2015/06/03 00:00 | 中国 | コメント(2)
南シナ海の領有権問題
■ 米国防長官、中国に南シナ海埋め立て作業の即時中止を要求(5月31日付CNN記事)
■ 米大統領、南シナ海埋め立ては「非生産的」 中国に中止要請(6月2日付ロイター記事)
この問題がややこしいのは、中国の行動は「国際法違反」である、といった言説を報道などでよく見かけますが、そう言い切ることが難しい点にあります。中国が行っている岩礁の埋め立ては、少なくとも現時点において、国際法違反と断言できるものではありません。
なお、ここでいう「国際法」とは実質的には国連海洋法条約の内容を指しますが、厳密にいうと、米国のように同条約を批准していない国が存在します(中国、ベトナム、フィリピン等は批准済)。しかし、領海12海里、EEZ200海里といった同条約に規定されている基本的な規律は、国際慣習法となっていると考えられます。
米国も、海洋に関する主張は国連海洋法条約の規律に服すると述べ、実際にも、哨戒機や船舶を中国が実効支配している領域から12海里内の範囲には進めていないように、同条約の規律に従った対応をしています。
まず、南沙諸島の領有権は、中国、ベトナム、フィリピン、マレーシア、台湾、ブルネイがそれぞれ主張しており、当時国間で争われている状態です。米国も日本もこの問題の当事国ではなく、関係国の間での平和的解決を望むというだけで、具体的な領有権の帰属自体に口をはさむことはしていません。
もちろん、中国が他国の領海に侵入し埋め立てをするということであれば、国際法違反となりますが、仮に中国の主張どおり、中国が実効支配している岩礁に領有権が認められるとすれば、そこに人工物を建設することは自由です。
公海上では、通行する船舶に自由航行権が保証されなければならないので、中国の施設がその権利を害すると認められる場合には違法になります。しかし、そのような権利侵害を認めることは困難でしょう。
では、軍事施設であればどうか。中国の軍事施設が公海上の自由航行権を害すると認められる場合には違法になります。
しかし、現時点では、中国は航行を脅かす行動はとっておらず、確認された軍事施設は1島に設置された砲撃装置2基のみ。そもそもこれだけ中国本土から離れ、点在する場所に軍事施設を置いたところでどれほどの価値があるか分からず、その脅威は限定されます。
そういう意味で、中国の行動を「違法」といって非難することは、意外と難しいです。さらにややこしいのは、中国ほどの規模とスピードには及ばないものの、同様の岩礁の埋め立てをベトナムなども行っていることです。
これらの国を非難せず、中国だけを非難するのはダブル・スタンダードである、という批判はかなり痛いところを突いています。このため、シャングリラ対話の後ベトナムを訪問したカーター国防長官は、ベトナムに対し明白に自制を促すという行動をとっています。
私としては、中国の肩を持つつもりなどまったくないのですが、言いたかったのは、この問題は、法的にどうこうというより、中国の行動が南シナ海の緊張を高めてしまうことによって地域の安全保障を害するという、政治的問題であって、純粋に交渉で解決すべき話であるということです。なんとなくそのへんが(日本の)報道では整理されていない印象です。
もちろん米国は状況をよく理解していて、非常に慎重な文言と中国にプレシャーをかけるレトリックを両立させています。日本での報道は、この機微がよく理解されていない印象を受けます。
中国の振る舞いが「国際法違反」である、という言説は、詰まるところ、領有権を問題にした場合の議論を指しているのでしょう。たしかに、中国が主張する「九段線」が国連海洋法に照らして無茶苦茶であることは明白です。
しかし、具体的な領有権の帰属については、前述のとおり、紛争当事者でない国がどうこういうことではありません(シャングリラ対話での議論のように、域外国から当事国に対して自制を促したり、ASEAN側の対応を支援するということはありますが)。
では、何とかして領有権の正当な帰属を決すべきではないか、と思うかもしれませんが、これは、北方領土、竹島、尖閣諸島など見ても分かるとおり、法的な解決は望めない問題です。なぜなら、法的拘束力のある判断は、国際司法機関の判決を得なければなりませんが、これは紛争当事国が合意しなければ裁判所の管轄に服することがないところ、中国が受け入れるはずがないからです。
一般的にいえば、領土問題は、実効支配を確立した者の勝ち逃げになります。文句がある方は裁判所に訴えようと言いますが、実効支配をしている方には何のメリットもないので、受け入れるわけがなく、現状がそのまま続くことになります。
フィリピンは、2013年に常設仲裁裁判所に領有権問題を提訴しましたが、中国が合意しないことは分かり切っていたので、国際社会へのアピールという性格が強いものでした。だからといって、この実効支配が既成事実となって国際法上の権原(時効取得の原因)となることは(どこかが文句を言っている限り)ないのですが、人工物の建設などにより実効支配を強化すれば、事実上、有利な状況をより確実なものにできる可能性があります。
なんだか正義はどこにあるというか、正当な主張がとおらないのはおかしい、と思うかもしれませんが、これが法の支配が実現していない国際社会の現実ということです。
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2 comments on “南シナ海の領有権問題”
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ぐっち-の言う・・
隠れた尖がったもの・・だな・・全く・・
御指摘の通り・・補給大変だな・・旧日本海軍の轍を踏むか・・
不沈空母は空母モドキより・・安価で沈まないが・・動かないから・・
標的代わりになれる・・
法的問題になるかならないか・・
姿を現すのは・・まだ時間がかかるにしろ・・南シナ海に緊張をもたらし・・
中国を再評価させる・・マイナス面も大きいのでは・・・
こういう解説を待っていました。中国にとっては法の支配とは、体質と正反対のもので、当然国内にもないし、そもそも知らないし、知る気もないし、まして守る気もなく、二国間関係で圧力をかけて個別に核心的利益を実現していくだけで、欧米には今のところ配慮はするが将来は中華秩序の軍門に下ってもらうという意志を示しています。中国は過去は自給できてきた帝国だと思いますが、今はそうではなくなり西欧流帝国主義の経験もなく初めて世界のシーパワー、ランドパワーを同時に目指して、被害者意識と中華意識のアンビバレントな気分でどんな隙でもいいから、ほぼ分割終了した世界の再線引きをどうしてもやりたく、それを見せないと愛国統一がもたないということなのか。しかし米国の出方をみて着実に進めているのは確かで、AIIBでわかるように、いよいよ褒め殺しばかりでは対処できなくなってきました。中国がオバマ時代に押し切った現状は、チェンバレンのような宥和政策ということで世界はもう取り戻せません。ノーベル賞をもらったオバマは将来プーチンと同じ賞も中国から受賞するのでは?本人はそれでいいのでしょうが・・・。