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The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2015/06/08 00:00  | 東南アジア |  コメント(0)

インドネシア・ジョコ政権の200日①


インドネシアのジョコ・ウィドド政権が昨年10月20日に発足して、7ヶ月半が経過しました。一般的に、新政権は発足して「最初の100日」が重要といわれます。発足した直後は、国民の支持が高く、メディアもお手並み拝見という寛大な姿勢をとるため、モメンタムを生かして一気に新政策の実現をねらうことができるからです。世界恐慌の中で発足したフランクリン・D・ルーズベルト政権の成功が代表的な例としてよく挙げられます。

ジョコ政権は、3月の時点ですでに「最初の100日」を経過しています。そこからさらに100日が経過したということで、やや強引ですが(笑)、今回は、ここまで200日間の成果と今後の課題について整理してみたいと思います。

初の庶民派大統領

ジョコ大統領の最大の特徴は、インドネシア初の「庶民派」大統領であることです。インドネシアの大統領は、従来、軍人・エリート、ジャワ人、イスラム教徒でなければならないという不文律がありましたが(ハビビ大統領だけは実はスラウェシ出身)、ジョコは家具商出身で、国政の経験もなく、ロックを好むというカジュアルなキャラクターも含め、エリートのイメージからはかけ離れた存在でした。

そのジョコの大統領選の相手となったプラボウォは、スハルトの娘婿で、古くから国軍で権勢をふるった軍人であり、まさにインドネシア政治の伝統を体現する典型的なエリートでした。旧勢力を代表するプラボウォと新勢力を代表するジョコの激突は、インドネシア国民を真っ二つに割る結果となり、僅差でジョコが勝利しました。

新しい時代の到来を感じさせる大統領の誕生に国民は興奮し、メディアも喝采を送りました。こうしてジョコは、国民、特に低所得層と女性から絶大な支持を得て大統領に就任しました。

ジョコ政権にとって最重要課題は構造改革です。インドネシアの経済成長は、この数年、鈍化が続いています。その背景には、輸出・設備投資の減速、インフレがあり、また、98年の経済危機以来の低水準となっているルピア安がインフレと資金流出のリスクを招いています。

これらの問題を克服するためには経常赤字と財政赤字(双子の赤字)の改善が必要であり、そのためには構造改革が必要となります。そこで、ジョコ政権は以下の対応をとりました。

●財政改革

まず、就任してすぐに燃料補助金の削減・廃止を断行しました。燃料補助金とは、マレーシア、イラン、ナイジェリアなど多くの産油国で採られている政策であり、国内における燃料の価格を補助金によって下げる制度です。

国民の歓心をとるためのポピュリズム的政策であり、燃料の大量消費と非効率な歳出という問題を生じさせますが、いったん導入すると、廃止することが非常に困難な制度となります。特に、インドネシアは、自動車(庶民にとっては二輪)が不可欠の国であり、ガソリンの値上げは庶民の生活を直撃します。スハルト政権が倒れる直接のきっかけとなったのは、燃料補助金の廃止により国民の猛烈な反発を招き、それが暴動化したことでした。

メガワティ大統領(当時)もいったんは廃止を目指しましたが、これも国民の猛反対にあって撤回します。このように、燃料補助金の廃止は政権にとって鬼門といえる深刻な課題でした。ジョコ政権は、この政権の存立をゆるがす大きな問題を政権発足直後に解決しました。

原油安のためそれほど価格を上げずに済んだことが僥倖となりました。この補助金の廃止の決断は、インドネシアにとって歴史的な成果といえるものであり、ジョコ大統領の果断と実行力を示すものとなりました(もっとも、インドネシア庶民にとって極めて不人気な政策であり、支持率に悪影響を及ぼした面は否定できません)。

●産業改革

次に、一次産品の輸出に依存する産業構造を変え、産業競争力を高める上で不可欠な役割を果たすインフラの整備に取り組みました。まず、燃料補助金廃止によって浮いた予算をインフラ整備に回します。さらに、複雑な投資の許認可の問題を改善すべく、投資申請に関するワンストップ・サービスを導入しました。そして、5年間で55兆円規模という大胆な開発計画を打ち出しました。

しかし、インフラ投資を促進する上で重要な役割を果たす外資の導入に関しては、3月の訪日・訪中の際、大統領自身がセールスマンのようにインドネシアの魅力を売り込み、投資の促進を全面的にアピールしたとはいえ、実際には、他の東南アジアの国々と比べても、十分な投資インセンティブを与えていません。

それどころか、かえって外資導入を阻害するかのような政策をとっている面もあります。外資規制は、ユドヨノ前政権末期から見られましたが、ナショナリズムの色彩が強い政策です。

代表的な例が「新鉱業法」で、これは銅などの鉱石を加工せずにそのまま輸出することを禁止し、輸出するのであれば精錬所をインドネシア国内に建てて国内であらかじめ加工しなければならないとする規制です。この政策の理念自体は、一次産品の輸出に依存する構造を転換し、工業施設への外資の導入を促す上で合理的ではあるのですが、外資にしてみれば大規模な投資を強いられることになるので、それなりの投資優遇措置が必要となります。しかし、インドネシア政府はそういった措置をとっていません。

●格差是正

また、ジョコ政権は、地域格差の是正を政権の最優先課題として位置づけています。これは、ジャワ島とスマトラ島に人口とGDPの8割が集中しており、他の地域では基本的なインフラが欠如している状況を考慮して、ジャワ・スマトラ以外の地域への投資を優先しようとするものですが、これも効率を重視する企業のニーズとうまくかみ合っていません。投資優遇措置も十分とはいえません。

さらに、インフラ整備には大規模な資金調達が必要になりますが、これに対しては、予算の執行が遅く、また通貨危機のトラウマからか借入れに対して非常に消極的であり、民間投資に頼ろうとしています。しかも、発電所や送電網の建設には、土地収用が最大の問題となりますが、これに対しても積極的な介入を行うことに消極的です(もっとも、土地収用はいずれの国においても避けては通れない宿命的な問題であり、政府の問題として片付けられないのも事実です)。外資規制と土地開発の問題は、インドネシアの民主化と発展という大きな視点から理解される問題であり、これについては次回述べます。

次回(明日)は、ジョコ政権の内政と外交について述べます。

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