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The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2018/05/28 00:00  | 今週の動き |  コメント(2)

今週の動き(5/28~6/3)


今週もまたトランプ政権の動きが激しいです。

米朝首脳会談、米中協議、通商戦争・・この三つは毎週新しい展開があってフォローするだけでも大変ですが、ここでは「木を見て森を見ず」の状態にはならないよう、緻密なアップデートと大局的な分析の両方をお伝えしたいと思っています。

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先週の動き
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5/18(金)
・トランプ大統領がハリー・ハリス太平洋軍司令官(海軍大将)を駐韓大使に指名

5/20(日)
・米韓首脳電話会談
・トランプ大統領の弁護団のジュリアーニがモラー特別検察官は9月1日までにロシアゲートに関する司法妨害疑惑の捜査を終える意向を示したと発言
・トランプ大統領が16年の大統領選でFBIがトランプ陣営にスパイを送り込んだ疑いがあるとして司法省に調査を要請するとツイート
・ベネズエラ大統領選挙(マドゥロ大統領が再選)
・G20外相会合(ブエノスアイレス、~21日)

5/21(月)
・ポンペオ国務長官がイラン戦略を発表(ワシントンDC)
・ムニューシン財務長官がトランプ大統領に中国の対米投資制限策について報告
・ペンス副大統領が北朝鮮はトランプ大統領を手玉にとるのはやめるべきでありトランプ大統領は会談の席を途中で立つ可能性はあると発言
・トランプ大統領がベネズエラに新たな経済制裁を課す大統領令に署名
・シリアのアサド政権軍がダマスカスと近郊の制圧を発表
・イタリアの五つ星運動と同盟がマッタレッラ大統領と会談し次期首相にフィレンツェ大学教授のジュゼッペ・コンテを推薦
・印ロ首脳会談(ソチ)

5/22(火)
・米韓首脳会談(ワシントンDC)
・トランプ大統領が米朝首脳会談の延期を示唆する発言
・トランプ大統領がZTEに対する制裁解除について「まだ合意しておらず、13億ドル程度の罰金が条件になると考えている」と発言
・トランプ大統領が中間選挙が行われる11月より前に新たな減税を提案すると発表
・米下院がドッド・フランク法の改正案を可決
・米財務省がイエメンのフーシ派に弾道ミサイル技術を提供したとしてイラン革命防衛隊の幹部らに経済制裁を科すと発表
・中間選挙の予備選(アーカンソー、ジョージア、ケンタッキー、テキサス)
・通商法301条に基づく制裁関税原案に対する意見募集の締め切り
・中国政府が輸入自動車に対する関税を現行の25%から15%に引き下げると発表
・EU通商担当理事会(ブリュッセル)
・ベネズエラのマドゥロ大統領が米国の追加制裁への報復措置として米外交官2人の国外追放処分を命令

5/23(水)
・トランプ政権が通商拡大法232条に基づき自動車の関税引き上げの検討を開始すると発表
・北朝鮮が豊渓里の核実験場廃棄を公開(豊渓里、~25日)
・トランプ大統領が米朝首脳会談が予定どおり6月12日にシンガポールで開催されるかは「来週明らかになる」と発言
・クシュナー上級顧問が米政府の最高機密情報を閲覧できるようになったとの報道
・国防総省が今夏に予定している環太平洋合同演習(リムパック)への中国に対する招待を取り消したと発表
・日米外相会談(ワシントンDC)
・イタリアのマッタレッラ大統領が次期首相に法学者のジュセッペ・コンテを指名

5/24(木)
・北朝鮮の崔善姫外務次官が「北朝鮮はリビアの轍を踏みうる」と発言したペンス副大統領を「政治的に愚鈍な間抜け」と非難し米国の対応次第で金正恩に「首脳会談の再考を提起する」との談話を発表
・トランプ大統領が6月12日に予定されていた米朝首脳会談の中止を発表
・ポンペオ国務長官が北朝鮮との交渉再開に期待感を表明
・北朝鮮の金桂冠・第1外務次官が米朝首脳会談は切実に必要であり北朝鮮は米国と問題を解決することを常に受け入れるとの談話を発表
・トランプ大統領がドッド・フランク法の改正法案に署名、同法が成立
・サンクトペテルブルク国際経済フォーラム(サンクトペテルブルク、~26日)
・仏ロ首脳会談(サンクトペテルブルク)
・ドイツのメルケル首相が訪中(~25日)
・ユーロ圏財務相会合(ブリュッセル)

5/25(金)
・文在寅大統領が米朝首脳会談の中止を「非常に遺憾」と表明
・トランプ大統領がホワイトハウスで記者団に米朝首脳会談の6月12日開催もあり得ると述べる
・トランプ大統領が「米朝首脳会談を元通りにすることについて北朝鮮と非常に生産的な協議を行っている。会談が開かれるならシンガポールで6月12日のまま開かれる可能性が高いが、必要ならそれ以降に延ばす」とツイート
・マティス国防長官が米朝首脳会談が開催される可能性は残っていると発言
・トランプ大統領がZTE制裁を見直すことで習近平国家主席と同意したと語ったとの報道
・トランプ大統領が高いレベルの安全性の保証、13億ドルの罰金、経営陣の刷新、米国企業の部品購入を増やすことを条件にZTEの事業を再開させるとツイート
・米韓両軍の共同訓練「マックス・サンダー」が終了
・日仏首脳会談(サンクトペテルブルク)
・APEC貿易相会合(ポートモレスビー、〜26日)
・EU財務相理事会(ブリュッセル)

5/26(土)
・南北首脳会談(板門店)
・トランプ大統領が米朝首脳会談を6月12日にシンガポールで開催することを目指しているとして再調整する意思を表明
・サンダース大統領報道官が米朝首脳会談が近く開催される場合に備えて事務レベルの準備チームが予定どおりにシンガポールへ出発すると発表
・ベネズエラが米国人人質を解放
・日ロ首脳会談(モスクワ)

●米朝首脳会談の混沌

トランプ大統領が米朝首脳会談の中止を決定。その直後の北朝鮮の悲痛な声明を受けて「やっぱりやるかも」・・そして電撃的な再度の南北首脳会談・・またも激動の一週間になりました。

会談中止については、先週前半にペンス副大統領とトランプがこれを示唆する発言をしたとき、もしかしたら・・という予感はありました。その後の北朝鮮の対応はさすがに予想外でしたが、トランプの再度の軌道修正については、金桂冠・第1外務次官の談話を見たとき予測がつきました。

今回のドタバタが意味するものと今後の展望について今週解説します。

●ZTE制裁問題

先週からトランプがZTE制裁を解除する方針をはっきり述べるようになりました。

この問題はトランプと習近平国家主席というトップ二人が直接に扱う米中の最重要案件であり、米中関係と米国内政にとって極めて重要な意味をもっています。この点を解説します(※メルマガに限定)。

●自動車への制裁関税

これもまたトランプらしい衝撃の発表でしたが、まずは商務省が通商拡大法232条に基づく調査を始めたところです。

商務長官は調査開始から270日以内に大統領に結果を報告するので、遅くとも来年2月中旬までに結果が明らかになり、その報告を受けて90日以内に大統領が判断を下すスケジュールです。これは鉄鋼・アルミの輸入制限のときと同じ手続きです。

「トランプ政権の新たなる混沌と貿易戦争(1)」(3/2)

政権は最大25%の追加関税を課す考えと報道されていますが、商務省がどこまでの調査結果を出すことができるのか疑問があります。この点を解説します(※メルマガに限定)。

●ポンペオ国務長官のイラン戦略

核合意からの離脱、3日連続の追加制裁に続き、ポンペオ国務長官がイランに対して12項目の要求を突きつけ、「史上最強の制裁」を続けるとのイラン戦略を発表。

その翌日、イエメンのシーア派武装勢力であるフーシ派への支援を理由にさらなる追加制裁も発表されました。

トランプ政権は北朝鮮に対するアプローチのように「全面衝突もいとわない」という激しい強硬姿勢でイランを追い詰め、妥協を引き出す方針のようです。

これがアフマディネジャド前大統領のような反米強硬派の政権であればともかく、穏健派のロウハニ大統領の政権に向けられているのが何とも残念なところです。このやり方でイランの譲歩を引き出せるとは到底思えず、関係の悪化とイランの急進化は続くでしょう。

一方、イランへの制裁は原油高につながります。最近、米国ではガソリン価格が上昇しており、民主党はこれを中間選挙に向けた政権への攻撃材料としつつあります。おそらくトランプはこの問題に対して何らかの手を打ってくると予想されます。シェール増産やサウジへの協調減産の見直し要請などが考えられます。

また、ポンペオは関係国との協力にも言及しており、日本に対して何らかの要請をしてくるのかも気になるところです。

日本の立場は「核合意を支持し、その維持のために関係国と協議する」ということなので、米国のアプローチとは食い違いがあります。ここで米国から独自制裁の要請がきたときにどう対応するのか・・これはかなりの難問でしょう。

●ドッド・フランク法の改正

ドッド・フランク法の改正法が成立。3月に上院で可決されていたときにポイントを説明していました。

「ドッド・フランク法の改正」(3/19)

金融業界に与える影響はぐっちーさんの専門領域なのでお任せですが、上記記事で述べていたとおり改正の幅は小さく、象徴的な意味が大きいとみられます。主な狙いは中小の地銀の規制を緩和して融資を容易にすることにあり、ウォールストリートの大手金融機関にはほとんど恩恵がありません。

もっとも、共和党内にはさらなる改正を求める動きがあります。今回の措置は第一歩に過ぎないかもしれず、その観点からは軽視できないイベントです。

●「スパイゲート」疑惑

トランプ大統領は、大統領選でFBIがトランプ陣営にスパイを送り込んだ疑いがあるとして、司法省に対しその調査を行い、結果を議会に報告すべきと主張しました。その後、この問題を「スパイゲート」と命名しています。これが米国メディアでは大きく取り上げられています。

トランプは、モラー特別検察官のロシアゲート調査がもはや自分にとって脅威ではないと見切って、逆にこれを利用しようとしています。つまり、米国の政府機関は民主党に乗っ取られており、自分はそうしたエスタブリッシュメントと戦うという「トランプ対スワンプ(沼地、ワシントンDCの意味)」の物語を作り出し、それこそがロシアゲートの真実であって調査の対象とすべきだ、という流れにもっていこうとします。

トランプの主張には根拠がなく、例によって事実に基づかないでっち上げとみられていますが、議会を巻き込む動きと世論に与える影響は注目されています。今の時点では共和党も有権者も相手にしていないと思われますが、これから毎日嵐のように流れるトランプ政権のニュースに「スパイゲート」が加わることになりそうです。

●イタリアの連立政権

フィレンツェ大学の教授で法学者のジュセッペ・コンテの首相就任が決定。選挙からの2か月半に及ぶ政治空白がようやく終わることになりました。

コンテはマリオ・モンティ以来の非国会議員の首相ですが、「スーパーマリオ」の異名をとったモンティと違って実務経験がまったくなく、ディ・マイオの操り人形とも揶揄されています。

五つ星運動の党首ディ・マイオが経済発展相、同盟の党首サルヴィーニが内務相に就任する見通しで、ディ・マイオがベーシック・インカムと均一税の導入、サルヴィーニが移民の強制送還に取り組むことになるとみられます。

巨額の対外債務を抱えながら財政を悪化させるプログラムを掲げ、ロシア制裁解除を求めるなど、EUとの対立は必至です。「悪夢の連立」ともいわれ、マーケットでは不安が広がっています。

●ベネズエラ大統領選挙

「茶番」ともいえる選挙でニコラス・マドゥロ大統領の再選が決定。

欧米やアルゼンチン、メキシコは公正な選挙と認めず、トランプ政権は追加制裁を実施しました。ますますベネズエラは苦しい状況になります。

ただ先週の土曜、ベネズエラは米国人の人質の解放に踏み切りました。これが関係改善のきっかけになるかはまだ分かりませんが、北朝鮮のように融和的な姿勢に転じる最初の一手かもしれません。

今年の中南米では、ベネズエラ(先週)、コロンビア(今週)、メキシコ(7月1日)、ブラジル(10月7日)で大統領選が相次いで行われます。トランプ、中国、北朝鮮でニュースが埋まっている状態ですが(苦笑)、タイミングをみて中南米の政治情勢も取り上げたいと思っています。

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今週の動き
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5/27(日)
・コロンビア大統領選挙

5/28(月)
・EU外相理事会(ブリュッセル)

5/29(火)
・ベトナムのチャン・ダイ・クアン国家主席が訪日(~6/2)

5/31(木)
・G7財務相・開発相・中央銀行総裁会議(ウィスラー、~6/2)

6/1(金)
・南北閣僚級会談
・米国の鉄鋼・アルミ輸入制限の適用除外の期限終了
・アジア安全保障会議(シャングリラ会合)(シンガポール、~3日)

6/2(土)
・ロス商務長官が訪中(~4日)

●ロス商務長官の訪中

今度はロス商務長官が訪中して協議。テーマは何と言っても商務省が所管するZTE制裁問題でしょう。中国側は王岐山が出てくるか気になるところです。

●コロンビア大統領選挙

コロンビアでは16年にゲリラ組織FARCとの歴史的な和平が実現し、治安は改善がみられますが、経済は低迷しており、選挙の争点は経済政策になっています。

民主中道党のイバン・ドゥケと前ボゴタ市長のグスタボ・ペトロの二人がリードしていますが、いずれも過半数はとれず、6月17日の決選投票で争われるとみられています。

「先週の動き」で述べたように中南米の政治情勢も適当なタイミングで解説します。

●ベトナムのクアン国家主席の訪日

クアン国家主席は、昨年から長期間姿を見せない時期があり、最近もアウンサン・スーチー国家顧問との会談などを欠席して、病気とか暗殺の疑惑がありましたが、今回国賓訪日ということで無事が確認されました。そういう意味でベトナム・ウォッチャーには注目のニュースでした。

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あとがき
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米朝首脳会談の記念コインが人気沸騰 中止発表受け(5月25日付BBC)

米国の政府機関(White House Communications Agency)が米朝首脳会談を記念するコインを発行。

本当に開催されるかも分からない中でネタとしか思えないような話ですが、コインの写真を見ても、トランプと金正恩が向かい合うデザインとか、金正恩の肩書が「Supreme Leader(最高指導者)」になっているとか、色々な意味で香ばしいですね。

「White House Communications Agency」というのも初めて聞く機関だなと思ったら、ホワイトハウスの機関ではなく国防総省の一部局とのこと。ホワイトハウスのサンダース報道官は「これは軍の機関であって、ホワイトハウスはコインの製造やデザインに一切関わっていない。」とコメントしており、関わり合いになりたくない空気を前面に出しています。

コインの販売はトランプの会談中止発言の後も続けられ、実現しなかった場合には払い戻しに応じるそうです。一方、逆に「幻の会談」の記念コインになることから人気沸騰とのこと。DCに行く機会があればおみやげに買っても良いかもしれませんね。

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2 comments on “今週の動き(5/28~6/3)
  1. ぺルドン より
    荒れた一週間

    米軍と記念コイン・・
    意外な組み合わせの様に思えても・・
    軍とコインの関係は意外に古い・・
    有名なのはカエサルで・・戦地で兵士に払う俸給を・・移動式高炉を使って貨幣を鋳造支払っていた。通商国家カルタゴが始めたのだが・・便利だったのでローマも継承した。ローマの後継と自負する米国が・・軍がカエサル流儀を引き継いでも奇妙ではない。

    文蝋燭大統領が辟易する程・・金王が抱き着いて離さないのは・・北の窮地を物語る映像だった・・・
    ( ^ω^)
    兵士に払っていた

  2. KB より
    木も見て、森も見られる

    そんな欲張りなメルマガと思って読んでいます(笑)

    株式市場などのマーケットも、朝鮮半島情勢のみならず、イラン(原油)、ZTE、経済制裁の話題で神経質に反応する場面が多くなっているように感じます。

    外交絡みのトピックスは、関係各国の立場や利害を正しく理解していないと、情報に振り回されるだけ・・・なので、今週の切り口やテーマは今後のマーケットの対処にも役立つと感じながら読みました。ありがとうございます!

    このコインはネット販売していないんですね。んー、欲しいですねー。

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