2017/05/02 00:00 | 米国 | コメント(5)
トランプ政権100日
トランプ政権が発足して100日。想定された結果ではありますが、全体として、パフォーマンスの低さが目立ったと言わざるを得ないでしょう。
最も成果が上がらなかったのは、やはり立法。
議会工作において、民主党はおろか、身内である共和党においても、フリーダム・コーカスを中心に反発に直面し、オバマケア撤廃に失敗。税制改革でも難航が予想されています。
次に、行政では、TPP脱退、環境規制緩和などいくつかの公約は実現しましたが、こちらでは、人事の停滞が最大のネックになっています。
閣僚については何とか全員上院の承認が得られましたが、官庁の主要ポストは、550余りのポストのうちわずか30程度しか承認を得られていないという状態。
特に国務省においては副長官すら決まっていません。当然、その下の次官、次官補、次官補代理といった日本でいうところの局長クラス以上はまったく決まっておらず、前代未聞の状況です。
私も、先月、国務省の友人と話しましたが、政治任用の幹部がいないことで困るのは、とにかくホワイトハウスを中核とするリーダーたちの考えが分からないことだ、とのこと。
つまり、国務省の官僚は、幹部クラスが大統領の周りのスタッフと意思疎通することで政権の方針を把握するわけですが、その幹部クラスがいないので、政権の意向がまったく伝わってこない、ということです。
したがって、この国務省の友人も、報道やトランプのツイッターを見て、ああ、ホワイトハウスはこんなことを考えているのか・・・と知るそうです。私が得ているトランプ周りの情報すら、「へえ~なるほど、そうなのかあ。勉強になるね。」と言われるほどでした(笑)。
それではダメダメかといえば、一つ、見方によっては好材料といえるのは、トランプの柔軟性と学習能力が示されつつあることです。
「トランプ政権のシリア攻撃」で述べたとおり、トランプの考え方は急激に変化しています。
就任時のトランプと100日経った現在のトランプはもはや別人といっても過言ではありません。そのぐらい劇的な変貌を遂げています。
その背景にあるのは、政権のキーパーソンの主導権争いが落ち着きつつあること。
経済においては、ゲーリー・コーンNEC委員長、ケネス・ジャスター大統領補佐官(国際経済担当)、外交安保においては、HRマクマスター大統領補佐官(国家安全保障担当)、ジェームズ・マティス国防長官、ディナ・パウエル大統領次席補佐官、すべての政策においてジャレッド・クシュナー大統領上級顧問が主導権を握るチームが完成しつつあります。
ここで第一に指摘できるのは、「グローバリスト」のトレンド。
スティーブ・バノン首席戦略官兼大統領上級顧問、スティーブン・ミラー大統領上級顧問らナショナリストの影響力が相対的に低下する中で、「アメリカ・ファースト」の理念は健在とはいえ、介入主義、経済・通商政策の合理化と、伝統的な政策への回帰の流れが見えています。
最近、日本政府も、米国抜きでTPPを発効させる「TPP11」に舵を切りましたが、最近のトランプ政権のグローバリスト志向を見ると、もしかしたらTPP参加の再考もあり得るのでは・・・という観測すら出てきています。
TPPは米国の農産品輸出を増やす効果がありますから、これをグローバリストがうまくインプットすれば、豹変する可能性はあるかもしれません。
第二に指摘できるのは、「コーポラティスト」のトレンド。
税制改革の基本方針が発表されました。内容はスカスカでしたが、少なくとも、法人税減税、レパトリ減税など、プロ・ビジネス志向がはっきり示されました。
また、ドッド・フランク法の改正も、時間はかかるでしょうが引き続き追求するでしょう。
この背景には、経済面でのグローバリストにGS出身者が多く含まれていることがあり、また、伝統的な共和党のビッグ・ビジネス志向に合わせているとみられ、その意味で、第一に指摘したポイントと整合した流れということがいえます。
もっとも、このコーポラティストのトレンドは、そもそもトランプに政権をゆだねる原動力となった有権者たちの意向とはそぐわない面があります。なぜなら、トランプの示した方針は、富裕層の減税も意味しているからです。
これでは、雇用を奪われた低所得層の怒り、反エスタブリッシュメントの機運とは逆行していると言われても反論できないでしょう。このトランプのプロ・ビジネス路線が彼を支えた支持層の要望と整合しないことは、選挙戦中からも認識されてきたことですが、ここにきてその矛盾が顕在化しつつあるといえます。
そして、この点は、米国にとってトランプの登場とは何を意味するのか・・・という根源的な問いとも関わってきます。
私の見方は、トランプの登場は、全体としては力強く発展しながら、一方で、社会の分裂は深刻化し続けているという、米国が抱える根本的な問題をついに顕在化させた、というものです。
つまり、米国はたしかに強い、全体をみれば未来も明るい、しかしそれは富める者だけが富む世界であって、切り捨てられている人々がいるのではないか、それでいいのか・・・という、これまで人々が蓋をしてきた問題を白日の下にさらしたのであって、それは、トランプでなくとも、いずれは誰かが暴露しただろう、というものです。
しかし、今のトランプは、その状況の顕在化に沿った行動をとっているとはいえません。ここにまた米国の現状の複雑さがあります。
最後のところはかなりややこしい話なので、またタイミングを見て解説します。いずれにしても、トランプ政権の100日は、ろくな成果がないという意味で残念な結果に終わっていますが、それでも予想の範囲内にはおさまりました。
米国経済の強さはぐっちーさんがいつも解説しているとおりで、よほど衝撃的な事態がなければ、大きくジャンプすることはないにせよ、着実に伸びていくでしょう。
そして、ここまでの100日のある程度の無難さとトランプの柔軟性と学習能力を考えれば、衝撃的な事態が起こる可能性は、少なくとも当面は低い、といえそうです。
明日から大型連休ということで、次の更新は5月8日(月)になると思います。韓国大統領選について述べることになるでしょう。皆さんも、良い連休をお過ごしください。
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5 comments on “トランプ政権100日”
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このまま・・行けるんじゃ・・
政治的任命・・無くても・・
トランプの当選に・・何の寄与もしなかったのだから・・
御褒美もなし・・
ってとこでは・?
次回の大統領選には・・粉骨砕身頑張るでしょう・・
サンダースが力付けてきてますね・・民主党も・( ^ω^)・・・(冷笑)
話題の書「ヒルビリー・エレジー」ですが、「エレジー(哀歌)」という言葉が
昭和歌謡曲的でいまひとつ垢ぬけない。
私だったら「レッドネック・ブルース」とかにしたいところです。
あれ?
「ブルース」も昭和的やなあ。。。
就任後百日の時点で、どの程度政治任用が進むのが相場なのか?
オバマ政権の場合、190人を指名していました。この内何人が上院で承認済だったかは、調べきれませんでした。
夏休みの終わりまでには、指名はほぼ完了したようです。
トランプ政権は、71人を指名しています。確かに少ない。
それ以上に驚いたのは、指名辞退と辞職の多さ。15人も居ます。率にすると2割を超えます。
また、連邦地方検事 fideral district attorney を全員辞職させています。
こんな調子で、行政府がまともに機能するのかな?
でも、これもバノンの狙いなのか?
曲者が・・
編み出したのだから・・
曲者の策があるのでしょう・・( ^ω^)・・・(笑)
予測不能だ。マッドマン戦術だ。いや、本当に行き当たりばったりなだけだ。
いろいろな論評がなされているトランプ外交ですが、
日本、ドイツ、中国、そしてTHAAD代金払えと言われてる韓国。
1,ある日、いきなりふっかける。ほとんど言いがかりレベル。テーブルにつけというプレッシャー。
2,相手が交渉テーブルに乗ってきたら、不意打ちをしかけて相手の見通しを半壊させた上でディール提案。
3,相手がディールに応じたなら不自然なほど持ち上げて褒め殺しにする。応じなければ仏頂面・無視・無反応でしばらく放置。
4,ディールに応じたはずの相手が裏切った場合は・・・?
変幻自在に見えるトランプの外交戦術にもパターンがある・・・と見切られた場合、
トランプ外交2.0(3.0?)に進化するのか、それとも行き詰まってしまうのか。