2017/06/28 00:01 | 米国 | コメント(2)
オバマケア廃止をめぐる闘争
■ 米上院共和党、オバマケア代替法案を公表 早くも党内から異論(6月23日付AFP)
オバマケア廃止は、共和党の悲願、そしてトランプ政権の重要な公約の一つであり、トランプと共和党が結束を維持する上で最も重要なアジェンダの一つといえます。
オバマケア代替法案は、①3月にはフリーダム・コーカスの支持が得られず下院で失敗しましたが、②5月には下院を通過。
上院で可決すれば成立しますが、今回、③6月、上院共和党指導部は下院案を踏まえて新たな法案を発表しました。米国議会は7月2日から1週間休会するため、共和党指導部は今週中に成立させたい考えです。
オバマケアをめぐる論争は、非常に複雑で分かりにくいと思います。それは、①価値観、②政策の意義、③政策の実効性それぞれの論点において議論があるからです。
①価値観は、国民の保険加入を義務付けることの是非。
ヒラリー・クリントン、バラク・オバマ、ナンシー・ペローシら民主党のリベラルは国民皆保険を掲げる一方、ランド・ポール、テッド・クルーズら共和党のリバタリアン(伝統的な財政保守派とフリーダム・コーカスも含む)は政府の介入を真っ向から否定します。後者の立場は、保険加入義務を原則とするオバマケアには当然反対、さらに強い立場になると、共和党の代替法案にも反対となります。
②政策の意義は、国民が保険から得られる恩恵と保険を成り立たせるための負担をどう評価するか。
米国では、高額の医療費と高齢者・低所得層の無保険の問題が深刻化しています。この問題に対応すべく米国で導入された制度が、(a)1965年のメディケアとメディケイド、(b)2003年(ブッシュ政権)のメディケア改革、そして(c)2015年(オバマ政権)のAffordable Care Act(通称「オバマケア」)です。
これらの制度では、公的支援の拡大、保険加入率の向上、市場原理の導入など様々なアプローチがとられていますが、当然のことながら、完璧な制度設計はありません。オバマケアは、特に低所得層の保護と所得分配機能を重視し、保険加入率を向上させるべく加入義務を原則とした点に大きな特徴があります。
これは、目的達成手段として一定の合理性はありますが、現実には、一部納税者の負担の拡大、実施の不完全、(それにより悪化した)財政負担の拡大という問題をはらんでいます。その点が共和党の大きな攻撃材料となっています。
③政策の実効性は、医療保険改革の実施に必要な州の協力が得られるか。
オバマケアには、共和党の州の中にはこれに反対しているものがあり、このため、全国的な実施ができておらず、不均衡が生じている現実があります。
オバマケアに対しては様々な評価があり、米国民も割れています。民主党・リベラルの中にも、②③の点は問題であり、この制度は改善の余地がある、という声があります。
では、今回の共和党の法案はどうか。これがまた、非常に評判が悪いです。
簡単に言えば、今回の代替法案は、オバマケアをベースにしながら、リバタリアンの支持を得るために、保険加入義務をなくし、州の裁量を増やすなど、市場原理の側面を強め、さらに、財政規律の観点から、メディケイドのカットに踏み込もうとしています。つまり、本来、米国にとって最大の懸案だったはずの低所得層の無保険問題の解決からは逆行しているのです。
オバマケアはたしかに問題が多いですが、それでもその目的には正当性がありました。しかし、代替法案は根本的な論拠からして説得力を欠きます。言い換えると、代替法案は、①価値観の面ではどっちつかず、②政策の意義の点ではオバマケアより改悪、という本末転倒な結果になっていると批判されます。
こんな法案をなぜ通したいのか。それは、冒頭に述べたとおり、オバマケア撤廃こそが共和党の悲願であり、トランプの政権公約であるということで、大きな政治的モメンタムを得られるからです。
まさに政治的妥協の産物といえますが、この法案を成立させようとしているのは、現代の「Master of the Senate」(リンドン・ジョンソンが上院院内総務だったときの通称)ともいわれるミッチ・マコーネル上院共和党院内総務。マコーネルは、公聴会など開くことなく、冒頭述べた審議日程で強引に突破を図っています。厳しい状況であることは間違いないですが、議会政治に熟達したマコーネルならできるかもしれない・・・と言う人もいます。
オバマケア代替法案が成立すれば、トランプ政権にとっては、共和党指導部からの支持が固められ、政権基盤の安定につながることになり、また大きな追い風となります。今回の法案が成立するにせよしないにせよ、この問題は米国政治を見る上で大きなイシューであり続けます。引き続きウォッチする必要があります。
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2 comments on “オバマケア廃止をめぐる闘争”
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だから・・
通過するのでは・・
「ハウス・オブ・カード」
では・・どうなってましたっけ・・・( ^ω^)・・・(笑
投票は延期になりましたね。
まあ、水入りというところでしょうか。