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2015/06/24 00:00  | 東南アジア |  コメント(1)

アウンサンスーチー訪中とコーカン族の停戦宣言


前回に続いて、憲法のセクシーな話を続けるつもりだったのですが、旬な話が多いので、とりあえずそちらを優先します。せっかく興味をもって下さった方には(とても少ないと思いますが・・(笑))申し訳ないですが、少しお待ち下さい。

スーチー氏訪中、中国外交の微妙な変化とは(6月11日付ウォールストリートジャーナル記事)
Kokang declare unilateral ceasefire as peace talks stall(6月11日付The Myanmar Times記事)

6月11日、アウンサン・スーチーが中国を訪問し習近平と会談しましたが、同日、ミャンマー政府と武力衝突していたコーカン族の武装組織(MNDAA)が一方的に停戦宣言をしたとのこと。MNDAAは、ミャンマーと中国の国境地帯(シャン州のコーカン自治区)でミャンマー国軍と戦闘を繰り返している武装組織で、中国の強い影響下にあると言われる組織です。

今回の停戦宣言の背景に中国からの強い働きかけがあったことは、中国は認めていませんが、MNDAAは認めており、まず間違いないとみられています。MNDAAは過激派と穏健派に割れているところ、中国の狙いは、古くからつながりの強い過激派をけしかけたり、抑えたりしつつ、ミャンマー政府にプレッシャーを与えることで、その影響力を確保することにあると見られます。

一方、野党指導者に過ぎないスーチーに対して、中国側は、習近平が会談するという異例の厚遇。中国側のスーチー重視の姿勢が明確になったといえます。この両者のタイミングが一致していることから、中国とスーチーとの間で何か取引があったのではないかとの説もあります。

面白い見方ですが、普通に考えると、ちょっと考えにくいですよね。スーチーがことさらにこの件にこだわるとは思えませんし、中国がこの件で貸しをつくるメリットもない(軍事政権との関係ではむしろマイナス)でしょうから。

まずスーチー訪中について、背景を説明すると、ミャンマーは、軍事政権の時代、国際的に孤立していたため、中国に深く依存する状況にありました。2010年の総選挙を経て11年に成立したテインセイン政権(現政権)は急速な民主化に舵を切りますが、その一因は、中国に対する過剰な依存に懸念を抱いたことにあると言われています。

これ以降、制裁の緩和と外資の導入が実現したことにより、中国のミャンマーにおける存在感は相対的に低下します。中国の直接投資は減少し、中国の投資により進められていた水力発電ダムの建設が環境問題等を理由としてミャンマー政府にキャンセルされるという事態も起きます(こういった中国主導による大型インフラプロジェクトは、ベトナムやスリランカでも同様の問題を引き起こしています)。ただ、そうはいっても中国の直接投資残高は圧倒的であり、習近平政権の「一帯一路」構想においてもミャンマーは重要部分を構成しています。

13年10月には、「万里の長城」といわれるチャウピュー・昆明のガスパイプライン(地図(WSJ記事))が建設され、今年1月からは併設する石油パイプラインも稼働しています。そういうわけで、中国側としては、ミャンマーにおける影響力をぜひとも維持したい。そして、スーチー率いるNLDが11月の総選挙を経て政権をとる可能性を見越して、今回の厚遇に至ったというわけです。  スーチー側にしてみれば、中国は軍事政権の圧政の片棒をかついできたわけですから、憎むべき天敵ではありますが、もはや民主化の流れも確立し、NLD政権樹立の可能性も十分に出てきたことから、現実路線に転じた、ということです。本当に政権を担当することになれば、中国との良好な関係の維持は必須の課題となります。

その一方で、ミャンマーでは、少数民族武装組織との内戦が続いています。政権は11月の総選挙に向けて停戦を実現すべく必死に努力を続け、ついに3月31日、16の主要組織との間で全国的な停戦合意の草案がまとまります。

これは歴史的快挙といわれましたが、上記MNDAAら一部の組織はこの合意のメンバーには入っておらず、戦闘が続いていました。そして、今月初め、少数民族武装組織はサミットを開催し、これら一部の組織が停戦合意に入っていないことから、全国停戦合意の署名はできないという声明を出してしまいます。これでまた内戦終結が遠のいた・・・と絶望しかけたところで突然出てきたのが冒頭のMNDAAの停戦宣言でした。

もっとも、この停戦宣言は前述のとおり中国の意図に従ったものであり、これ以降も衝突は続いています。また、他の武装組織は同様の停戦宣言を出すといったことはしていません。このため、状況が好転するかどうかはもう少し様子を見ないと分からない状況です。

コーカン族以外にも、ワ族とパラウン族の武装組織が強硬に抗っていますが、これらはいずれも中国との国境にあるシャン州に根拠をおいており、中国とは歴史的・民族的に深いつながりがあります。この点も含め、ミャンマーの少数民族問題については別途詳しく述べたいと思っています。

そういえば、昨日、テレビ東京の「未来世紀ジパング」のミャンマー特集を見ましたが、中国が投資して中止されたミッソン水力発電ダムも出てきました。やはり映像を見ると現地に行きたくなりますね。私も10月頃に行く予定なので、楽しみです。

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One comment on “アウンサンスーチー訪中とコーカン族の停戦宣言
  1. ペルドン より
    JDさん

    昨日の友は今日の敵・・
    痘痕もえくぼ・・

    深入りして・・人質にならないように・・・(笑

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