2016/06/22 02:41 | 南アジア | コメント(5)
篠田節子『インドクリスタル』
インド出張中ということで、インドに関する本のご紹介です。
パードゥンさんから、女性蔑視などインドの社会文化についてのコメントがありましたが、ご指摘の点を含め、インドの価値観には我々の常識からは理解しがたい部分があります。
こちらは小説ですが、そうしたインドの現実を生々しく描いていた作品です。
工業用の水晶を求めてオディシャ州の部族地域に踏み込んでいく日本人経営者が、インドのダイナミズムに翻弄される物語です。
エンターテイメントとしても優れた作品ですが、物語の中で描かれるインド人の振る舞いがリアルで、ノンフィクションを読むような興奮も味わえます。
たとえば、インド社会の特徴の一つに酒を飲むことを恥じる文化があります。イスラム教のように、宗教的に飲酒が禁じられているわけではなく、普通に飲まれてはいるのですが、ヒンドゥーの禁欲的な文化やマハトマ・ガンディーが禁酒を貫いたことから、特に高位カーストにおいて、飲酒は敬遠される傾向があります。
これはビジネスにおいても、たとえば宴席で、教養や学歴の高い人ほど、酒を飲むことを遠慮したり、飲むにしてもどことなく慎ましく振る舞う雰囲気などから感じ取ることができます。以下は、インドの飲酒量が世界的に見て少ないことを示す興味深いデータです。
(出所:The Economist)
最近では、2014年にケララ州、今年4月にビハール州で禁酒法が成立しました。禁酒法自体は今に始まった話ではなく、古くはグジャラート州、90年代にはハリヤナ州、アンドラ・プラデシュ州で成立しています。
この本でも、高位カーストでウィスキーを嗜む人物が登場し、その振る舞いが主人公の日本人を驚かせる場面があります。これは飲酒を恥と考えるインドの文化を前提にした描写です。
この他にも、カーストの実態や肉体労働に対する軽蔑など、我々の価値観からは程遠いインドの社会と文化の特徴が細かい仕草の中に現れます。エンターテイメントを楽しみながら、インドのスケール、迫力、闇の深さを実感できる優れた作品です。
パードゥンさんが指摘された女性蔑視も痛々しいほど出てきます。女性の迫害といえば、以下の作品はかつて日本でも大きく取り上げられました。
虐待と陵辱の少女時代から、盗賊の女王になり、獄中生活を終えた後に国会議員に当選。最後には凶弾に倒れるという数奇な運命をたどった女傑の自伝です。
インドで女性が活躍し、しかも国会議員にまでなるというのは、想像を絶するほどにとてつもないことですが、そういった女傑は現代において何人か存在します。
その一人が、私が今回の出張で訪問するチェンナイのあるタミル・ナドゥ州の州首相であるジャヤラリタです。元映画女優で、カリスマ的な人気があり、現政権で唯一絶対の権力者といわれるほど絶大な政治力を誇っています。
その他の有名な女性政治家としては、30年以上にわたる西ベンガル州の共産党支配を破り州首相に就任した「西ベンガルの炎の女神」ママタ・バナジー、アウトカースト出身で女性という二重苦を乗り越え2億人を擁する最大州のウッタル・プラデシュ州の首相に上り詰めたマヤワティが挙げられます。
インドは、日本のメディアではあまり取り上げられませんが、政治経済両面において世界政治の重要なプレーヤーとして注視される存在になりました。タイミングを見てなかなか分かりにくい実像について解説したいと思います。
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5 comments on “篠田節子『インドクリスタル』”
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自由主義国として、インドに頑張ってほしいし、その知的資源も充分に
あると誰しも思いますが、女性や被差別の問題は深刻で、
ここでインドへの経済的な応援で既得権者達がうるおうと、
かえって差別が一層ひどくなりそうで不安です。
はっきり言えば
差別の域を超えて、生存権にかかわる酷さが伝わってきます
国を応援するより、個人起業を応援してあげるほうがいいかも知れませんね
インドクリスタル、インド出張、今週の動き(6/13-20)の写真の場所に、「車両侵入禁止」のマークが…なぜ?…当方のパソコン設定の加減なんでしょうが、もしくはパソコンが不調?…利用証券会社の画面でも個別銘柄ページのチャートが読み込みされずエラーのまま…面倒なのでそのまままのですが…それはさておき、いったいどんな写真が…(笑)
インドのスタートアップ起業家達がソフトバンク次期社長とされた
アローラ氏の突然の首切にがっかりしているでしょうね
孫さんのやり方は日本人的ではないので、その点はインドの
若者起業家達に伝えてください
もしかして、社内の日本人が大奥的な動きをしたのなら
ご免なさいですが
どのように伝わってますか?
篠田節子さんの小説、角川ホラー文庫での短編や、夏の災厄なんか読んだことあるんですが、独特のねっとりした冗長感が苦手で手に取ることなくなったんですが、これは本当に面白そうですね。
早速買って読んでみます。
女盗賊プーランはとっても話題になった本ですよね。センセーショナルな新聞広告や来日なされたことが記憶にあります。暗殺されたんですね。
ネルーの娘さんのインディラ・ガンディーさんの暗殺とか、女性政治家にとっても厳しい国なんでしょうね。
宗教や出自を背景とする男性優位/女性蔑視は正直、どうしようもないやり切れない気持ちになりますが、女性政治家に対するものはそれとは違う、女性嫌悪に近いものなんだと思います。
有能さと攻撃性を正面に出すタイプのヒラリー・クリントンさんや朴槿恵大統領に対するバッシングなんかにはそれを感じます。
職場でも男性には素直に注意を受けている若い子が女性の上司には不平や怒りを我慢している表情になるのをたまに見ます。
ヒラリーさん、嫌われないで大統領になれるといいなあ。
逆におばちゃんタイプのメルケルさんや土井たか子さんなんかにはそれを感じないので、魅力的なおばちゃんになるのがいいのかなあ。
シャンタラム並みの面白さでした。
いい本の推薦ありがとうございます。
優秀な人間がそろっても国が発展する
わけではないことがよくわかりました。
他にも楽しそうな本を色々と挙げて
いただいており有難いのですが、なかなか
追いつけないのがちょっと残念です。。。