2021/08/26 19:00 | ブログ・メルマガ紹介 | コメント(2)
メルマガ「グッチーポストの経済ZAP!!」のご紹介
皆さま、改めまして、「グッチーポストの経済ZAP!!」を執筆しているSaltです。
これまで国内や欧米の金融機関を経て、独立後も金融マーケットに向き合ってきました。
同じく欧米の金融機関にいらっしゃった、ぐっちーさんとはすぐに意気投合、様々な仕事をご一緒するだけでなく、ワインや様々な美味しいものを食べたり飲んだりと、有意義なお付き合いをさせていただきました。
しかし、ぐっちーさんが逝去されたことで「週刊ぐっちーさんの経済ZAP!!」は休止いたしましたが、こうしたご縁から、執筆を引き継ぐことになりました。メルマガでは、主に米国経済の動向について、ぐっちーさんが続けてきたノウハウを活かしつつ、深く、時にマニアックな分析を提供しています。
2019年12月からスタートした「グッチーポストの経済ZAP!!」は毎週月曜日朝に配信しており、まもなく100号になります。
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それでは、さっそくメルマガの基本構成をご覧ください。
●先週のマーケット
主要指標や日銀の週間動向、国内マーケットのトピックもピックアップ
●先週の米国経済統計(結果)
先週発表された米国経済統計の結果を網羅
●経済統計分析
このメルマガのメインコンテンツ。今の米国経済を掘り下げ!
特に注目される経済統計、金融政策、市場動向を公表データを基に分析
●今週の米国経済統計(予想)
次週の米国経済イベントを市場予想とともに網羅
●あとがき
グルメから社会問題、時には政治ネタまで幅広く徒然なるままに・・・
その経済統計の中でも特に重要な統計については「経済統計分析」でピックアップし掘り下げます。特に重視するのが、実際の経済活動の結果を集計したハードデータと言われる、客観的なデータを集計したものです。
具体的には、GDPはもちろんですが、以下のような幅広い指標を包括的に解説します。
・消費関連指標(小売売上高、消費支出、消費者物価など)
・住宅関連指標(着工、販売、住宅価格など)
・雇用関連指標(雇用統計、求人数、失業保険申請など)
以下は、米国の7月雇用統計について取り上げた記事の抜粋です。
この「雇用統計」がなぜそこまで重要なのか?米国GDPのうち個人消費は約70%を占めており、GDP拡大のカギを握るのが「個人消費」であると言っても過言ではありません。そのため、米国の消費の根底を支える「雇用」が重要視されるのは当然で、雇用統計は最も重要な経済指標の1つと考えられています。
一般には、「失業率」や「非農業部門雇用者数」の変化が注目されますが、それにとどまらず、「労働参加率」「平均時給」「 プライム年齢層の動向」「非自発的なパートタイム」「長期失業者」「恒久的な失業者」などあらゆる角度から考察しています。
「(第91号)ツッコミどころのない7月雇用統計」(2021年8月9日発行)より抜粋。
○雇用統計 7月
From the BLS:Employment Situation Summary
*米雇用統計は、米国労働省(U.S. Department of Labor Bureau of Labor Statistics)が毎月公表する、米国の雇用情勢を調べた最も重要な経済指標の1つと考えられています。雇用統計は、「家計調査」と「事業所調査」からなる包括的な労働統計です。
BLSから7月の米雇用統計が公表となりました。雇用統計に先駆けて発表された、雇用統計の類似指標であるADP(オートマティック・データ・プロセッシング社)の7月雇用レポートでは、民間部門雇用者数は前月に比べ33万人増と、前月(68万人増)および市場予想(69万5千人増)を大幅に下回る結果となりました。
これは、BLS発表の7月雇用統計の雇用者数が大幅に低下することを意識させる結果でした。しかし一方で、ISM発表の、製造業、サービス業における雇用判断は、製造業が52.9(前月49.9)、サービス業が53.8(前月49.3)といずれも好不況の分かれ目となる50を明確に上回り雇用の拡大を示しました。
さらに、7月のCB消費者信頼感指数における雇用判断は、パンデミック前に戻るどころか、すでに2000年以降の最高水準に達しています。このように雇用関連データが強さを示す中、雇用統計ではどのように示されるのか。さっそく、7月の雇用統計を見ていきましょう。まずはヘッドラインから。
【家計調査】(前月)
■ 失業率 5.4%(5.9%)
(市場予想 5.7%)
失業者数 870万2千人(948万4千人)
労働参加率 61.7%(61.6%)
雇用人口比率 58.4%(58.0%)
【事業所調査】(各結果は前月比、季節調整済)
■ 非農業部門雇用者数(NFP:nonfarm payroll employment)
7月結果 +94万3千人増
(市場予想 +87万人増)
6月修正 +93万8千人増(+8万8千人上方修正)
5月修正 +61万4千人増(+3万1千人上方修正)
■ セクター別雇用者数(前月)
□ 民間部門 +70万3千人増(+76万9千人増)
・財部門 +4万4千人増(+4万5千人増)
・サービス部門 +65万9千人増(+72万4千人増)
□ 政府部門 +24万人増(+16万9千人増)
・家計調査
失業率は5.4%と、前月から0.5%ポイント上昇、低下を見込んでいた市場予想をさらに上回る低下となりました。失業率は前年同月(2020年7月10.2%)に比べると4.8%ポイント低く、失業者数は前年同月(同1630万8千人)に比べ760万6千人減少しました。この前年比のギャップはベース効果によるもので、今後はさらに縮小に向かうでしょう。
また、労働参加率(生産年齢人口に占める労働力人口の割合)(*)は前月と変わらずの61.7%、雇用人口比率(生産年齢人口に占める就業者数(雇用者数)の割合)も前月と変わらずの58.4%でした。
(*)労働参加率:生産年齢人口(生産活動に従事し得る年齢の人口)に占める労働力人口(働く意志を表明している人口)の割合
・事業所調査
事業所調査における非農業部門雇用者数(NFP)は前月比94万3千人増で、前月及び市場予想からも上振れました。また、過去2カ月は、5月が+3万1千人の上方修正、6月が+8万8千人の上方修正がそれぞれ入り、5月と6月の雇用者数は合わせて+11万9千人と上方修正されました。
セクター別では、民間・政府部門ともに増加、民間部門は増加を見込んでいた市場予想(70万9千人増)を僅かに下回りました。業種別では、レジャー・ホスピタリティは38万人増(前月39万4千人増)となり民間部門の雇用増を牽引しました。
内訳をみると、飲食業(25万3千人増)と宿泊施設(7万3千人増)がその大半を占めています。パンデミックにより、レジャー・ホスピタリティは、2020年3月、4月だけで約820万人の雇用を失いましたが、今回の増加を含め、ようやくその約79%を取り戻したことになります。その他では、製造業が2万7千人増、建設は4カ月ぶりにプラスに転じ1万1千人増、軟調が続いていた運輸・倉庫が4万9千人増と大きく増加しており、人々が仕事に復帰していることを示す内容でした。これらはISMに示された雇用判断を反映するものと思われ、製造業、サービス業ともに雇用は堅調でした。
また、政府部門が24万人増と今回の雇用増に大きく寄与しておりますが、これは州・地方政府の教育関連が22万700人増と大幅な増加になったことが反映されています。この増加は学校再開に伴う雇用増ともとれますが、先月に続き季節調整の影響が大きいようです。
季節調整前(NSA)の数値を見てみると、州・地方政府の教育関連は約90万1千人減と大幅な減少となっています。しかし、この減少幅は例年の7月としては少ない水準で、これは昨年の教師の雇用が少なかったことによるもので、結果として季節調整により7月季節調整済(SA)の数値が膨らんでしまったということになります。
ということで、今回示された、7月の雇用統計のヘッドラインでは家計調査における失業率は、市場予想を大きく下回る低下となりました。また、事業所調査におけるNFPは市場予想を上回り前月からも増加、さらに過去2カ月はともに上方修正が入りました。雇用市場が回復に向かっていることが確認できた7月雇用統計の内容を、さらに詳しく見ていきましょう。
■ 平均時給
平均時給(賃金)は前月から0.11ドル上昇し、30.54ドル(前月30.43ドル)でした。週当たりの平均賃金も1062.79ドル(前月1058.96ドル)と、前月から上昇。また、週平均労働時間は3カ月連続34.8時間(前月34.8時間)で推移しており高止まりが続いています。ということで、平均時給は前月比で+0.4%(前月0.3%)と市場予想(+0.3%)を上回りました。また、前年同月比では+4.0(前月+3.6%)と、上昇を予想していた市場予想(3.9%)をさらに上回りました。
ISMなどでも示されているように、企業の労働力需要の増加に対し人手不足は深刻で、人材確保のために賃金を上げざるをえない状況となっている可能性があります。週平均労働時間を見ると、直近3カ月はほぼ横ばいで推移し高止まりが続いており、企業の採用意欲を強める動機となる可能性があります。しかし、人材確保は容易ではなく、こういった状況が、さらなる賃金上昇圧力につながるかが注目されます。
■ 25歳から54歳 プライム年齢層
プライムエイジの労働参加率は81.8%(前月81.7%)と、2カ月連続で上昇。雇用人口比率は77.8%(前月77.2%)と前月から上昇が加速しました。この働き盛りの年齢層は、最終的な景気回復の鍵を握ることになりますので、注意深く見ていく必要があります。
今回、全体の労働参加率、雇用人口比率はともに上昇がみられましたが、この働き盛りの年齢層であるプライムエイジについても、求職活動を経て仕事に就く人が増加したことがうかがえます。雇用人口比率は新型コロナ前(20年2月)の80.4%に比べて依然低い水準にあり、このあたりが取り戻せるかは、労働市場の回復においても重要なポイントです。
■ 非自発的を含むパートタイム
経済的理由からパートタイムで働いている人の数は448万3千人で、前月(462万7千人)から14万4千人減少しました。2020年4月の過去最高値1089万9千人から回復に時間がかかっていましたが、いよいよ新型コロナ前の2020年2月の439万8千人と比べ、あと8万5千人多い水準というところまで回復してきました。
こうしたフルタイムでの雇用を望みながらもパートタイムでしか働けなかった労働者は、完全失業者や縁辺労働者(*1)を考慮した広義の失業率である、いわゆるU-6(*2)に含まれます。U-6は7月に9.2%(前月9.8%)と前月から低下。過去最高レベルを記録した2020年4月の22.9%からは低下傾向が続いています。コロナ前の2020年2月が7.0%ということを考えると、もう少し時間がかかるものの回復は鮮明となってきています。
(*1)縁辺労働者=就業希望の非労働力人口のうち、仕事があればすぐつくことができ、過去1年間に仕事を探したことがあるが過去4週間には仕事を探さなかったため失業者にカウントされない者
(*2)U-6 =(完全失業者+縁辺労働者+経済的理由によるパートタイム)/(労働力人口+縁辺労働者)
■ 26週以上長期失業者
26週以上失業しており、まだ求職活動をしている長期失業者は342万5千人(前月398万5千人)で、前月比56万人減少し、これは過去最大の減少幅でした。失業者全体に対する、長期失業者の割合は39.3%と、前月の42.1%から改善しました。一方、失業期間の平均は29.5週と、前月の31.6週から短くなり、30週を超えた前月から改善しました。
ということで、長期失業者は前月の増加から再び減少に転じました。長期失業者は、新型コロナ前の昨年2月(111万1千人)の水準から実に3倍強の水準にあることを考えると、楽観はできませんが、長期失業者が仕事に復帰していることを示す内容でした。長期失業者の状況は、最終的な雇用環境の回復を見極める上で大変重要なポイントとなりますが、長期失業者数は依然として高水準です。このあたりが回復基調を強めることができるかはポイントになります。
■ 恒久的な失業者
恒久的な失業者(Permanent job losers)は、主に正社員の雇用を喪失した人の数で、これらの雇用の回復するのはなかなか簡単ではありません。このような失業者は、再就職に関しても難しさを抱えているケースも多いと思われ、回復には時間を要することが想定されます。そういう意味でも、本格的に雇用市場が回復に向かっているのかを見るうえで重要なポイントとなります。7月の恒久的な失業者は、293万人となり、前月の318万7千人からの減少は-25万7千人と大幅に改善しました。
コロナ前の昨年2月(129万8千人)に対し、依然として2.26倍の水準にあり楽観はできませんが、長期失業者同様に回復基調を強めることができるか注視していきます。
・雇用統計総論
ということで、ここまで7月の雇用統計を見てきましたが、概ね強い結果で、むしろ悪いところを見つけるのが難しい内容でした。ヘッドラインのNFPは市場予想を大きく上回り、加えて前月、前々月はあわせて大幅に上方修正が入りました。また、失業率も前月(5.9%)および市場コンセンサス(5.7%)を大きく下回り5.4%とこちらも予想以上の改善でした。これは、人々が求職をし、多くの人が職に就いたことをあらわしており、全米で一般にワクチン接種が始まって約7カ月、その効果が経済活動の再開として現れ、経済が循環してきている結果といえるでしょう。
また、前述したようにプライムエイジの労働参加率上昇、広義の失業率であるU-6の低下、長期失業者の過去最大の減少など、定点観測している項目すべてで改善がみられました。
さらに、人種別の失業率でも、白人が4.8%(前月5.2%)に改善したのに対し、黒人は8.2%(前月9.2%)、ヒスパニックは6.6%(前月7.4%)とそれぞれ低下し、労働市場に戻ることが遅れていたゾーンで労働市場回帰の動きが見られました。また、学歴別でもすべての層で失業率は低下しており、こういった雇用の質とも言うべき点でも改善が見られました。こういった点はパウエル議長も注目しているところであり、金融政策の議論を進める上でポイントとなるでしょう。
・未だ戻らない雇用者数
今回の雇用統計で雇用の回復は鮮明になったとはいうものの、パンデミック前の雇用者数に比べ、いまだ約600万人の雇用が失われたままになっていることは見逃せません。
人々が職に復帰しない理由としては、失業給付の上乗せ(毎週300ドル)があるため、新型コロナ感染による健康被害を恐れている、また、看病や子育てがあり家を空けられないため、などが理由であると言われています。
しかし、この中で失われている約600万人の雇用を取り戻すには、失業給付の増額の行方がポイントになってくるでしょう。すでに、共和党州を中心に全米約半分の州で失業給付の上乗せを停止したことは、以前メルマガでもご説明した通りです。そして残りの州においても、9月6日には、失業給付の上乗せは、ついに全州で停止されます。
さらに、それと同時にPUA、PEUCについても全州で停止されることを踏まえると、現在それらを受給している失業者の復職が促される可能性は高いと考えらえます。ちなみに足元でPUAとPEUCの受給者だけでも約950万人おりますので、連邦政府によるこれらの措置が停止される9月6日以降、雇用の回復ペースが上がってくるのか注目しましょう。
こうしたハードデータが重要であることは間違いありませんが、集計・加工に時間を要するため、速報性が低いというデメリットもあります。したがって、消費者や企業担当者などの聞き取り調査を元に集計した、速報性に優れた「ソフトデータ」も抑えておく必要があります。
ソフトデータは、景況感や見通しなど主観的に判断された数字を集計しており、有名なところでは、各連銀の製造業サーベイや消費者信頼感、ISM指数等が該当します。マーケットのセンチメントを先導するものが多いのですが、こういったハードとソフトを両輪でとらえていくことが大切です。
そして、最後に忘れてはいけないのが、中央銀行の動向です。パウエルFRB議長はじめFEDの重要メンバーの発言や、FOMCでの議論についてもフォローしています。声明文や要人発言のニュアンスの変化がマーケットにどんなメッセージを出しているのかを読み取って、お伝えしています。
これは4月のFOMCについて取り上げた記事の抜粋です。
「(通算第77号)加速する米国経済統計・4月FOMC、FRBからのメッセージは?」(2020年5月3日発行)より抜粋。
○FOMC 4月
先週のメルマガでもお知らせしたように、4月FOMCが開催されました(27~28日)。基本的には金融政策に関しては現状維持で変更はないでしょうし、ステートメントに関しても大きく修正されることはないと想定していることをお伝えしておりますが、はたしてどうなったでしょうか。また、テーパリング開始時期について、何かヒントはあったのでしょうか。早速見ていきましょう。
今回、FRBは、現行の実質ゼロ金利、量的緩和政策の現状維持、を出席した11名全員賛成で決定しました。また、発表された声明文では、景気の現状判断とインフレに関する部分で僅かに上方修正がされました。さらに、景気見通しにおいて表現変更がありましたが、いずれも大きな修正には至らず、想定内の結果といえます。
全般的にサプライズに乏しかった4月FOMCの詳細を見ていきましょう。まずはステートメントから。
・FOMC statement
Federal Reserve issues FOMC statement
金融政策の方針について委員会は、米国の政策金利であるフェデラルファンズ・レート(FFレート)の目標レンジを現行のまま0~0.25%に据え置くことを決定しました。
また、FRBは引き続き、資産買い入れプログラムを現行のまま、米国債を少なくとも月800億ドル、住宅ローン担保証券(MBS)を月400億ドルの資産購入規模を維持することを決定しました。これを、委員会の目標である雇用の最大化と物価安定に向けて、さらなる著しい進展があるまで継続する方針を再表明しています。
以上の金融政策の方針について前回から変更はありませんでした。
また、今回のstatementは、以下のような景気判断やインフレに関する表現の上方修正と変更がありました。
・Amid progress on vaccinations and strong policy support, indicators of economic activity and employment have strengthened.
(ワクチン接種の進展と強力な政策支援を背景に、経済活動と雇用に関する指標は力強さを増した)
⇒「ワクチン接種」と「政策支援」に関する記述が追加。また、経済活動と雇用に関する表現が、前回の「最近上昇している」(have turned up recently)から「力強さを増した」(have strengthened)に上方修正
・ The sectors most adversely affected by the pandemic remain weak but have shown improvement.
(パンデミックの影響を最も受けたセクターは依然として弱いものの、改善もみられる)
⇒「改善もみられる」(have shown improvement)を追加し上方修正
・Inflation has risen, largely reflecting transitory factors.
(インフレ率は上昇しているが、これは主に一時的な要因を反映している)
⇒「一時的な要因」(transitory factors)という文言を追加。また、インフレの評価を、前回の「2%を下回る状態が続いている」(continued to run below 2 percent)から「上昇した」(has risen)に上方修正
・ The ongoing public health crisis continues to weigh on the economy, and risks to the economic outlook remain.
(現在進行中のパンデミックは、引き続き経済に重くのしかかり、経済見通しに対するリスクは残っている)
⇒前回から「雇用」や「インフレ」に関する記述が削除
・パウエル議長会見及びまとめ
FOMC会合後のパウエル議長による記者会見では、ワクチン接種や金融・財政支援が奏功し経済活動や雇用は強くなったものの、経済は我々の目標から大きくかけ離れており、目標達成にはしばらく時間がかかるという見解が示されました。
そして、足元のインフレは、昨年対比のベース効果や、経済の急回復による供給のボトルネックから物価上昇圧力による、「一時的」(transitory)なものになる可能性が高い。したがって、インフレ率が2%を超えても、それが政策金利引き上げの条件を満たさないことを示しました。
また、労働市場にスラック(緩み)がある中で、インフレ期待を押し上げるような持続的なインフレが起こる可能性は低いとしました。その労働市場に関しては、状況は改善し続けているものの失業率は依然として高水準で、多くの国民が失業中であり、目標とする最大雇用には程遠い状況であるとしました。
特に、経済的な負担を担えない人々が最も大きな打撃を受けており、サービス業の低賃金労働者、アフリカ系、ヒスパニック系の失業率は依然高い状況にある。また、長期間にわたり労働市場から離れている長期失業者や、中小企業に対するダメージを非常に心配していると懸念を示しました。
こういったポイントを重視するのは、パウエルFRB議長が完全雇用の条件として、雇用統計のヘッドラインで失業率が下がったなどの単純な条件でなく、インクルーシブで見るとする考えがあるからです。この辺に関して、「今後は失業率の推移が重要」とのメディアなどでの解説も散見されましたが、FRBの示すインクルーシブで見る、つまり、人種や教育水準などにかかわらず、すべての米国民の雇用が回復されるまでは緩和姿勢を維持するというスタンスをしっかり押さえてみていく必要があるでしょう。
さらに、今回のFOMCではテーパリング(資産購入縮小)について何らかの示唆があるかもしれないという期待が市場にはありましたが、パウエル議長はこういった思惑を、「テーパリングに関し議論するには時期尚早」(It’s not time yet to have conversation about tapering)と一蹴。雇用とインフレの目標を達成するまで、現行の実質ゼロ金利政策や量的緩和政策を当分の間継続する方針を明確にしました。
今回のFOMCは、基本的にはこれまでと同じ説明を繰り返す、サプライズに乏しい内容でした。しかし、経済やインフレの見通しをしっかり引き上げながら、先走りがちなマーケットを牽制すべく、テーパリングはキッパリ否定し、雇用目標には程遠いと再度強調。ふたを開ければ、今回もパウエル議長の絶妙なハンドリングが光る内容だったといえます。
・それでも燻るテーパリング観測
先週のメルマガで、テーパリングの開始時期に関するヒントくらいは落としていってくれるのでは、と書きましたが、FOMC会合の議長会見を通して、FRBは現行の緩和政策を当分の間継続する方針を明確に示し、テーパリングを議論するには時期尚早と、テーパリングのヒントの欠片も与えてくれませんでした。
それでも、市場にテーパリングへの懸念が燻るのは、FRBが「テーパリングが正当化されるほど経済が回復する、かなり前の段階(well in advance)で市場参加者とコミュニケーションをとることが重要」という内容が3月FOMC議事要旨で示されたからです。したがって、今回のパウエル発言のように、テーパリングに関する議論は時期尚早であったとしても、雇用とインフレにおける改善が続けばテーパリングは意識せざるをえない、という状況が続くでしょう。
そういった意味で、8月下旬のジャクソンホール会合はもちろん、ないとは思いますが3週間後に発表される今回4月のFOMC議事要旨にも何らかの示唆があるかもしれない、と意識されるでしょう。
そんな中、FOMCを終え、発言を控えるブラックアウト・ルールから解放されたFOMCメンバーからさっそくテーパリングに前向きな発言が飛び出しました。そんなことを言うのはやはり、日ごろからタカ派発言が目立つダラス連銀のカプラン総裁です。FOMCで議決権を持たないまでも、そのタカ派ぶりは注目を集めます。
そんなカプラン総裁が「早期に資産購入の縮小についての議論を始めるのが適切」と発言しました。いくらカプラン総裁とはいえ、パウエル発言とのギャップには驚かされます。ということで、テーパリングの火種は燻り続けるでしょう。
以上が基本構成ですが、その他、読者の方のご質問にお答えしたり、企業決算の分析、国内のマーケット事情(たまに)などにもふれています。
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