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The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2025/05/05 06:30  | by Konan |  コメント(0)

Vol.274: 日銀政策維持


こどもの日でお休みの方も少なくないと思います。今回は4月30日・5月1日に開催された日銀金融政策決定会合の紹介です。政策は維持、先行きの景気判断が下方修正されました。

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先行き景気判断下方修正
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今回のように展望レポートがある回(1月、4月、7月、10月)とない回(3月、6月、9月、12月)とでは分析の詳しさに違いがありますが、景気の現状判断は概ね維持された一方で、先行きの判断は下方修正され、リスク要因の指摘内容も厳しい認識となりました。

(現状)
・基調:一部に弱めの動きもみられるが、緩やかに回復している
・個人消費:物価上昇の影響などから消費者マインドに弱さがみられるものの、雇用・所得環境の改善を背景に緩やかな増加基調を維持している
・設備投資:緩やかな増加傾向にある
・住宅投資:弱めの動きとなっている
・公共投資:横ばい圏内の動きとなっている
・輸出:一部に米国の関税引き上げに伴う駆け込みの動きがみられるが、基調としては横ばい圏内の動きを続けている

(先行き)
・各国の通商政策等の影響を受けて、海外経済が減速し、わが国企業の収益なども下押しされるもとで、緩和的な金融環境などが下支え要因として作用するものの、成長ペースは鈍化すると考えられる。その後については、海外経済が緩やかな成長経路に復していくもとで、成長率を高めていくと見込まれる

(リスク要因)
・とくに、各国の通商政策等の今後の展開やその影響を受けた海外の経済・物価動向を巡る不確実性はきわめて高く、その金融・為替市場やわが国経済・物価への影響については、十分注視する必要がある

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経済・物価見通し引き下げ
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展望レポートの中では、植田総裁を含む9人の政策委員会メンバーによる実質GDP・消費者物価指数の見通しが示されます。中央値(9人のうち上からみても下からみても5番目の数字)は以下の通りです。なお、2027年度は初めて見通しが出されました。

(実質GDP)
2024年度+0.7%(前回+0.5%)、2025年度+0.5%(前回+1.1%)、2026年度+0.7%(前回+1.0%)、2027年度+1.0%

(消費者物価指数=除く生鮮食品)
2024年度+2.7%(前回+2.7%)、2025年度+2.2%(前回+2.4%)、2026年度+1.7% (前回+2.0%)、2027年度+1.9%

(消費者物価指数=除く生鮮食品・エネルギー)
2024年度+2.3%(前回+2.2%)、2025年度+2.3%(前回+2.1%)、2026年度+1.8%(前回+2.1%)、2027年度+2.0%

2025・26年度の実質GDPと2026年度の物価はかなり下方修正され、物価安定目標達成時期が2027年度まで先送りされる格好になりました。

リスクバランスについては、「経済の見通しについては、2025年度と 2026年度は下振れリスクの方が大きい。物価の見通しについても、2025年度と 2026年度は下振れリスクの方が大きい」とされます。

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金融政策維持
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金融政策は維持されました。私は元々は7月利上げ論者でしたが、4月2日以降は「当面難しい」と宗旨替えしていました。一部にはトランプ政権のドル安・円高要請に配慮した利上げ観測も無いではありませんでしたが、不確実性がきわめて高く、景気や物価見通しが下振れる状況では無理な話と思います。

植田総裁は、会見で不確実性の高さを何度も強調し、経済・物価の中心的見通し自体も今後変化するかもしれないとしました。そうした変化を慎重に見極めながら政策判断を行うことが基本スタンスです。引用すると「基調的物価の辿るであろう経路がやや複雑なもの、要するに途中で足踏みするというようなものになりそうですので、そのどこでどういう判断をするかというのは難しいポイントになるかなということが一つと、それから中心的見通し自体が変わる可能性も随分あるということだと思います」となります。

ただ、現在の金融環境は緩和的との認識は変えず、次のアクションは利上げであることも滲ませました。また「確かに基調物価が単純に言えば 2%に到達するという時期は、やや後ずれということでございますけれども、そのうえで必ず利上げの時期が同じように後ずれするかということは必ずしもそうではない」ともしました。

次回利上げ時期を占うことは大変難しくなりました。トランプ相互関税90日間猶予後どうなるかが目先のポイントですが、トランプ政権のことなので、対中国関税を含め90日後以降も何が起きるか読みにくいのが実情です。また、関税水準が安定したとしても、それが政権発足前より高い限りは、世界経済にマイナスの影響を持ちます。そうしたことも消化したうえで、来年の春闘の動向が見えてくる年末年始までは、日銀としても動きづらいように思います。

今回はこの辺で。

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