2016/08/17 07:44 | 米国 | コメント(6)
米国大統領選:トランプの自滅が続く
■ トランプ氏、銃所持権めぐり発言 クリントン氏を「脅迫」か(8月10日付CNN)
■ トランプ氏「オバマ・クリントン両氏はISの共同創設者」と発言(8月11日付ロイター)
先週は、ドナルド・トランプにとって受難の1週間でしたが、今週も状況は変わりません。むしろ、失態がとどまることを知らず、状況は悪化しています。
トランプの強みは、有権者のニーズを掘り起こす嗅覚とそれに合わせて自らのスタイルを変える融通無碍なオポチュニズムにありました。その感覚と柔軟性は、これまでの政治家には太刀打ちできない抜群のセンスを誇り、まさに天才と言われる所以でした。
予備選において、トランプは、その魔性を遺憾なく発揮、中西部の白人の怒りを掘り起こすことで共和党内の分裂を誘い、反エスタブリッシュメントの支持を固めて勝利しました。
しかし、この手法が通じるのは予備選までです。反エスタブリッシュメントだけで本選に勝つことはできません。素人目にも明らかなことを天才トランプが気付かないわけはありません。
そこでトランプは、マルコ・ルビオやテッド・クルーズなど、かつてのライバルにも秋波を送るなど、得意の変幻自在を見せ、誰からも愛されるマイク・ペンスを味方につけました。さらに宗教右派と共和党指導部の支持をとりつけることに成功し、きわどいながらも党大会での指名に至りました。
こうしたニュータイプのトランプをアピールし、党指導部の全面的なバックアップを得て、数多くの爆弾を抱えるヒラリー・クリントンの自滅を待てば、トランプの勝利は現実味を帯びたのかもしれません。
しかし、ヒラリーはメール問題をきわどくも回避し、民主党は共和党と好対照に結束を固めることに成功しました。このまま行けば出発点において大きく遅れをとるトランプに勝ち目はありません。
先週から始まる一連の暴言は、こうした不利な状況の固定化を背景にしたものでしょう。情勢を一変させようとして、得意のトランプ劇場に持ち込もうとしたわけです。
とはいえ、先週からの言動は、明らかに行き過ぎです。
既に述べたとおり、先週のトランプの発言は、米国人の価値観に反するという意味で致命的な要素を含んでいましたが、今回のヒラリー暗殺の示唆や「イスラム国」創設発言も、まともな米国人にとっては到底受け入れられるものではなく、米国人の感覚を見誤っています。
もともとトランプは、聴衆の反応を見て当意即妙にスピーチを決めるという特技をもっており、話の内容ではなく聴衆の感情を盛り上げることを最重要視するスタイルを持ち味にしていました。しかし、今は、聴衆のウケをとることは成功しても、場外の米国人の心をつかむことはできず、さらに自分自身の感情もコントロールできていません。
今、トランプは、状況を立て直すべく、ポール・ライアン、ジョン・マケインの再支持を表明し、新たな経済政策を発表する、といった対策を打っています。そして、自身がまともな候補であることを再度アピールしつつ、バーニー・サンダースの支持者、白人の中間層、銃所有者の取り込みに動いています。
そこにポリシーや一貫性はありません。この動きの速さと柔軟性は今までどおりのトランプです。
しかし、彼の魔術がどこまで米国民に通じるのか、ここにきて初めて真剣に試されているといえるでしょう。
次の大きなイベントは9月26日のテレビ討論会ですが、トランプは一度日程に異議を唱えた経緯もあり、欠席するのではないか、という憶測もあります。
さらに、共和党の中には、先週述べたとおり、すでに「クリントン・リパブリカン」(「レーガン・デモクラット」との対比)とも言うべき党員が出現していますが、党指導部の中にも、トランプに見切りをつけて、選挙資金を大統領選ではなく議会選に投入した方が良い、という意見も出てきています。
もっとも、トランプにはいまだに大きな支持層があります。議会選候補者の中にはトランプから距離を置いて選挙に臨む者も多いですが、そうは言っても、共和党指導部がトランプを完全に切ることはやはり困難でしょう。
しかも、これだけの異常な言動を重ねながら、トランプの支持率はさほど変わっていません。ここを底入れと見る向きもあります。
このため共和党指導部は、もはやトランプをどう扱っていいのか分からず、途方に暮れている状態です。いずれにしても、このような観測が米国の識者の間で真剣に取り沙汰されるくらい、今のトランプは追い詰められています。
テレビ討論会を欠席し、共和党指導部が本当にトランプを見限る動きを見せれば、本線前に撤退というシナリオすら現実味を帯びてくるでしょう。
さて、一方、ヒラリー側については、こちらも色々ネタは出てきますが、いずれも何を今更という話であり、大統領選を左右するほどのインパクトはありません。
トランプの支持が底を打っているように、ヒラリーの支持も底を打っています。だから、結局のところヒラリー有利の状況が続きます。
あえて言えば、日本やアジアにとって最も注目を集めたのはTPPに関する発言です。ヒラリーもついに真正面からTPP反対の方針に舵を切りました。これは痛い。トランプとヒラリー、いずれが勝ってもTPPは絶望的な状況になってきました。
オバマは、レームダック・セッションでTPPの議会承認を得る覚悟を決めつつあります。日本としては、オバマの最後の執念に期待するしかありません。
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6 comments on “米国大統領選:トランプの自滅が続く”
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だからと言って・・
トランプを甘く・・軽く見るな・・オバマ・・
もぅ勝ったも同然・・と燥いでいるヒラリー陣営に・・大釘・・
まだ・・本選前・・
どちらが酷い候補か・・の選択になっている・・キングリッジ・・
ヒラリー不人気・・信頼度最低・・陣営の予想を上回るのでは・?
トランプ・・あからさまにサンダース層狙い・・
ヒラリーの健康・・気になるのは・・毎回彼女の貌が異なる・・化粧次第にしても・・決して・・健康色じゃない・・・(笑
トランプ氏が当選すれば、暗殺される可能性は如何ばかりでしょうか?
当選するとは思ってませんが。
それとヒラリー氏が大統領になったら、爆弾抱えて墜落炎上の可能性を抱えたまま、アメリカは4年間も持つのでしょうか?
当選すると思ってますが。
記事には書きませんでしたが、健康問題は、実は最大のリスクではないかと言われています。
報道には出ないのですが、事情通の間では本選までもたないかもしれないと。
ヒラリーの「爆弾」は、本質的には大した話ではないと思います。
この程度のことはみんなやっている・・・という話ですし、もっと危険な爆弾を抱えた候補もいたと思います。
ただ、彼女はダメージコントロールが下手で、自身のクレディビリティを大きく傷つけてしまった・・・だから選挙では致命的になり得る、そういう話です。
相手がトランプでなければ、ヒラリーが勝つことはまずなかったでしょう・・・
ありがとうございます。
お二人のやり取り読み、知事選の東京都民のほうが大統領選のアメリカ国民よりも恵まれているとは、アメリカはいつからトホホの国になったのでしょうか…。
マジ、ヒラリーの副大統領候補が非常に大きな意味を持つということですよね…。
ティム・ケイン氏…おめでとうございます…。
売名目当ての段階はとっくに過ぎ、その過激さで商売に悪影響と読んだような…。
もうルビコン川へ入水し、今やヒラリー健康問題自滅を期待し、本気で勝つつもりと見ます。
いやはや、アメリカ事情通達の間では大変なことになっているのでは?
日本もポスト安倍首相がどう展開するのか、予断を許さないですよね。
いずれは日本国内政治も取り上げてください、テキトーに…(笑)