2015/09/08 00:49 | 米国 | コメント(5)
米国務省の人身売買報告書② - 日米の性文化の違い
「米国務省の人身売買報告書① :『東京アンダーワールド』」の続きです。
前回は、米国の人身売買報告書における日本の低い評価の背景には、日本研究者・ジャーナリストが日本の闇社会を強調していることがある、と指摘しました。
今回は、もう一つ、文化論的な背景として、日米の性表現の違いについてご説明します。
まず、米国人は、パブリックの場で放埒な性描写をすることに強い抵抗を感じます。たとえば、日電車やコンビニのようなオープンな場で、グラビア雑誌や広告など、若い女性のセクシーな写真・描写が出ている日本の状況に驚く米国人は多いです。
歌舞伎町のような派手な赤線地帯(red-light district)は、米国ではお目にかかることはありません。ワシントンDCにはストリップバーがありますが、店構えは慎ましやかです。ニューオーリンズは、比較的女性の裸の露出に対して寛容で、歓楽街も派手ですが、これは例外的で、米国よりもむしろ欧州の香りを感じさせるところです。
私が米国にいた頃、スーパー・ボウルのライブでジャネット・ジャクソンが片胸を露出するというたわいもないパフォーマンスがありましたが、これが大事件になりました。そのポロリの瞬間の写真はなかなか拝むことができず、ネットに出たときにはそれだけで話題になったほどです(『The Economisit』は米国人のナイーブさをネタにしました)。
また、米国人は、子どもの性の搾取(exploitation)に対して非常に強い警戒心をもっています。「pedophile」(小児性愛者)は、米国において最も嫌悪され、危険視される犯罪者の類型です。社会的なスティグマといえます。
ちなみに、このタブーのテーマを大胆にコメディーにした問題作が『ハピネス』(トッド・ソロンズ監督、1998年公開)です。主演俳優のフィリップ・シーモア・ホフマンは、まがまがしいカリスマに満ちた怪優でしたが、惜しくも最近、ドラッグのオーバードースで亡くなりました。
このため、女子中高生や小学生が、グラビアモデルやアイドルとして、大人顔負けの色気をアピールすることに抵抗を感じる米国人は結構います。
日本のアニメが警戒される向きがあるのも、この少女愛を匂わせるものがあるからと思います。「ロリコン」に対して米国社会は非常に厳しいのです。たとえば、私が米国にいた頃、カートゥーン・ネットワークというTVチャンネルで、よく日本のアニメがやっていました。
特に、深夜の時間帯に、「アダルト・スウィム」と称して色々な番組を流しています。私はルームメイトの米国人3人と一緒に「ガンダム」と「ルパン3世」を見ていました(ちなみに、米国ではフランス文学である「アルセーヌ・ルパン」が知られていないので、ルームメイトたちはみな「3世」の意味を理解していませんでした)。
日本では普通の子どもが見るアニメなのに、どうして深夜?「アダルト」?と思ったのですが、一つには、米国における放送コードの厳しさがあるでしょう。私たちが普通にテレビで見ている暴力や性の描写の多くが、米国では放映を許可されません。しかも少女だとなおさら無理です。「ドラえもん」のしずかちゃんの入浴シーン、「トトロ」のメイとさつきの入浴シーンは確実にアウトと思います。
米国人は性に関して大らかという印象をお持ちの人が多いかもしれませんが、このように、パブリックな場での視覚的表現と、年少者の絡む性描写には、非常に厳しいスタンスをとっています。
一方で、性に関して、日本よりもずっと大らかに感じる場面もあります。
たとえば、『フレンズ』や『サインフェルド』といった、ゴールデンタイムに放映している人気シットコムを見ると、あけすけにセックスに関する会話がされています。親子で一緒に見るような番組で、「よし、もう我慢できない、セックスしよう!」と叫んで男女が部屋に飛び込んでオシマイ、という落ちがいくらでもあるのです。
お茶の間が気まずくならないのかなと心配になりますが、どうも、ビジュアルではなく、言葉や振る舞いにおいては、かなり性に対してオープンな面があります。
米国人の家庭では、親が子どもに対してデートの仕方などを積極的に教えるという文化があります(映画やTVドラマでは、クラシックな作品から『アメリカン・パイ』のような最近のコメディに至るまで、こういった場面をよく見かけます)。
また、映画については、R(17才未満は親か保護者の同伴必要)、PG-13(13才未満は親か保護者の同伴が望ましい)、NC-17(17才未満は一切見られない)といったルールがあり、この年齢設定は日本よりずっと厳しい印象がありますが、一方で、ルールさえ満たせば子どもでもOK、しかも日本では許されないような過激な描写も認められます。
ルールに基づいて白黒はっきりさせる点が何とも米国らしいです。こういった性に関する文化の違いが、米国務省の日本での慣習に対する冷たい態度に表れている、という気がしています。
ただ、米国の押しつけがましい価値観も感じる一方で、歌舞伎町やグラビア広告もおとなしくなってきましたし、何となく、日本の文化もだんだん米国に近づいている気もしますが、どうなんでしょうね。
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5 comments on “米国務省の人身売買報告書② - 日米の性文化の違い”
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オランダの飾り窓・・
どうなのかなぁ・?
公娼がある国・・まだまだ・・あるのでは・・・?
欧州は、米国とぜんぜん違います。
米国だけが、神の国、City upon a Hill、例外なんでしょうね。
オランダの性と暴力に対する激しい思い入れは・・好きです。笑
ワインが入っておりますので、整合性に欠けた文章になりますが。
日本の特に漫画のキャラやアニメのロリコン趣味は、多分に男性向けで、女性が見ても一向に燃えません(萌えません?)。
対して、米国の番組、ネットで流れる画像(マット・ボマーの海辺での写真とか)、眼が離せません(笑)
ドラマ、映画にしても(セックス&シティとかマジック・マイクとか)存分に?女性も(が?)楽しめます。
性の文化に関しては、JDさんのおしゃっていることから外れますが、なんか偏りを未だに感じます。
女性ももっとおおっぴらに楽しめば?、ロリコンも目立たなくなるというか、なりを潜めるとかな、なんて。
光源氏も世之介も、惚れた同士が陰でヤるのに一々野暮は申しませんと思ってる人間としては、LGBTは人権問題と大上段に構える米国な感性は謎です。
それ以上に、骨の髄まで理系な人間としては、生殖という生物の根幹に関わる事柄のインセンティブシステム(感情のことです)において、なぜ自然淘汰の鉄の掟がこれほどの多様性を許容しているのかが本当に本当に謎です。
性に関しての人間の変化は、医師の夏井睦氏の「炭水化物が人類を滅ぼすー糖質制限からみた生命科学の謎」が大変興味深く、農耕の開始による人間の生殖への価値観、モラルの変化を推論しておられて頷けるものがあります。
そして、彼が勧める「性の進化論」クリストファー・ライアン&カシルダ・ジェタの著作は面白いです。
なるほどと思いました。
よろしかったらご一読ください。