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2016/06/10 02:43  | 東南アジア |  コメント(6)

東南アジアの新政権②:中国との関係


「東南アジアの新政権①」の続きです。

前回は、ベトナム、ミャンマー、フィリピンで新政権が発足し、権威主義体制の国で強力なリーダーが退場し、民主主義体制の国で強力なリーダーが登場するというパラドクスめいた結果を説明しました。

中国もそうですが、権威主義体制の国で必ずしも数人のリーダーに権力が集中するわけではありません。むしろ、ある程度の規模の権力者(一党独裁の党の指導部)が権力を共有し、体制の維持という共通の目標に向かってお互いを縛り合う方が、長期的な体制の安定のためには好都合なので、権力を分散させることも一つの合理的な帰結といえます。

逆に民主主義体制の国では、米国、欧州でもそうですが、近年、エスタブリッシュメントに対する反発と怒りの高まり、そしてそれを政治的影響力に変えるリーダーが猛威を奮いつつあります。

しかし、そもそも民主主義とは「交代可能な独裁制」ですから、強力なリーダーの出現自体が問題なわけではありません。重要なのは、リーダーシップの中身であって、単なるポピュリズムなのか、強力な国民の支持をもって旧弊を打破できるのか、その見極めが重要となります。

このような観点から3つの国を見ると、現時点での見通しは必ずしも悪くありません。

ベトナムは、改革と親米・親日の路線が変わるかといえば、いかにズン首相のリーダーシップが強かったといっても、チョン書記長をはじめとする指導部はこれまでの路線を承認してきましたから、これが変わることは想定できません。

TPPの国内的承認手続は順調に進んでおり、米国との関係も、5月にオバマ大統領の訪問が予定どおり実現し、武器輸出禁止の全面解除という歴史的成果を生み、かつてないレベルで包括的な関係強化が進展しています。

ミャンマーも、人材不足と行政の遅れが懸念され、投資委員会が発足しないことから外国投資の認可が滞るという事態が生じていますが、全体として新政権は慎重で合理的な対応をとっています。

私は総選挙直後の昨年11月にミャンマーを訪問して現地で色々な人から話を聞きましたが、アウンサン・スーチーの能力に対する評価は総じて高く、人格面については色々な見解がありますが、少なくとも国民を率いるリーダーとしての資質、戦略眼には信頼すべきものがあると言われています。

フィリピンは、一番興味深いところですが、実はドゥテルテの評価は大統領選後に急上昇しています。

ドナルド・トランプとの類似性を指摘する声もありますが、トランプと異なり、ドゥテルテには30年におよぶ政治経験と実績があります。最近発表した経済政策の基本的なポイントも、外資導入とインフラ整備を最重要視しており、ビジネス界から高く評価されています。

独裁志向の印象がありますが、実際には経済政策はアドバイザーに任せ、専門的知見を重視するとみられており、5月31日に発表された内閣の布陣をみても、実務家や経験豊富な政治家の起用が目立ちます。議会工作も進んでいるようであり、下院では大統領を支持する大連合が形成されつつあるといいます。

また、中国との関係も気になるところですが、これも従来の路線から大きくは変わらないと見られます。

ベトナムは、上記のとおり米国との間で武器輸出解禁を含めて軍事協力を進め、海上自衛隊のカムラン湾への寄港を許可し、従来通り日米越による中国への対抗という路線を続けています。

フィリピンは、ドゥテルテが中国寄りとの見方もありましたが、実は現地では古くから親日家として知られており、新大統領選出後、いち早く駐フィリピン日本大使と面談しています。

ミャンマーは、アウンサン・スーチーが総選挙の前に中国に行って習近平と面談し、新政権発足後いち早く王毅外相をミャンマーに訪問させるなど、中国に対する配慮が目立つようにも見えます。

それでもクローニーや軍関係企業やミャンマー政府と戦闘状態にあるコーカン族やワ族への中国の影響力、翡翠や木材の不法輸出、強引な開発に対するミャンマー国民の反中感情など問題は山積しており、やはり中国の侵食からどう脱却するかが課題となります。

そういうわけで、この3つの国の展望は基本的に明るいといえます。特にベトナムとフィリピンは世界経済が停滞する中で、数少ないブライト・スポットとして引き続き高い期待が寄せられるでしょう。

なお、米大統領選は、相変わらず共和党も民主党も党内での断絶が激しく、かつてないほどに何が起こるか分からない、ユニークな選挙戦の様相を呈しています。皆さんのコメントからも、のんびりしてないで早く分析しろという期待(圧力?)を感じましたので、来週にでも取り上げたいと思います。

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6 comments on “東南アジアの新政権②:中国との関係
  1. ペルドン より
    さてさて・・

    アジア・・問題ないとしても・・
    ワシントン・・
    サンダースを副にするか否か・・
    舞い上がっているヒラリー・・
    冷静になれるか・・
    エリザベス・ウォーレン・・やり手だが・・1000万の支持票集めていない。

    約手の裏書はオバマか・?
    硝子の天井を破れば・・上から硝子の破片が降ってくる・・
    日笠で防げるだろうか・?

    トランプ・・残されたのは・・徹底した個人攻撃以外ない・・・(笑

  2. 下北のねこ より
    フジモリさん、大丈夫かな?

    なるほど、JDさんの解説をいただかなければ、単純に「反動」の一言で済ましちゃうとこですね。
    なんか、東南アジアは中国という不安定要因はあるけど、政治的にはいい方向に向かいつつあるような気がします。

    それより、個人的に心配なのはペルー大統領選挙に負けたケイコ・フジモリさん、お父さんのように新政権側から訴追の追い打ちかけられる可能性あるんじゃないかなあ。
    それが心配です。

    政治において、政権保持側が対立勢力に対し、司法を武器に使う傾向が今世紀は強くなったような気がします。

  3. 空の財布 より
    クリキントンのメール問題。

    とてつもないアメリカ政治の闇を感じるんですよね。
    彼女が始めた時から諜報部門は分かってたはず。
    とすれば、彼女は闇の中を泳がされてた。
    つまり政治家の闇を集めて生死を握る巨悪がいる。
    アメリカンテレビドラマの観すぎ?(笑)

  4. ペルドン より
    空の財布さん

    頭は・・
    詰まっているではありませんか・・
    そういう謀略・・
    JDさんの得意技・・
    やりすぎて・・
    辞表書いたか・?・・・(笑

  5. 空の財布 より
    マーベルコミックのデッドプール(映画)

    どこに投稿するか迷いましたが、アメリカと関連付けて、ここに。
    B級映画であることには別に違和感なし。
    違和感を感じたのは、こういうのがコミックとしてアメリカの若年層に入り込んでいるであろうこと。
    また、紙面だけでなく、映画によりリアル化されて、活況を呈していること。
    愛というテーマとの関連付けは陳腐なもので、暴力&銃シーンの拡大・リアル・CGによるえげつなさ感の増幅、まともな神経で見るものではありません。こちら、英検準1級を午前中に受け、直後の気晴らしで見てきましたが。
    こういうのが(アメリカでもR指定とのことですが)違和感なく受け入れられるアメリカから銃を根絶するなど、絵空事です…。

  6. 空の財布 より
    ベルドン皇帝…

    詰まっている…何のことかと…数日悩みました…そういうことですか…頭も空だと思われてたのですね…(笑)

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