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The Gucci Post [ぐっちー編集長の金融・経済を中心としたオピニオンブログ News Paper]

2020/04/13 06:30  | by Konan |  コメント(3)

Vol.51: 緊急経済対策の一側面:資金繰り支援の光と影

緊急事態宣言とともに打ち出された「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策~国民の命と生活を守り抜き、経済再生へ~」。緊急事態宣言もこの緊急経済対策も、「早い」「遅い」、「足りる」「足りない」と賛否両論、というより「否」の感想が多い印象を受けます。それでも、真面目な日本人は人との接触を減らし始め、休業要請の対象外のお店も自主的な休業を始めています。この休業要請との関係で、国、東京都、その他6府県の足並みの乱れも表面化。東京都が協力金支払いと引き換えに国を押し切り、休業要請を公表したのは皆さんご存知の通りです。

今回の緊急経済対策は、「事業規模108.2兆円」「うち財政支出39.5兆円」と史上最大の規模になり、安倍総理が胸を張りました。大きく「緊急支援フェーズ」「V字回復フェーズ」とフェーズを2つに分け、「感染症拡大防止と医療提供体制の整備及び治療薬の開発」「雇用の維持と事業の継続」「次の段階としての官民を挙げた経済活動の回復」「強靭な経済構造の構築」「今後への備え」の5項目を柱にしています。

総額108兆円はドル換算で1兆ドルの一種の語呂合わせであり、真水は19兆円に過ぎないとの評価も広がりつつあります。雇用維持・事業継続に関し、中堅・中小企業、個人事業主、世帯に対する「給付金」の「条件が分かり難い」「範囲が狭過ぎる」との批判が高まり、経済活動の回復に関し、「お肉券、お魚券」案(結局消えました)や「GoToキャンペーン」のネーミングが失笑を買っています。

今回は、緊急経済対策全体を吟味することはせず、「資金繰り対策」というやや地味な項目に絞り、その意義(光)と限界(影)について説明しようと思います。

以下、とても簡単な(やや現実離れしていますが)例に基づき説明します。

ある企業が1期間中「売上100、固定費30、人件費30、変動費30」の業績を恒常的に上げる力を持っていると仮定します。その期間中10の利益が出ます。税金や配当が無いと仮定すると、その10を毎期内部留保に積み上げることが出来ます。また、期跨ぎの支払いや受取りが無ければ(あるいは減価償却等を無視すると)100の現金が入り、90が出て行き、10が手元に残ります。仮にこの状況が5期続くと、50の内部留保と50の手元資金が残ります。

さて、新型コロナウイルス感染症の影響で売上がゼロに急減したとします。単純化のため、すぐ事業を止め変動費をゼロに抑えられたとします。他方、雇用を維持したとします。売上ゼロ、固定費・人件費計60、差引き60の赤字になります。内部留保を食い潰し10の債務超過になります。60の支払いが必要ですが、手元資金50では払い切れず、資金繰りに詰まります。要は財務、資金繰りの両面でこの企業は破綻します。

この破綻を取り敢えず防ぐため必要なのが資金繰り支援です。もし、(1)誰かから10借りることが出来、(2)債務超過に拘わらず破産手続きを避けることが出来れば、この企業は存続できます。雇用も維持されます。

しかし、残念ながら次の期も同じ状況が続くとします。上記同様60の赤字、60の資金が不足します。ここでも誰かから60借りることが出来たとします。借入れが70に膨らみ、債務超過も70になりますが存続できます。雇用も維持されます。

更に次の期にV字回復を果たし、売上が100に戻るとします。そうすると、期中黒字10、手元資金も10増えます。債務超過が60に減少し、借入れも10返却して60に減ります。これがあと6期続けば、債務超過が解消され借金も無くなります。更に5期経てば元の姿に戻ります。

ハッピーエンドです。同時に、上記が実現するには、(繰り返しですが)「無利子・無担保で気前よく即座にお金を貸し、かつ借り手が債務超過でも目くじらを立てない」貸し手の存在が不可欠ということも分かります。また、元の状態に戻るにはかなり長い時間を要してしまうことも分かります。なお、国や地公体から給付金・協力金・補償金が支払われれば、あるいは雇用調整助成金を受け取ることが出来れば、回復プロセスは早まりますし、債務超過や借入れの額も抑制されます。

その意味で給付金や雇用調整助成金の議論はとても重要です。また雇用が打ち切られた、あるいは自営業者・フリーランス(英語ではself-employedと呼ばれます。ちょっと格好良い響きですね)の方の対策も大事です。そのうえで(JDさんの言う官庁言葉ですね(笑))、資金繰り対策の緊急性・重要性を上記の例で感じて頂けたのではないかと思います。資金繰りが詰まると、上記の例で最初の10を借りることができない限りその企業はそこで終わりです。

これを貸し手(金融機関)の目線から考えてみます。金融機関は通常であれば借り手のリスクを考えて与信を判断します。これは至極真っ当なことで、批判できません。しかし、今回この通常の仕方を当てはめてしまうと、貸すことは出来ません。(上記例で)債務超過に陥っていますし、売上がいつ回復するか不確実性が極めて高いからです。

今回の一連の緊急経済対策では、政府系金融機関である日本政策金融公庫を通じて、あるいは地方公共団体の制度融資を民間金融機関を窓口にすることを通じて、こうしたリスクを民間金融機関ではなく国や地方公共団体に負わせることにより、実質無利子・無担保の融資を素早く実施することを目指しています。

2つの論点があります。ひとつは「本当に素早く融資できるか?」。給付金や雇用調整助成金を含め、わが国はとても丁寧で間違いが無い手続きを重視する文化です。今回のように融資窓口に企業が殺到すると、捌き切れず何日も待たされる事態が現に発生しています。私の知人のレストラン経営者も、金融機関窓口の混み方の酷さや用意する書類の煩雑さを嘆いていました。手元資金が尽きると即倒産です。それを防ぐことが出来るかまさに問われています。因みにTwitterで紹介しましたが、米国でも初動段階で似た問題が起きているようです。

もうひとつは金融システム安定との関係です。上記例では2期後にV字回復を果たすことを前提にしています。しかしV字回復の保証はありません。例えば中国人観光客は戻ってくるか、以前のように人々が旅行するか、高級クラブや風俗店やパチンコ店に人が集まるか、誰も予想できません。日本の場合、実質無利子・無担保融資のリスクは「官」が負ってくれますが、それを用いず自らのリスクで融資を行うこともあり、リスクが将来顕在化する可能性があります。また、信用リスクの観点とやや離れますが、感染症後はデフレの可能性が高まります。更なる超低金利の持続です。しかも日本に限らず世界中で。これは金融機関の体力を蝕みます。

さらに、日本はこうですが、例えば欧州で信用リスクを「官」が負ってくれるか?イタリアにその力が残されているか?他のEU諸国が助けてくれるか?大きな問題です。先週、欧州閣僚レベルで議論が行われましたが、とくにオランダの反対で支援策が完全にはまとまらず、首脳級の会議(テレビと思います)に結論が持ち越されたようです。中央銀行が世界中で強力な政策を推し進め、市場は一旦安定化していますが、先行きが見通し難いのも、こうした点の不確実性が払拭できないためです。

今回はこの辺で。飲み会が恋しいです。

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3 comments on “Vol.51: 緊急経済対策の一側面:資金繰り支援の光と影
  1. 健太 より:
    歴史と経験から見て

     政府はやる気がない。それに尽きる。では何をしているか?
    日常的なる^ティンをしているに過ぎない。
    もともとの我が国には戦時という感覚がないからです。
    だから大東亜戦争に負けたないし、起こしたという反省がない。
    アメリカは戦時と平時を区別する必要がない国です。アメリカは迅速にしているという人がいるが、別に迅速ではない。普通のことでしょう。
     自粛というがそれができる人は金持ちに過ぎず、国民の全部が金持ちか?
    違う、こんな簡単な事実すら認識していない政府、自治体に何ができるんだろうか、来年のことを考えるとというより、八月から公務員の給料は40パーセントくらいかっとしないとm立ちいかないとおもうけどね。それをしないと国民はさらに困る。見えている。

  2. むつごろう より:
    分かりやすかったです。

    例が分かりやすく、頭が整理できました。ありがとうございます。

  3. 健太 より:
    公務員

     今回10万円を配るという事だが、要するに全員を臨時公務員として雇うことになったに過ぎない。
     
     資本論が予言した世界が来たということですか?

    今から40年くらい前に見た映画ある。
    男が刑務所から出てくると頃から始まった、子分ところへ行くと、何か計画している。聞くと銀行強盗を計画している。親分であるその男は。トロイことをするな、俺がいいことを考えたからそれをやるぞ。
    その計画は印刷局へ行って、紙幣を印刷して、それを持って逃げる。
     そこでいろいろして、印刷局へ行って10分ほど運転して、紙幣をすり、手に入れる。その時子分が<親分偽札ができましたぜ>というと<馬鹿野郎、本物に札だ>と答える。その後の展開は忘れてしまったが、親分は捕まり、刑務所へと逆戻りのバスの中から外を見ると、子分たちが道路工夫にばけて、トンネルを掘ているところだった。親分は<馬鹿なやつだ>と思うが子分は<親分ダメだったじゃないか、やっぱり銀行から、ぬすまない>と
     この映画の話をお客のところで話すと。俺も見た。ばれたのは印刷の配合を間違えたために、使っているうちに、水にぬれるとインクがにじんでそれでばれた。 それからそのお客はえらく私を信用してつきあった。
     この話はいろいろな示唆を与えるが
    1)配合を間違えないならその時摺った紙幣は経済に対してどのような影響を与えたか。
    2)偽札とわかったわけだが、その紙幣を回収するわけだが、その紙幣で動いた経済行動は全体の経済にどのような影響を与えたか
    3)その紙幣で、利益がでて、銀行に積んだお金は有効か、、その経済的意味は
    4)つまるところ偽札とは何か
    5)政府がする紙幣とこの強盗が摺った紙幣とは何が異なるか
    そのほかにいろいろあると思う。

    近くに土木工事の機械がずらりと並んでいる。半端な台数ではない。
    札をすって(公共事業をする)、この機械を動かす手を政府と財務省は考えることではないか。

     近くの高利貸しは皆つぶれた、サラ金ができたからです。質屋も同じだが質屋は担保流れがあるから、多重債務者はなく、借金の限度があった。

     その借用書は表には出せないから、借りた人はそれですんだのか。それともその筋に回って、そのごどうなったか?
     仮にその高利貸しの家が火事になって借用書がなくなったとしたら、何が起きるか?
     国債にに対する。この高利貸しに対する火事に相当するのは何か?

    素人意見だが麻生氏と財務省は上記のお話の意味を理解していないのではと思うが間違いでしょうか?

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