2017/04/04 00:00 | 米国 | コメント(5)
トランプ政権のパワーポリティクス①
1月20日にトランプ政権が発足して2か月半が経過。今月末には就任100日となります。
この間、このHPでも報告しているように、色々なことが起こりましたが、政権を動かすパワーポリティクスの枠組みがだんだんと見えてきました。
おおまかに言って、いまトランプ政権を動かしているグループは以下三つとみられます。
①腹心:スティーブ・バノン首席戦略官兼大統領上級顧問
②身内:ジャレッド・クシュナー大統領上級顧問
③プロ(外交安保):HRマクマスター大統領補佐官、ジェームズ・マティス国防長官
③プロ(経済):ゲーリー・コーンNEC委員長、ウィルバー・ロス商務長官
いわゆるトランプのダークサイドを体現しているのが①バノン。
ラスト・ベルトの白人労働者を救うためにグローバル化を否定し、悪者(中国、部分的に欧州と日本)をたたくという、トランプの正義論に思想的・理論的バックボーンを提供するのがその役割です。
したがって、トランプにとっては最も頼りにすべき存在であり、その影響力が弱まることは、少なくとも当面は想定しがたいものがあります。
これに対して猛烈な巻き返しをはかっているのが③プロ組。
まず、安保についてですが、マクマスターは大統領補佐官に就任する際、バノンを何とかNSCから排除しようとしたといわれています。
また、NSCから軍事のマイクロ・マネジメント機能を取り除き、その部分はペンタゴンに任せる、NSCはマクロの外交安保戦略の立案に専念する、という方向に動かしています。
これは、NSCとペンタゴンの組織間対立を回避しながら、かつバノンの軍事への関与を最小限にとどめるという深謀遠慮に富んだ戦術であり、かねてよりお互い信頼の厚いマクマスターとマティスの見事な連係プレーともいわれています。
トランプ政権の安保政策において危惧されるのは、軽率な軍事行動に至るリスクです。
施政方針演説においてイエメンで戦死した海軍特殊部隊の未亡人が登場しましたが、このイエメンの作戦は、トランプが大統領に就任して早々に1月29日に決定した軍事作戦。
イエメンでの戦争にはサウジが大規模介入していますが、これはムハンマド・ビン・サルマン(MbS)副皇太子(国防大臣)が主導しており、サウジにとっては絶対に失敗させられないという危機感があります。
トランプは、このサウジからの強い依頼もあり、軍事行動を決定したとみられますが、結果は大失敗。
それを施政方針演説で自らの「大統領らしさ」の演出に利用するのは、さすがトランプ・バノンというところですが、とはいえ大きな傷を負った作戦でした。
いまそのリスクが顕在化しつつあるのが北朝鮮です。
ここでマクマスター・マティスのコンビがどこまで合理的な方向に政策を動かせるか。このパワーポリティクスがワシントンDCでは注目度の高いイシューとなっています。
また、経済でも同様な動きが起こっており、ここは、バノンが不合理な保護主義にトランプを動かすのをコーンとロスが必死に食い止めている状態。
今週木曜にいよいよ米中首脳会談が開催されますが、ここでトランプがどのような態度に出るかが、バノン対コーンのパワーポリティクスの状況を見極める一つの試金石となります。
そして、安保、経済いずれにおいてもキーパーソンとなるのが②クシュナー。愛娘イヴァンカの婿であるクシュナーに対する信頼は、バノンへの信頼と並んで、予測不能なトランプの行動原理の中で数少ない不動点といえます。
このクシュナーの考えが、私もワシントンDCにいる色々な人たちから話を聞いていますが、どうもよく分かりません。
一つ言えるのは、①バノンと③マクマスター・マティス、コーンのいずれとも良好な関係を築いていること。キャスティング・ボート的な地位を続けることで、自らの影響力を高めている節もあります。
クシュナーが今後どのような動きに出るかがパワーポリティクス上最大の注目点といえますが、この関連で注目されるのは、イヴァンカ・トランプの大統領顧問就任。身内びいきという批判は少なく、総じてトランプを安定化させる上で好材料とみられており、イヴァンカの人徳と知見が再確認されましたが、②クシュナーとは一心同体でしょうから、ますますクシュナーのキーパーソンとしての重要性が高まる人事ともいえます。
なお、こうしたキーパーソンに力が収斂していく一方で、ラインス・プリーバス首席補佐官、ピーター・ナヴァロNTC委員長(いずれもどちらかといえば①グループ)の凋落が激しいようです。
レックス・ティラーソン国務長官(③グループ)もやや影が薄い・・・と言われますが、これはマクマスター・マティスと比べると行政経験が浅く、国務省もまだまだ陣容が整わない状態ということもあるのでしょう。
もう一つ注目すべきは、やはりクレムリンゲート問題。
■ Sean Spicer downplays Trump’s calls for immunity for Michael Flynn(3月31日付BBC)
マイケル・フリン前大統領補佐官は司法取引をすべきだとトランプがツイートし、ショーン・スパイサー報道官がそれは政府の正式な提案ではないという弁明。
日本ではほとんど報道されていませんが、先週の最大のニュースはこれでした。
3月20日にコミーFBI長官が捜査は続いていると述べたとおり、クレムリンゲートはトランプ政権にとって最大のアキレス腱として残っています。
おそらく情報機関としては、いつでもトランプを揺さぶることができるカードとしてこのまま温存しておくのでしょう。これによってトランプ政権を裏から制御する。米国で最も危険な機関を敵に回したツケをトランプは払うことになります。
では、政策はどうなるのか・・・長くなったので、これは次回に回します。
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5 comments on “トランプ政権のパワーポリティクス①”
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「正しく怖がるべきだ」とは、福島原発事故を話題にするとき
一時しきりと使われた表現ですが、北朝鮮については知り得る
情報があまりにも少なく、疑心ばかりが先走ってしまいます。
最新号の雑誌「選択」では、なんと巻頭が「米朝有事」の可能性に
関する記事2連発。
正直ガクブル状態です。
あのペルドンさんも「風雲急を告げている」とした北朝鮮情勢。
週末の米中会談をめぐる話題を、続報を、さらにはJDさんの所見を
是非ともアップしてくださいませ。
仮に米朝が軍事衝突などした日には、日本も甚大な被害をこうむるのが
火を見るより明らかなわけなので。
トランプの行動にしては予定通りすぎて
笑ってしまいますが
悪の枢軸にはほぼ北朝鮮が決定したような感じ
それに対して日本は駐韓大使の帰任
アメリカが本気でやるかもしれない
というのに
日本の平和ボケにはあきれますね
日本の生贄・・
名誉の戦死・・( ^ω^)・・・(笑
どうもです。那須の山奥の兄ちゃん氏がおっしゃっていましたが、韓国への大使帰任は韓国の慰安婦云々よりもおそらく起こるであろう第二次朝鮮戦争に対応した邦人保護の任務が大きな目的なんじゃないかなと様々なニュースを見るにつけ、そう思っています。ただ国内の報道は相変わらず何がなんだか訳分からん事ばかりしか伝えておらず、何と言うか平和ボケと言われても仕方がない部分も事実ですねえ。ただ少なくとも日本政府はドンパチが近いと言う事を感じているんじゃないでしょうかね?今回の大使帰任のニュースはそう感じます。
おはようございます。
「トランプ米大統領、側近バノン氏をNCSメンバーから外す」という記事をロイターで見ました。
これは米中首脳会談を前に、今月2日付けの英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)のインタビュー記事が少なくとも影響していると推察致しますがどうなんでしょうか。個人的には中国に配慮と申しますか、貸しを作ったものではないかと感じております。
今回のブログ記事はまさに旬なだけにとても参考にさせて頂いております。
また、よろしくお願い申し上げます。