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The Gucci Post [ぐっちー編集長の金融・経済を中心としたオピニオンブログ News Paper]

2015/09/17 00:00  | 東南アジア |  コメント(4)

ベトナム最高指導者の訪日(ベトナム戦争終結40周年)

安倍総理大臣とチョン・ベトナム共産党書記長の会談(9月15日付外務省HP)

ベトナムのグエン・フー・チョン共産党書記長が訪日。細かい話になりますが、共産党書記長は国内的にはベトナムの最高指導者である一方、実は国際的には国家主席が元首として最高の立場にあります。

現在のベトナムの指導部は、グエン・フー・チョン書記長、チュオン・タン・サン国家主席、グエン・タン・ズン首相。国内において最高の地位にあるのがチョン書記長、国外において最高の地位にあるのがサン国家主席、行政の実権を握るのがズン首相で、それぞれ党内序列は1位、2位、3位ですが、この中で最も重要な人物は間違いなくズン首相です。

歴代において最もパワフルな首相といわれるズン首相は、批判を浴びることもありましたが、強力なリーダーシップを発揮して改革を進めており、来年予定される共産党大会では書記長と国家主席を兼任する形で選出されるかもしれない(現時点ではこの可能性は低いとみられますが)と言われるほどです。ちなみにサン国家主席はズン首相と同年齢で、長らくライバル関係にあった人物でした。

最高幹部である政治局委員は現在14人。このへんは中国のシステムと非常に似ていますが(常務委員7人に相当、ラオスの人民革命党も同様の体制)、全ての権力を序列の高い者に集中させず、役割に応じてトロイカ体制(権力の分散の程度が強い集団指導体制)をとるのがベトナムの統治体制の特徴です。

話がそれました。日越首脳会談に戻すと、今回の会談では、南シナ海における中国への対抗が一つのポイントとなったとのこと。

ASEANは、大まかに言って、大陸部の国々が中国に傾斜し、島嶼部の国々が(南シナ海における領有権問題もあり)中国から離れていくという状況にあります。

ベトナムは、一見すると大陸部に属するように思えますが、この国は大陸部の国々が共有する上座仏教圏とは異なり、いわば「紅河・中華文明圏」にあって、独自の位置を占めています(前近代のベトナムは中国のコピー国家の様相を呈していました)。

このため、大陸部とも島嶼部とも異なる特性がありますが、中国との関係についていえば、中華文明圏にあったから中国に吸収されるというものではありません。むしろ、1000年の中華帝国による支配を経て、これに反逆し、絶えず争う関係にあったため、冷戦期の対立も含め、緊張関係が常態にあります。

また、経済面での協力についても話し合われています。日本は、米国、中国に次ぐ第3位の輸出相手国であり、二国間援助の最大の供与国です。両国の間には懸案らしい懸案もなく、基本的に日本とベトナムの関係は極めて良好です。

ところで、チョン書記長は、訪日に先立つ7月、最高指導者として初の訪米を果たしました。今年は、ベトナム戦争終結40周年、米越国交正常化20周年にあたりますから、記念すべき年に両国の関係の順調さを演出できたといえます。

ベトナムは人権抑圧問題を抱えており、ご多分に漏れず、米国は(議会の圧力から)これをしばしばやり玉にあげます。しかし、前述のとおり、米国はベトナムにとり最大の輸出相手国、ベトナムはTPP交渉にも参加する数少ないASEAN加盟国であり、また、南シナ海での中国への対抗もあって、基本的に両国の関係は強化される方向にあります。

このように、近年、日米との協力を深める一方のベトナムですが、歴史を少し振り返ると、今の状況はなかなかに感慨深いものがあります。冷戦とベトナム戦争は、ベトナムと米国、日本、他の東南アジア諸国を決定的に相容れない、敵国の関係に追い込みました。

当時の東南アジアの情勢を見ると、タイ、マレーシア、シンガポール、フィリピン、インドネシアなど多くの国々が西側陣営に属する中で、ベトナムだけが共産主義国として独立し、周辺国に軍事的脅威を与えていたことが分かります。米国はタイに軍事基地を置いていましたが、これは中国とベトナムへの対抗を目的としていました。

そのベトナムの脅威が現実化したのが1978年のカンボジア侵攻です。これによりベトナムは国際社会において決定的に孤立しました。しかも79年には中国と激突します(中越紛争)。このときは、ベトナム戦争で鍛えられたベトナム軍は、文化大革命と毛沢東の死去後の混乱期にあった中国の軍を散々に打ち破りました。その後、長らくソ連頼みの体制が続くことになります。

ベトナムが国際社会に復帰することを可能にしたのは、91年のカンボジア和平でした。ここからベトナムは一気にASEAN、米国、中国との関係を改善し、95年には米中との国交正常化、さらにASEAN加盟を果たします。経済的にも開放を進め、2007年には念願のWTO加盟を実現し、完全に国際社会に復帰します。

そんなわけで、安全保障の面では長らく東南アジアの不安定要因であり、ドイモイ後はハイパーインフレに苦しんだベトナムが、いまや東南アジアの希望の星といえるほどに経済を発展させ、日米EUとFTAを締結し、中国に対抗するというのは、何とも趣深いものがあります。

ただ、ソ連時代から続くロシアとの強いつながりは、状況を少し複雑にしています。最近も、戦略的要衝であるカムラン湾をロシア軍に使用させたことが問題になったり、逆に兵器のロシア依存から脱却を図るといった点が注目されました。

また、中国との関係では、安全保障の面でも強引な直接投資の手法の面でも揉めることが多いとはいえ、経済的つながりは深く、ベトナムとしては、ロシア、米国、中国という大国の間で立ち回るという高度な外交が要求されています。その中で、日本とASEANとの関係も意味をもつことになります。

最近、 米国とキューバの国交正常化がありましたが、今後の米キューバ関係の発展については、米越国交正常化のプロセスが参考になるとも言われています。

いずれにしてもベトナムは国家の規模(人口9200万人)、経済のポテンシャルいずれも期待ができ、現状において元気も良く、今後も引き続き注視すべき面白い国といえます。11月にはハノイとホーチミンで講演をする予定なので、また報告したいと思います。

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4 comments on “ベトナム最高指導者の訪日(ベトナム戦争終結40周年)
  1. ペルドン より:
    JDさん

    >>11月にはハノイとホーチミンで講演をする予定

    凄い・・きっとブェトナム語でやるんだな・・
    内の豚児が・・入社出来たら・・サイゴン出張所があるから・・行かされるかな・・?
    その際はよろしく・・もうカラカワナイから。・。・・(笑

  2. anonymous より:
    Pho Co

    ハノイとホーチミン、雰囲気は異なりますが、
    どちらも良かったですね。
    訪れたのは2009年頃ですが、
    仰る通りまだまだ伸びしろがありそうでした。

    ホーチミンではクリントン夫妻の訪れたレストランに
    入りましたが、ぐっちーさんの宣う円高のおかげで、
    貧乏学生でも気軽に楽しめました。
    同じくホーチミンの戦争博物館も見応え十分ですよね。

  3. JFKD より:
    ジャック・アタリ

    たしか21世紀にベトナム経済はアジアで、高度成長期の日本もうらやむほどの成長(アジア3位)をすると潜在力を評価していました。国民の優秀な質の均一性は日本と似ているのかも。しかし中国と同じく共産党政権と技術開発力の問題はあるが、規模は日本と同じで中国のような難題は避けられそうか。あっという間に中国が日本のGDPの2倍になったが、障害がなければそれ以上のスピードらしい。外資の割合が注目されるところ。中国は最後は外資を接収すれば済むだけの事と考えているようですね。ただ外交は日本以上の難しさですが、日本のように憲法で縛られることはないですね。

  4. YM より:
    10年前、訪越しました

    越は上中下の地域でそれぞれ雰囲気が異なり、特にホーチミンの活気は素晴らしかったです。後、女性が強い!また、当時はカンボジアの政治は越の強い影響を受けていました。

    東南アジアには今後、印度が必ず絡んでくると思います(人によってはシンガポールはこれから印度にシフトするとか)。そうすると、越は米ソ中印(と日やその他の周辺諸国)と駆け引きをしつつ独自の路線を歩むと考えており(最重要は地続きの対中対策)、ここ数年は、米国だけでなく印とも関係を強める方向にあります。

    お忙しいでしょうが、特に印度絡みの視点で、越などについて記事を書いてくださると嬉しいです。

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