2025/05/12 06:30 | by Konan | コメント(2)
Vol.275: 日銀金融システムレポート
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金融システムは安定性を維持
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今回は、間が空いてしまいましたが、4月23日に公表された日銀の金融システムレポートを紹介します。毎年2度、4月と10月に公表され、日銀の金融システムの安定性や課題に対する評価が示されます。
また、最近は金融政策決定会合に金融システムレポートを執筆する金融機構局が毎回出席するようですが、1月、4月、7月、10月の決定会合後に公表される展望レポートには、以下の記述があります。金融システムレポートがこの基盤となっています。
「金融面のリスクについてみると、不動産価格の上昇ペースには引き続き留意が必要であるものの、全体としてみれば、資産市場や金融機関の与信活動には過熱感はみられていない。わが国の金融システムは、全体として安定性を維持している。また、内外の実体経済や国際金融市場が調整する状況を想定しても、わが国の金融機関が充実した資本基盤を備えていることなどを踏まえると、全体として相応の頑健性を有している。そのうえで、各国の通商政策等を巡る不確実性がきわめて高いことを踏まえると、それが様々な経路を通じて金融システムに及ぼす影響については丁寧にみていく必要がある」
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4つのチェックポイント
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金融システムレポートの結論は、上記で引用した展望レポートの内容です。整理すると以下の3点になります。
・資産市場や金融機関の与信活動には過熱感(大きな不均衡)はみられない
・金融システムは全体として安定性を維持している、相応の頑健性を有している
・不確実性がきわめて高い、(従って)金融システムに及ぼす影響については丁寧にみていく必要がある
そのうえで、「資産価格の動向」「倒産・デフォルト動向」「ノンバンク部門のプレゼンス拡大」「金融機関と企業・家計の金利耐性」の4つの観点からのチェックを行います。その結論は以下の通りです。
(資産価格の動向)
・わが国の金融機関が相応の株式リスク量を有していることを踏まえると、資産価格の動向には留意する必要がある
・金融機関の不動産関連エクスポージャーが趨勢的に増加していることも踏まえると、不動産価格の動向には引き続き注意が必要である
(倒産・デフォルト動向)
・企業倒産・デフォルトをみると、増勢は鈍化している。財務面で脆弱性を抱える企業の割合はこのところ低下しており、感染症拡大前の水準に近付いている
・もっとも、今後の展開次第では、グローバルな金融経済活動が大きな影響を受け、企業の財務内容の悪化につながる可能性がある。金融機関は、こうした潜在的なストレスの影響について注視していく必要がある
(ノンバンク部門のプレゼンス拡大)
・わが国の金融機関や金融資本市場と海外ノンバンク部門との間の結びつきは強まっている
・(このため)海外ファンドが、海外発のストレスに対して、グローバルにポートフォリオ調整を行う結果として、わが国金融市場や金融機関財務に影響が及びやすくなっている可能性もある。金融機関には、こうした点にも留意しつつ有価証券にかかるリスクを把握・管理していくことが求められる
(金融機関と企業・家計の金利耐性)
・金融機関の金利耐性は、ひと頃と比べて改善した状態となっている
・企業の金利耐性は、全体として改善してきている。ただし、脆弱性を抱える企業の与信管理については、引き続き注意していく必要がある
・家計の金利耐性については、近年、年収に対する年間返済額比率が相対的に高い傾向がある若年世代において、住宅ローン保有世帯が増えている
・もっとも、若年層の賃金上昇率は相対的に高めとなっているほか、賃金カーブに沿った所得増加が続くもとでは返済負担は徐々に軽減されていくと考えられる
・ただし、景気後退による所得の低下や住宅価格の下落が同時に生じる場合に、こうした状況が変わり得る可能性にも十分に留意しておくべきと考えられる
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マクロストレステストを実施
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以上を踏まえ、金融システムレポートの長年の「売り」であるマクロストレステストを行います。シナリオは以下の3つです。
・ベースライン・シナリオ:「海外経済の緩やかな成⻑が続くもとで、わが国経済も成⻑を続ける」シナリオ
・海外⾦利上昇シナリオ:地政学的リスクの顕在化などに伴うグローバルな物価上昇を背景とした、海外金利の上昇と海外経済の減速が生じるシナリオ
・金融調整シナリオ:国内外の金融市場においてリーマンショック並みの調整が発生し、内外の実体経済も大きく悪化するシナリオ
そのうえで、冒頭に記したように「相応の頑健性を有している」と結論付けます。
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通算500号
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さて、CRUのひとり言をGucci Post上のブログとして開始したのは2009年9月14日。中断後に再開し、旧・新ひとり言合わせ今回が500号となりました。
今では、JDさん、Saltさん、永田町さん、奥山さん、峯村さんとものすごい執筆陣を擁していますが、始めた当初は何となく心細い感じで、ぐっちーファンに支えられ生き延びた感じでした。
私の売りは「無料」「短い」くらいと思いますが、暫くは月2、3回ペースで書き続けようと思います。
今回はこの辺で。
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2 comments on “Vol.275: 日銀金融システムレポート”
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私は再開後の読者ですが、500号おめでとうございます。
端的に情報提供をいただき、いつも勉強させていただいております。
これからも配信を楽しみにしています。お体にお気をつけいただき、長く続けていただきたいです。
NKさん ありがとうございます。励みになります!