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2015/07/23 00:57  | 中国 |  コメント(1)

中国・中央アジア・トルコ④:中国正史のフィクション


前回の記事の続きです。

今回は、遊牧民と漢族の戦いという観点から、中国の歴史をふりかえってみます。古代中国においては、実際のところ漢民族が中原(華北)を支配した時代はそう多くありません。、五胡一六国時代の北朝・隋唐(鮮卑)、五代十国時代の後唐・後晋・後漢(突厥系沙陀族)はいずれも異民族(遊牧民)の王朝です。

中央ユーラシアを支配した帝国についても、(契丹)、(女真族)、(モンゴル)については、漢文の「正史」が書かれていますが、いずれも異民族によるものです。

中国の歴史が中国人による華北平原(中原)支配の歴史として描かれているのは漢文による正史編纂のマジックです。実際には遊牧民による中原と中央ユーラシアの支配と漢民族の抵抗(晋・南朝)の歴史としてとらえる方がより実態に近いといえます。

また、正史の編纂は、科挙によって選抜された官僚(その中でも優秀な官僚)によって行われました。科挙は隋に始まり唐において完成した制度ですが、その眼目は、漢字を使いこなして文書を作成できる管理職の候補者を選抜することにありました。科挙が儒教の古典を徹底的に暗記することを求めたのは、文法が存在しない漢文を解読するには古典にある使用法(前例)に精通する必要があったためです。

中国が異民族に征服されながらも、儒教による統治、中華思想の一貫性という虚構を維持できたのは、この科挙官僚制によるものといえます。異民族であっても、漢民族の文化を受け入れることで、同化が進んだわけです。武力では負けるが文化の力で逆転する、中華文明のソフトパワーの勝利とでもいえるでしょうか。

それにしても、中国の歴代皇帝の中でずば抜けた英雄は、秦始皇、漢高祖、魏武帝、唐太宗、明太祖、毛沢東の6人と言われますが、この中でも、唐太宗は最も中国王朝らしい、理想の統治を実現した名君として知られます。その太宗が漢民族ではなく鮮卑族だったのは趣深いところです。

前回の記事でも述べましたが繰り返しになりますが、中央ユーラシアは、東洋と西洋の狭間にあり、両文明のような明確な歴史物語がなく、その把握が難しい地域です。

中央ユーラシアの歴史を手っ取り早く概観する本としては小松久男編『中央ユーラシア史』岡田英弘『世界史の誕生』がお勧めです。

この地域は非常にダイナミックで、東洋と西洋の文明を巻き込みつつ、現代にも連なる大きな歴史の動きを感じさせるところです。これから機会をみて掘り下げたいと思います。

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One comment on “中国・中央アジア・トルコ④:中国正史のフィクション
  1. JFKD より:
    このテーマとても面白く、ますます掘り下げて欲しい

    おそらく異民族はモンゴル・満州・朝鮮・日本と同じくツングース・膠着語であるアルタイ語系の遊牧黄色人種でしょうから、豊かな農耕漢民族を略奪・支配するには全てが表意文字である漢文はすばらしいありがたい手段だったでしょう。逆に両者の意志疎通のために発明されたとさえ思えます。表意文字は便利過ぎて表音文字のような厳密な文法が必須ではないので、科挙も判例法(前例)のような研究となってしまうのでしょう。広東語とは全然通じないと言われる北京語は現代の標準語と成り得ているのでしょうか。そもそも中国で口語的に標準語という概念が成立できるのか。しかもあの略字体では日本人も筆談できないし、肝心の表意の機能を果たさないし、彼らの教養が心配になる。そしてこのことが文法が存在しない漢文に表音文字顔負けの多くの声調を必要とする煩わしさを助長し、中国音楽の魅力のなさにもつながっていくと思う。言語が歌・音楽になってしまっている。好みの問題ですが表音文字の世界では子音が多いのにどういうわけか音楽が発達し魅力的です。英語圏だけは子音が災いしどうしようもなく例外ですが。ビートルズは実質アイルランドの血のなせるわざだ。

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