2021/08/16 06:30 | by Konan | コメント(0)
Vol.118: また三題話し
8月も早くも後半。私はお盆休みを終え今日から仕事モードです。今回はIPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change)による気候変動レポート公表という大きなネタがあり、これに集中しても良かったのですが、夏バテ気味なので3つのお題に簡単に触れることにしました。
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衝撃的な?!気候変動レポート
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8月10日の各紙朝刊で取り上げられたIPCCの第6次評価報告書。紹介し始めると切りがありませんが、以下の3点がポイントと思いました。
・人間の活動が大気や海洋や陸地の温度を上げていることは「最早疑う余地がない・明確である(unequivocal)」と言い切ったこと。これまでの「恐らく」「多分」的な留保が消え去りました。熱波、豪雨、干ばつなどの異常気象が気候変動の影響で起きていると断じています。
・どう頑張っても、2040年や2060年までの短中期では+1.5度(以上)の気温上昇が不可避と認めたこと。
・2050年までに世界全体でカーボンニュートラルを実現できれば、2100年までの長期では+1.4度上昇に踏みとどまる余地が残されていること(それ以外の道はないこと)。
因みに火山の噴火にも触れられていて、「大噴火が起きれば一時的に気温が下がるが、傾向を変えることは出来ない」とされます。
この報告書がCOP26の議論の土台になります。無論その議論は紆余曲折が予想されます。「気候変動論は欧州の陰謀」「中国はどうせ真面目に取り組まないので日本が真面目に取り組むと損するだけ」「共和党政権になれば米国も態度を変える」「温暖化で恩恵を受けるロシアは温暖化を助長する動きに出る」との議論も日本の論壇で良く聞かれます。
そうした面があることは否定しませんし、ずる賢さも必要でしょう。しかし、だからと言って日本の自動車メーカーがEV車や水素エンジン車に取り組まない選択肢はあり得ず、いつまでも石炭火力に依存する選択肢もあり得ません。論壇が何を言おうと、企業は動いていかざるを得ないと思っています。
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倒産増加リスク
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2つ目のお題もレポートの紹介です。8月6日、みずほリサーチ&テクノロジーズから「倒産増加リスクをどうみるか 資金繰り支援縮小やインバウンド回復の遅れが逆風」と題するレポートが公表されました。
このお題は、コロナ禍初期の頃このコーナーで取り上げたこともあるテーマです。今回のコロナ禍の特徴は、日本経済全体として成長率が大きく落ち込んだにも拘わらず倒産が余り増えないことと、K字型と言われるように業況悪化先と好転・不変先に影響が二分されることです。K字型で下を向く飲食・宿泊・鉄道などの業種でも倒産が増えない理由は、倒産に至る前に(まだ蓄えが残る段階で)廃業を決断する例も多いことに加え、無利息・無担保融資により資金繰りが支えられていることにあります。
しかし、無利息・無担保と言えどもいつまでも返済しないで済む訳ではなく、借金の残高は膨れています。そして、売上高がコロナ禍前の水準を回復したとしても、返済に要する年数はコロナ禍前に比べ相当長期化します。まして、海外では日本以上にワクチン接種が進まない国も少なくなく、インバウンド消費の回復には相当の時間がかかります。このため、今は何とか持ち堪えている企業においても倒産増加が心配されるというのが、このレポートの趣旨です。
この他、私は貸し手である金融機関への影響も心配です。みずほとしては書き難い点ですが、コロナ禍対応の融資には地方公共団体の保証が付くので、金融機関は貸倒れリスクを負いません。しかし、コロナ禍前から貸していた分まで保証される訳ではなく、借り手が倒産するとその分は貸倒れリスクに晒されます。日銀の金融システムレポートの試算では、それでも金融システムは持ち堪えるとされていますが、金融機関の間には大きな体力差もあり、注意が必要です。
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菅総理のコミュニケーション
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コロナ禍の新規感染者数が爆発し、重症者も大幅に増え、医療崩壊の危機が迫っています。春頃にはインドでの40万人の新規感染者数が大騒ぎとなりましたが、これは人口1/100の東京都の4千人に相当するので、東京の感染状況は結構なものと言うこともできます。
日本の医療体制に問題がある(医療資源が分散し活かし切れていない)点には何度か触れましたが、それはそれとして、コロナ禍の深刻化に伴い菅内閣の支持率が大きく低下しています。媒体にもよりますが、「菅内閣発足後最低」「危険水域」「五輪支持率のほぼ半分」といった点は共通です。既に言い尽くされていますが、オリンピックでの日本の最多メダル獲得は内閣支持に結び付いていません。それどころか、広島・長崎での失態など、「本当に大丈夫か?」と呆れられるところまで来ています。ワクチン接種率が高まり、それに伴い感染状況が改善するであろう10月以降まで持ち堪えることが出来れば起死回生の逆転劇もあり得ますが、徐々にその確率が低下している印象です。菅総理にとり唯一の救いは、与野党ともに有力な対抗馬が不在なことでしょうか。
ところで、元々口下手の評が定着していた菅さんのコミュニケーションの一段の劣化が目立ちます。コロナ禍との関係では、「ロックダウンは効かない」「人流は減少している」との発言が、政府の危機感の薄さを象徴するとして問題視されます。
想像ですが、菅さんは批判されることが嫌いで、周囲もそれを忖度します。人流は減少していますし、ワクチンが決め手であることも確かですが(デルタ株によりこの点も揺らぎ始めていますが)、従来より感染力が強いデルタ株を前提にすると、西浦教授の言う通り昨春くらい徹底した人流抑制が無いと実効再生産数は1を切りません。このため、「この程度の人流抑制では足りず、ロックダウン相当の抑制が必要」と本来言うべきところ、部分均衡的に耳障りの良い点だけ総理に伝わり、何も考えずそのまま発言しているのが実情と思います。ある官庁の幹部は「官邸の官僚力が落ちている」と嘆いていましたが、このくらいは総理自ら気付くべきでしょう。
今回はこの辺で。
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