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2015/05/27 00:00  | 中東 |  コメント(2)

エジプト・モルシー大統領の死刑判決


エジプトのモルシ元大統領に死刑判決(5月17日付ウォールストリートジャーナル記事)

「アラブの春」によりムバラク政権が崩壊した後、2012年の選挙により大統領になったモルシーは、2013年、シシ国防大臣を中心とする軍事クーデターにより身柄を拘束されました。4月にデモ扇動の罪で禁固20年の判決を言い渡されていましたが、今回は囚人を脱獄させた罪で死刑判決。まだ確定はしてませんが、そこまでやるのか・・という印象でした。

しかも、モルシーの支持基盤であるムスリム同胞団の精神的指導者モハメド・バディ、アルジャジーラに出演している高名な法学者ユスフ・アル・カラダウィなど含め106名への死刑判決。

これまでも529名、683名への「mass death sentences(大量死刑判決)」を下していますから、今さら数には驚きませんが、かなり大物、しかもエジプトに居住していない人や一説によれば既に刑が執行されている人にまで判決を下しており、シシ政権の強引なまでの強権を感じさせます。政権が安定しているので、自信をもっているのでしょう。

ちなみにムスリム同胞団は、20世紀前半から始まる宗教運動であり、王政を打倒して民主化を追求する勢力であると同時に、現代において跋扈するジハード主義の萌芽となった団体でもあります。同胞団の理論家サイイド・クトゥブは、著作『Milestones(道標)』において、西洋化と世俗化の進む世界を「ジャヒリーヤ(無明時代)」の世界と呼び、これを武力で倒すことがジハード(聖戦)であると説いて、今日まで続くイスラム過激思想の理論的基盤を提供しました。

他方で、同胞団は、エジプトにおいて、政党を結成してモルシーを当選させたように、民主的手続により権力を握ることに成功しました。このように、選挙によって王家から権力を奪う力があることから、サウジアラビアはじめとする湾岸協力会議(GCC)の国々はムスリム同胞団の台頭を何よりも怖れています。サウジの戦略は、ムスリム同胞団の力を奪うことを大きな目標として組み立てられています。

それゆえに、サウジらGCCにとってエジプトにおけるムスリム同胞団の勝利は絶対に許せないものでしたが、トルコとGCCの中でもカタールだけはムスリム同胞団を支持する方針を打ち出しました。このため、両国と他のGCCとの間の関係は決定的に悪くなり、中東の国際関係を複雑化させる一因となりました。このへんについてはそのうち詳しく述べます。

話を戻すと、モルシーの死刑判決が確定するかはまだ分かりません。モルシーほどの人物を殺せば、大変な反発が予想されますから(判決の数時間後、判決との関係はまだ不明ですが、3人の裁判官が殺されるという事件が起きています)、いかにシシ政権といえど、そこまではやらないのではないかという見方も有力です。

最後に、シシ政権下の「mass death sentences」に対しては、法の理念に背くものとして欧米から強い批判が寄せられています。今回の判決にも当然批判がされていますが、これによって米国とエジプトの関係が悪化することにはおそらくならないでしょう。

米国は3月31日に中断していたエジプトへの軍事支援を再開しています。「イスラム国」打倒を含め、中東の安定を実現するための現実的判断です。この方針を変更することはまずあり得ません。エジプトの「アラブの春」は完全に終わったな、という印象です。

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2 comments on “エジプト・モルシー大統領の死刑判決
  1. ペルドン より
    アラブの春は完全に終わった

    次に・・
    アラブの夏が始まるのですね・・
    一度の死刑では安心できない・・
    故に・・二度目の死刑判決だす・・
    流石・・ミイラの国・・

    そのミイラを・・粉末に・・欧州では・・不老長寿の薬・・
    江戸にも・・輸入され・・大名の間で人気だった・・

    モルシー死刑にされたとしても・・ミイラにされ・・
    永久にしなないか・・・(笑

  2. JD より
    アラブの真夏

    それがもう処刑した人にさらに判決を下す理由ですか。
    古代から人間は変わらないのですね。

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