽しみにしております

  4. sunny より:
    4億ドルは本来イランの金

    久しぶりのコメントです。ご無沙汰しておりました。

    ペルドンさん、イランへの400億円支払いなんですが、なぜ50億とか100億ではなくあっとおどろく400億なのか。 しかも、それはアメリカ人人質4人解放に対して7人のイラン人解放という交換条件に加えてのことですし。

    私は、これは、アメリカが無視し続けてきたハーグ裁判の裁定結果である
    「アメリカ政府は、イランがイラン革命前アメリカに支払った400億円、それに利子をつけ加えた合計およそ1500億円の返還をせよ」
    の元金400億円だけ返してやるぜということだったんではないかと推測しています。
    アメリカは、イランへの返還金だけでなく、これまで他のハーグ裁定も完全に無視している関係上、イランへも一円たりとも返還しませんから、オバマさんは身代金の形で、せめて元金だけでも返すことでイランとの交渉カードに使ったのでは?

  5. sunny より:
    シリア内戦展開

    シリアは、現在アレッポを舞台の大戦闘ですが、トルコがクーデター騒動のあと欧米と距離を置く一方でロシアやイランとくっついてびっくりに加え、今週はロシアがイランの基地から爆撃機を飛ばし、さらに中国軍トップが公にアサド政府軍を支援すると表明して、アレッポ戦闘結果如何にかかわらず、シリアはどうもアサド政権が勝ちのような予感がします。 

    ということは、アメリカ、サウジ、カタールは負け組で、既にオバマのアメリカとカタールは内心負けを認めているような。ヒラリーはアサドを攻撃すると言っていますが、彼女が大統領になったころには勝負がついているのかも。シリアは
    露中イランとトルコでことを収めるということになるのかもしれませんね。

    ということは、シリアを不安定化していずれ3つか4つに分割してシリア影響力を弱めることで、ヒズボラやイランなどイスラエルへの脅威を除くというアメリカとイスラエルのブッシュ政権時以来のプランはかなり修正する必要がありそうです。 

  6. JD より:
    木立茂平さん

    大変励みになります。ありがとうございます。

    中国の外交ですが、これについては9月3日の講演で話す予定です・・・と、もったいぶるつもりはないのですが、タイミングを見てこちらでも書いてみたいと思っています。

    またコメントやご質問お聞かせ下さい。

  7. JD より:
    イランへの支払

    sunnyさん、ペルドンさん

    米国政府は、最初からsunnyさんのおっしゃる説明をしています。
    ただ、18日、国務省は、4億ドルは身代金ではないとしながら、イランが米国人の解放を実際に行うまでは支払を控えることで、解放を確実にさせる手段とした、という説明をしています。
    http://www.state.gov/r/pa/prs/dpb/2016/08/261128.htm#IRAN

    米国政府の説明は(真相はどうあれ)筋が通っています。
    イラン合意に反対する勢力はこの問題を取り上げるでしょうが、大統領選において波紋を広げることはないでしょう。

  8. ペルドン より:
    JDさん

    一月の人質交換の経緯説明・・
    今月の18日では・・なんとも胡散臭い発表になる。
    いずれ・・長くないオバマ政権だから・・リークされるのは当然としても・・
    漏れ始めてからの弁明では・・最初から???がついてしまう。

    中近東のオバマ外交・・共和党ではないにしても・・嘲笑される状況になっている。イラン空軍基地をロシアが使用・・シリア等爆撃・・口を開けたままになる・・ひょっとしたら・・オバマよりもヒラリーの方が・・外交能力上ではないか・・との疑念が湧くな・・・(笑

  9. sunny より:
    中東ナウ?

    中近東のオバマ外交、Atlanticとのインタビューを読む限り、あまり関わりたくないような。ワシントンのプレイブックには大統領でさえ逆らえないんだと、これはユダヤロビーやら、サウジロビーやら、軍産複合体ロビーやらなどのプレッシャーのことでしょうか。

    中近東に関しては、オバマさんもクリントンさんもプレイブックに従ったということのようですが、クリントンさんに関しては、彼女のメールのやり取りをウィキリークスが少しづつ出してきていて、アルカイダ系過激派への武器供与に関するやりとりを1700通分出す予定だそうで、アサンジによると、イスラム国誕生につながるクリントンの裏仕事を暴露するということですが。

    私はシリアの今後が本当に気になるのですが、荒廃した国をどうやって再建するのか。シリアに関しては、イランロシアトルコ中国インドなどが協力すると言っているのですが、これって上海協力機構 ?

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