2015/12/16 00:00 | 東南アジア | コメント(1)
フィリピン大統領選:「ダーティハリー」の参戦
来年5月に予定されるフィリピン大統領選については、「2016年大統領選」でお伝えしたとおり、グレース・ポー上院議員、ジェジョマール・ビナイ副大統領、マル・ロハス内務自治大臣の争いになっていました。
記事でも予想していたとおり、その後、ポーが支持率を上昇させてトップランナーとなり、一方でビナイとロハスは支持率を下げます。それぞれの候補のランニングメイト(副大統領候補)も決まり(副大統領候補にはマルコス元大統領の息子ボンボン・マルコスもいますが、彼はミリアム・サンチャゴ上院議員のランニングメイトになりました)、このままポー優位のまま三つ巴の選挙戦が進むとみられていました。
ところが、最近、この状況を一変させる事態が発生しました。まず、11月21日、ダバオ市長のロドリゴ・ドゥテルテが大統領選への出馬を表明しました。
■Crime-Busting Mayor Rodrigo Duterte Jumps Into Philippine Presidential Race(11月23日付The Wall Street Journal記事)
そして、12月7日に公表された最新の世論調査では、このドゥテルテが支持率を急上昇させ、一気に首位に立ちました。
ドゥテルテは、1988年にダバオ市長に選出されてから、中断期間はありますが、30年にわたり一貫してダバオ政治に君臨してきた実力者であり、犯罪都市だったダバオの治安を劇的に改善させ(現在ダバオは世界で最も安全な都市の一つであり、フィリピン観光省は「最も住みやすい都市」と認定している)、高い経済成長を実現させました。
また、フィリピンではめずらしくイスラム教徒に対して寛容な姿勢をとり、積極的に政治に参加させるという一面ももっています(ミンダナオ島がイスラム教徒の多い地域であり、宗教対立が問題となっていることは「ミンダナオ和平」で述べたとおりです)。
しかし、ドゥテルテは、非常に個性的というか、問題のある側面をもっています。それは、「犯罪者は殺す」と公言し、実際に警察官が犯罪者を射殺することをためらわないという、極端なまでに強権的な治安政策です。このため彼は「ダバオのダーティハリー」「処刑人(The Punisher)」と呼ばれています。
具体的には、ダバオには、「ダバオ・デス・スクワッド(DDS)」と呼ばれる自警団があり、彼らは犯罪者を見つけると、白昼堂々と射殺し、去っていくという、およそ法の支配を無視した行動をとっています。このDDSの裏にいるのはドゥテルテであるといわれています(本人も関係があることを認めている)。しかも、「処刑」にはドゥテルテ自身も参加しているという噂もあります。
ドゥテルテは、大統領選に出馬した後も、警察官による射殺を容認することをあらためて強調し、さらに、大統領になった暁にはアロヨ政権下で廃止された死刑制度を復活させ、10万人を処刑すると述べています。
このようなドゥテルテの常軌を逸した発言や行動は、当然のことながら国内外で強い批判を浴びてきました。ドゥテルテの放言は犯罪者の厳罰にとどまらず、たとえば1月にローマ法王がフィリピンを訪問し、そのために交通渋滞が発生した際には、公然と「Pope, you son of a bitch, go home. Don’t visit here anymore.(ローマ法王、●●野郎、もう来るな)」と暴言を吐いたことも(フィリピンがカトリック社会ということもあり)大きな波紋を呼びました。
それでもなおその統治の実績は高く評価され、またフィリピンでは、過去に映画俳優のジョセフ・エストラーダが大統領となり、最近でもボクサーのマニー・パッキャオ(下院議員、5月の選挙で上院議員選に出馬予定)が大統領候補として絶大な人気を誇るように、スーパースターが政治家としても支持を集めますが、そのようなフィリピン国民受けする「ロックスター」さながらの派手なキャラクターから、市民の支持は絶大です。
大統領選のたびに、不出馬を表明しながらも、世論調査では常に支持率上位にあがってくるという人気政治家でした。その一方で、トップランナーだったポーについては、大統領立候補要件が認められず、失格という選挙管理委員会の判断が下されました。
■Philippine Presidential Favorite Grace Poe Barred From May Poll(12月1日付The Wall Street Journal記事)
大統領立候補要件には、①生まれながらのフィリピン人であること、②投票日から最低10年間はフィリピンに居住していることという要件が含まれるところ、出自不明の孤児であり、長く米国に居住していたポーは、いずれの要件も満たしていないのではないか、という問題が指摘されていました。そして、中央選管第2小委員会と第1小委員会は、それぞれ12月1日と11日に、要件は満たされていない、という判断を下しました。
中央選管はこれから最終的な判断を下す予定ですが、ポー側があらたに有利な証拠を示さない限り、要件は満たされず、失格、という判断が下されることになりそうです。そうなると、ポーの票がどこに流れるのかが問題になりますが、おそらくアキノ大統領が支持するロハスに流れる可能性が高いとみられます。
ということで、豪腕ドゥテルテの参戦、トップランナーだったポーの失格濃厚という新たな事態の発生により、フィリピン大統領選は一気に局面が変わりました。今後のドゥテルテの勢いとポーの大統領候補資格の帰趨に要注目です。
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アキノ大統領の指導力の弱さかな・?