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The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2015/10/22 00:00  | 経済・通商・金融 |  コメント(1)

カナダの総選挙とTPP


昨日(2015年10月21日)は、映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー2』の主人公が未来にタイムトラベルした日。海外のアナリストのレポートでも、映画の思い描いた未来が実現しているかがネタとなって盛り上がっていました。

さて、本題です。

カナダ総選挙 野党・自由党が圧勝、10年ぶり政権交代へ(10月20日付CNN記事)

カナダの総選挙ですが、野党自由党の歴史的な圧勝、そして約10年ぶりの政権交代。首相に就任するジャスティン・トルドー自由党党首はまだ43歳。フランス訛りの英語が印象的ですが、若くて大変なイケメン、大物首相の息子ということで、カナダ政治に注意を払っている人は少ないと思いますが(笑)、なかなかインパクトのあるニュースだったと思います。

実際、カナダ政治は日本とは縁遠いですが、まず気になるのはTPP批准問題です。TPPは、全加盟国12か国が国内手続を完了すればもちろん発効しますが、これが2年以内に達成できない場合、6か国が国内手続を完了し、そのGDP合計が加盟国12か国の総額の85%以上であれば発効します。

この85%条件ですが、米国(60.5%)と日本(17.7%)が国内手続を完了することは不可欠であり、さらにカナダ(6.6%)、豪州(5.4%)、メキシコ(4.5%)のいずれかが国内手続を完了しないとクリアできません。このため、カナダはTPP発効の鍵を握る重要な地位にあります。

ここで懸念されるのは、トルドー党首がTPPに対する支持を明言しておらず、むしろハーパー政権のTPP交渉を批判していたことです。もっとも、トルドー党首が問題にしていたのは、交渉の透明性が確保されていないというアプローチの面であり、自由党は基本的に自由貿易を支持する政党ですから、時間はかかる可能性がありますが、まあ大丈夫ではないかと見られています。議会の批准は来年中には完了するという見方が有力です。

この点で懸念されるのはむしろ米国です。現在、TPP加盟国は大筋合意に基づいて協定文を作成しているところですが、米国では、この完成した協定文を議会に通知して、90日後に初めて署名ができることになっています(TPA法)。

そうすると、協定文が11月に完成したとしても、署名ができるのは来年1月になってしまいます。さらに、その後議会が承認するか審議することになります。その議会ですが、前の記事で述べたとおり、民主党は雇用を守るという立場から、伝統的に自由貿易には反対。共和党は自由貿易支持ですが、オバマ大統領憎しの声から反対多数。

さらに状況をややこしくするのが大統領選で、上記のとおり、議会での承認日程が来年1月以降になるとすれば、ちょうど予備選のハイライト(「民主党候補者のテレビ討論」で述べたとおり、アイオワで2月1日にスタート、9日にニューハンプシャー、20日から27日にネバダとサウス・キャロライナ、そして3月1日にスーパー・チューズデー)とぶつかることになり、非常にかしましい状況になります。

特に、同じ記事で述べたとおり、ヒラリー・クリントンがTPP反対の姿勢を打ち出しましたから、予備選での議論が白熱することは確実です。

そういうわけで、審議日程は慎重の上にも慎重を重ねて決める必要がありますが、「ローマ法王と習近平国家主席の訪米」で述べたとおり、下院議長のジョン・ベイナーは念願の法王の訪米を成し遂げて思い残すことなく辞任し、後任と目されたケビン・マッカーシー院内総務は立候補を辞退する有様。

ようやく昨日、歳入委員長のポール・ライアン(2012大統領選でロムニーと組んだ元副大統領候補)が立候補することでまとまりそうですが、議会運営に大いに不安を抱かせる状態です。

特に上院財政委員長のオリン・ハッチは、バイオ医薬品製造のためのデータ保護期間に関する妥協を激しく批判しており、この点も大いに不安。このような状況のため、議会の審議がいつ始まり、いつ終わるのか、かなり見通しが混沌としています。

2017年までずれこみ、オバマの次の大統領の下で発効、というのも十分にあり得るシナリオです。仮に共和党候補者が大統領になれば、苦労して民主党大統領がまとめた果実を共和党大統領がとるという皮肉な結果にもなりそうです。

それでも、議会の承認が得られるのであればまだマシです。最悪なのは米国議会が承認しないケースです。この場合、前述の85%条件をクリアーしないため、TPPが発効することはありません。ここまで来てそれはないだろう、という悲惨な結末です。

ここまで各国を引き込んで、さすがにそんなことはしないだろう・・と誰もが願っていますが、こういうところで最後にはしごを降ろしてしまうのも米国なのです。その例としては、古くは国際連盟があり、最近では京都議定書がありました。

そういうわけで、まったく予断を許しません。私も現在TPPが東南アジアに与える影響をまとめており、特に来月出張するベトナムは大きな恩恵を受けるところですから、説明にもやりがいを感じているところです。悲惨な結末にならないよう願うばかりです。

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One comment on “カナダの総選挙とTPP
  1. ペルドン より
    カナダはOK

    とすると・・
    米国国内の事情になる・・

    国内事情は・・日本に居ても・・米国に居ても・・ガラス張りではない・・判らない・・
    まぁ・・推進されると・・忍び足で・・どんでん返しは外交の常・・

    バイデン・・出馬せず・・何・・揉めていたのでは・・・

    メール問題・・問題にせず・・と討論会で・・これで・・自分で滑り落ちたライバル・・まぁ・・ヒラリー対トランプ・・似た者同士の対決で・・・(笑

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