2016/03/02 00:07 | 米国 | コメント(4)
スカリア最高裁判事の死去
■米連邦最高裁の未来は?スカリア判事死去で政治駆け引き(2月17日付BBC記事)
スーパ・チューズデーの結果が出るまでの間、閑話休題ということで、2月13日のアントニン・スカリア最高裁判事の死去。米国を揺るがした大ニュースでした。
『憲法で読むアメリカ史』の書評で書きましたが、米国の最高裁は、文字どおり、米国の歴史を形作るほどの影響力をもってきました。連邦と州との権限配分、人種差別、南北対立、ニューディール、冷戦、同性愛、中絶、銃規制といった、米国社会を分断する重大な課題について、最高裁は、最終的な決定権者として、ことごとく米国の方向性を決める判断を行ってきました。最高裁を知らずして米国を理解することは不可能とすら言えます。
スカリア判事を含む最高裁判事9名は以下のとおりです。
・アントニン・スカリア 保守 レーガンが指名
・アンソニー・ケネディ 保守(穏健) レーガンが指名
・クラレンス・トーマス 保守 ジョージ・H・W・ブッシュが指名
・ルース・ギンズバーグ リベラル クリントンが指名
・スティーブン・ブライヤー リベラル クリントンが指名
・ジョン・ロバーツ(長官) 保守 ジョージ・W・ブッシュが指名
・サミュエル・アリト 保守 ジョージ・W・ブッシュが指名
・ソニア・ソトマイヨール リベラル オバマが指名
・エレナ・ケイガン リベラル オバマが指名
このように、最高裁判事9名のうち、保守派が5名(ただし1名は場合によってリベラルな判断)、リベラル派が4名という微妙なバランスの上に成り立っていました。その中で、スカリアは強固な保守派で、共和党にとっては強い味方でした。
オバマ大統領が指名する判事は間違いなくリベラルでダイバーシティ重視(女性、マイノリティ、若手)になることが予想されるため、共和党はこれを何としても回避したいと考えています。状況はまだ流動的であり、先週、ミッチ・マコーネル上院共和党院内総務(上院共和党のトップ)が、大統領が後任判事を指名しても上院公聴会を開くことを拒否する趣旨の発言をしました。
保守のスカリアと並びたつリベラルの雄(女性ですが)はルース・ベイダー・ギンズバーグですが、この二人は、思想信条がまったく相容れなかったにもかかわらず、終生変わらぬ友情を保ったと言われます。今回の民主党政権と共和党の争いは、お互いに理解しようとする偉大な二人の知性の姿勢とはまったく異なるとして、嘆かわしいという論調がよく聞かれます。
仮に後任者が次期政権まで決まらないとなると、最高裁で4対4の同点となった問題については、下級審の判断がそのまま維持されます。そうすると、たとえばオバマ政権の移民政策(不法移民を認める大統領令)については、テキサスなどの連邦地裁が違憲であるとして大統領令の執行停止を命じ、控訴裁がこの判断を維持していたところ、今年1月になって、最高裁がオバマ政権による上告を受理し、審議に入りました。最高裁が判断を下せないとなると、下級審の判断が維持されるので、オバマ政権の移民政策は実施できない状態が続くことになります。
一方で、オバマケアについては合憲判決が出ており、環境政策(クリーンパワー計画)についてはこれから合憲判決が出る可能性が高いので、この点についてはオバマ政権有利となります。
ところで、下北のねこさんが、「ネバダ党員集会」のコメント欄でオバマが最高裁判事になってはどうかというコメントを書かれていましたが、次期大統領が民主党候補者であれば、オバマを指名してはどうかという話は出ました。
過去に大統領を退任した後に最高裁判事になった人物にはウィリアム・タフトがいます(1913年に大統領退任、1921年に最高裁判事に就任)。また、アイゼンハワーが任命したアール・ウォーレンは元カリフォルニア州知事、大統領選にも出馬した人物であり、政治家の経験があった者が判事に就任することはそれほど違和感のある話ではありません。
もっともオバマは、コメントを求められたところ、判例を読んで判決文を書くのは自分の性分に合わない、と答えたそうです。まあ、私も法律家としての仕事もやっていますが、オバマの気持ちは理解できます(笑)。
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4 comments on “スカリア最高裁判事の死去”
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オバマや・・
民主党・・指名イケイケムード・・
ネバダ州知事・・ランナウェイ・・(野心か)・・
共和党・・NONONO・・
どちらも言い分・・
どうなりますかね・??
最新全米世論調査・・
ヒラリー・・トランプには勝つが・・ルビオやクルーズには負ける・・
サンダース・・三人の共和党候補者・・全員に勝つ・・・(笑
なんと、本文に名前が出てる♪
夢じゃないかしら。なにかいいこと起きるかも♪
落ち着こう、おだたないっと。
コメントの考え、読んでくださってありがとうございます。
冗談抜きで、オバマさん、歴代大統領の中で人権感覚では一番優れている方だと思います。
それも、極めて現代的、21世紀的な人権感覚です。
JDさんは「判決を呼んで判決文を書くのは自分の性分に合わない」と書かれていますが、ちょっと原文がわからないので、callだとすれば、マッチポンプ的なニュアンスなのかなとも思いますが、読解力がないので、私のレベルで「判例を読んで」と書き換えて(意味全く違っちゃう、アホなのですいません)みて、思ったのですが、オバマさんなら、前例に因われず、これからの指針となる判例を生み出す名裁判官になると私は思います。
ギンズバーグで思い出したのですが、「合衆国憲法は進歩する憲法でありそれに貢献できることを誇りに思う」旨のことを述べたという記事をどこかで読んだことがあります。
オバマさんなら、合衆国憲法や世界の人権そのもの進歩に貢献できると思います。ただ、時間的拘束が多いのはオバマさんは嫌いそうですね。
ギンズバーグさんが女性ということは初めて知ったのですが、スカリアさんと反対の立場で変わらぬ友情を保てたというのは、合衆国最高裁裁判官という対等なトップセレブ同士のお互いの最高の知性と品格に対する尊敬の賜物なんでしょうね。
縁のない、だけど憧れる羨ましい世界です。
ありがとうございます。それほど喜んでくださるとは(笑)。
すみません、「判決・・」は誤記です(笑)。訂正しておきます。
米国の最高裁判事は、偉大な知性として英雄視されています。良かれ悪しかれ高度に法化された社会である米国の頂点に立つ存在ですから。日本の裁判官とは、スケールも品格も比較にならないでしょうね・・
訂正はもしかして、気を遣って下さったのでは?
私が想像したのは、オバマさんが自分の決めたアメリカに有利なルールで自分が(外国企業や敵対国なんかを)裁くなんて(気の毒じゃないか)、性に合わないよって、自国のWSJやWPなんかの記者たちと笑顔で語り合ってるシーンです。
JDさんは、自分たちでルールを決め、政府提出法案を作成し、執行する官僚法律家の視点で、オバマさんのその気持、わかるわかる。なんて感じかと思ったんですが。(笑)
だけど、アメリカの最大の強みって、自分で世界のルールを作れるとこだと思うのですが、TPPの件ではその認識が政治家から薄れているように思いますし、国民に対しては、特に利点を説明できていないように思います。
TPP交渉は利害得失からくる、それぞれの国民の反発を恐れて秘密交渉が主体になったのだと思いますが、本来は交渉時からきちんと内容を説明して自国民に理解してもらう努力が必要だったんじゃないかとアメリカを見てると思います。
NHKの「新・映像の世紀」でロックフェラーの家訓(社是?)「World Peace through World Trade」 というのが流れていました。ヒルトンさんも「World Peace Through International Trade and Travel」って、似たようなことを述べてます。
世界貿易そのものがアメリカの国是と言っていいと思いますし、アメリカ国民は説明すればわかってくれる内容だと思います。
なんか、岩手に住んでいての皮膚感覚でですが、物に自信があるからか日本の農民のほうが適応が早い感じがします。
実際、酪農なんか町村単位で公社化して、独自商品を開発して付加価値つけて岩手どころか東京や神奈川なんかに出すようになったし、実際、飲むヨーグルト、いわゆる高機能ではないけど岩手のは抜群に美味しいですよ。(私のお薦めは「岩手早池峰のむヨーグルト」です。)
マジ、大変と言われている酪農ですら、外国産に簡単に負けないと思います。
アメリカは主役なんだから、政治家の人たちはもっと自信持って国民にメリットを強調していっていいと思うのですが?
「ポピュリズムに走らない覚悟と信念とビジョンで」と述べていた甘利明前TPP担当大臣のこと私、今頃になって見なおしてます。(小泉政権時は一番大嫌いな大臣だったのですが)