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The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2016/10/04 00:00  | 米国 |  コメント(3)

米国大統領選:第1回テレビ討論会①


遅くなりましたが、第1回テレビ討論会の評価です。まず、総論として、大きなドラマがなかった討論会でした。

トランプヒラリーのパフォーマンスは想定どおりで、目立った失点はなく、トランプが激しい人格攻撃を行うといった波乱もありませんでした。

議論ではヒラリーが圧倒

ただ、議論を圧倒的に優位に進めたのがヒラリーであることは明らかです。「第1回テレビ討論会のポイント」で述べたディベートの経験の差、特にディベートにおいて最も重要な要素となる準備の差が勝負のわかれ目となりました。

ヒラリーは討論会のために入念な準備をしてきました。それが実り、会心の一撃となったハイライトは以下の2点でしょう。

DONALD TRUMP
And I will tell you, you look at the inner cities, and I just left Detroit and I just left Philadelphia and I just you know you’ve see me I been all over the place, you decided to stay home, and that’s OK. But I will tell you I’ve been all over, and I’ve met some of the greatest people I’ll ever meet within these communities. And they are very, very upset with what their politicians have told them and what their politicians have done.

HILLARY CLINTON
I think Donald just criticized me for preparing for this debate. And yes I did. And you know what else I prepared for? I prepared to be president, and I think that’s a good thing.

トランプは、自分が各地で様々な人と会っている間に貴方(ヒラリー)は家で閉じこもって身内だけ見ていたのだろう、と攻めたのに対し、自分はディベートのために準備してきた、そう、自分は大統領になるために準備をしてきた、という見事な切り返し。会場が湧いた瞬間です。

もう一つはこちら。

DONALD TRUMP
I think my strongest asset, maybe by far, is my temperament. I have a winning temperament.

HILLARY CLINTON
Okay.

トランプが、自分は大統領としての「気質」を備えていると述べたのに対し、ヒラリーは、肩を揺らしながら、一言だけ「オーケー」。ここで大きな笑い。

トランプが最も問題視されている点がまさに「気質」であることをふまえ、それを自ら取り上げてる失態を演じたトランプに対し、あえて深追いせず、小馬鹿にした態度をとるだけで終わらせる。最大限の効果を得た見事な切り返しといえます。

この2つの対応は相当練習したのでしょう。してやったり、というヒラリー、元々落ち着いていましたが、この後はさらに余裕が感じられました。

また、「第1回テレビ討論会のポイント」で述べたとおり、討論会では相手の弱点をさらけ出すことが最も重要ですが、ヒラリーは、以下のトランプの急所ともいえるポイントを的確に突きました。

・ビジネスの失敗
・納税申告書の提出拒否
・人種差別
・女性差別

トランプはヒラリーの挑発にのり、感情的になって反論するうちに虚偽の発言を連発。司会にも発言の矛盾を突かれ、混乱きわまり、最後の方は立っているのがやっとのような狼狽ぶりでした。

ファクトチェックについては、以下のNPRのサイトをご覧下さい。いかにトランプの発言が虚偽に満ちているかが分かります。

「Fact Check: Trump And Clinton Debate For The First Time」

ヒラリーとしては、トランプが大統領としての資質を欠くことを明らかにし、さらに自らの格調高さもアピールできて、100点満点のパフォーマンスだったといえるでしょう。それに比べると、トランプは準備不足を露呈しました。

「第1回テレビ討論会のポイント」で述べたとおり、討論会の直前、ヒラリーは後退の局面にありました。

健康問題、クリントン財団、トランプの支持者批判、Eメール、嘘の発言・・・ヒラリーには無数の弱点がありました。しかし、このうちトランプがポイントをかせいだのはせいぜいEメール問題のみ。

トランプの持ち味は、相手の急所とつかんだところをしつこくイジることですが、今回トランプが何度も強調したポイントは、ヒラリーには経験はあるが結果を出していない、という点でした。

これはヒラリーに見事に受け流され、トランプの反論は、「貴方(ヒラリー)の言っていることは嘘だ」と繰り返すだけでした。しかも、トランプの主張は前述のとおり虚偽が多く、墓穴を掘る結果にもなりました。

イメージは評価困難

しかし、「第1回テレビ討論会のポイント」で述べたとおり、重要なのは、議論の内容よりイメージです。CNNの世論調査では62%がヒラリー勝利と評価したとのことですが、他の世論調査などでは異なる結果が出ています。

これはもう、見る人の主観によるところですから、何とも言えません。元々ヒラリーが嫌いな人たちの多くは、彼女がエスタブリッシュメント(エリート)であることを嫌っていますが、そういう人たちは、ヒラリーがいかに落ち着いた良いパフォーマンスを見せても意見を変えることはありません。

ヒラリーももっと大衆受けするように変えればいいではないか、と言うコメントも聞きますが、ヒラリーほどに、良くも悪しくも熟達した政治家がそのスタイルを変えることには限界があります。アメリカ国民もすでにヒラリーのことはよく知っているわけです。今更という感は否めません。

それに、有権者に媚びるような振る舞いをすれば、かえって裏目に出るでしょう。まして、繰り返しになりますが、ヒラリーのような経験とまじめさでアピールするタイプであればなおさらです。

トランプも、客観的に見れば大失態ですが、多くの国民は「トランプはこんなもの」と思ったでしょう。ある意味想定内のパフォーマンスで、トランプの支持率に大きな影響を与えるものではないと考えられます。

ただ、討論会後の大きな動きを指摘すると、メディアの動向があります。まず、アリゾナ州の保守系メディアであるアリゾナ・リパブリックがヒラリー支持を表明。同紙が民主党候補を支持するのは126年の歴史で初めてのこと。

アリゾナ州は、「各州の動向」で述べたとおり、これまでは典型的なレッド・ステートでしたが、今回の大統領選ではスイング・ステートにカウントされています。

The Cook Political Report 「2016 ELECTORAL SCORECARD FOR SEPTEMBER 29, 2016」

アリゾナは代議員数が11と多く、ここをヒラリーにとられるとトランプの勝利はかなり厳しくなります。それだけにアリゾナ・リパブリックのヒラリー支持が与えるインパクトは無視できません。

また、テキサス州のダラス・モーニング・ニュースもヒラリー支持を表明。同紙が民主党候補を支持するのも第二次大戦時以来初めてのこと。

さらに、ミシガン州のデトロイト・ニュースも反トランプ(リバタリアン党のゲーリー・ジョンソン支持)を表明。同紙が共和党候補を支持しないことは創刊以来初めて。

米国最大の全国紙USAトゥデイも、反トランプ(ヒラリーも支持せず)を表明。同紙が特定の候補者への態度を表明するのは創刊以来初めて。

また、討論会後のトランプの振る舞いも注目されています。討論会後に記者会見を行うという異例の行動や元ミス・ユニバースへの罵倒を見ると、討論会で墓穴を掘ったことに対する苛立ちが見てとれます。

当然のことながら、トランプのチームはこうしたトランプの動きをサポートすることができていません。良くも悪しくもトランプたった一人の戦いであることをあらためて露呈したといえます。

続き(支持率への影響、今後の展望)は次回述べます。

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3 comments on “米国大統領選:第1回テレビ討論会①
  1. ペルドン より
    第1回テレビ討論会の評価

    JDの指摘に・・間違いはないでしょう・・
    としても・・
    トランプのミスは目新しいものではない・・
    ヒラリーのディフェンスも見事だが・・目新しいものではない・・

    要するに・・
    国民は誰に投票するか・・殆んど決めているでしょう・・
    どちらが勝ち馬か・・
    国民は最後の値踏みをしているでしょう・・・(笑

  2. JD より
    ペルドンさん

    まあ、それはそうでしょう。当たり前のことをおっしゃっていますね(笑)。
    分析は、基本が大事です。陰謀論やひねった見解は、エンタメとしては良いのでしょうが。

  3. ペルドン より
    JDさん

    実は・・
    エンタメもオーソドックスも・・
    裏を返せば同じではありませんか・?・・・(笑

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