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The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2011/07/11 00:00  | by Konan |  コメント(2)

Vol.96: 国際会計基準


6月21日、金融担当の自見大臣が「IFRS(国際会計基準)適用に関する検討について」という談話を出しました。会計は専門的かつ地味なテーマで、興味を持たれる方は余りないかもしれませんが、少し紹介したいと思います。

企業が財務状況をどう表現するか、決算をどう行うかなどを規定する仕組みが会計基準です。会計基準に従い毎年の損益が確定し、それに基づき納税や配当が行われます。企業に投資を行ううえでも、財務内容の把握が出発点となります。こうした点に関する重要なインフラが会計基準ということでしょうか。

会計基準は国ごとに独自の発展を遂げてきましたが、今ではIASB(International Accounting Standard Board)が定めるIFRSが覇権を強めています。単純に言えば欧州基準であるIFRSが世界を席巻しつつある状況です。その有力な対抗馬が米国のUSGAAPで、FASBという主体が基準を策定しています。日本ではASBJという組織が日本独自の基準を定めています。

日本もIFRSの軍門に下りかけています。すでに2010年3月期以降、IFRSの任意適用が認められています。また、2009年に「2012年にIFRSを上場企業の連結決算の基準として強制適用する方針を決定しよう。実施時期は2015年3月期ないし2016年3月期からとしよう」という方向性も決められていました。今回の大臣談話では、「こうした方向性のあり方をもう一度考え直そう」「少なくとも2015年3月期の強制適用は行わない」「見直しの結果強制適用を行う結論となったとしても、その実施には決定から5-7年程度の準備期間を置く」という方針が明示されていて、2009年の方針に比べるとIFRS適用に後ろ向き感が出ています。

IFRSの最大の特徴は「時価」尊重です。保有資産の時価が上下すれば、それを即座にバランスシートの評価に反映させるとともに、時価上昇の際は収益を、下落の場合には損失を損益計算書上も即座に計上することが、基本的な考え方です。「経営は長期的な視野に基づいて行うのだから、短期的な相場の上下を財務諸表に反映させるべきではない」といった我が国における伝統的考え方と相容れない性格を持っています。それでも2009年にIFRS強制適用の方向に舵を切ったのは、米国でもUSGAAPをIFRSに鞘寄せ(コンバージェンスと呼ばれます)する検討が進むなど、世界的にIFRSが優勢となり、世界で活動する日本企業からみると、日本基準とIFRSの二本建てで決算を行うことは、むしろ負担となるからでした。しかし、USGAAPとIFRSの鞘寄せ作業の難航、インドのIFRS導入見送りなどの最近の動きをみて、日本でも方針の見直しが行われることになったようです。

本件、国内のみで活動する日本企業にとってみるとIFRS導入など迷惑な話しで、今まで通りが有難いという気持ちは理解できます。他方、世界で勝負する企業が、日本、欧州、米国と異なる基準で3つも財務諸表を作ることは耐え難いと思います。また世界で日本基準が通用しないことも、USGAAPとIFRSの鞘寄せが予定より難航しているとは言え、世界の流れがIFRSに向かっていることも明らかです。結局のところ、上場企業に対する一律強制適用は遅らせる(ないし断念する)としても、IFRSの方が良いと思う企業は、連結、単体(単体決算により納税や配当額が決まります)を問わずIFRSを自由に選択し、税務当局や東証等上場審査主体もそれを受け入れていく方向しかないように思います。

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2 comments on “Vol.96: 国際会計基準
  1. ベルドン より
    国際会計基準

    戦略の臭い・・!!

    会計事務所が・・潤うのは・・確か・・・!

  2. お伊勢参り より
    小さい攘夷、大きい攘夷・・・

    今回のジミ大臣の会見発言は、中小企業むけ融資の「借金棒引き」を提唱した亀井静香さんと同じ国民新党らしいと受け止めています。
    つまり、反市場主義、反欧米、反情報公開という日本を経済敗戦に導いた思想と同根でしょう。

    海外から黒船がくると必ずこの国の伝統勢力はアレルギー反応を起こして、反対するのです。
    「日本には日本のやり方がある。」「マネーゲームに翻弄されたくない。」「会社を売買している連中が利益になるだけ。」「簿価こそ事業を安定させ企業を持続させていく。」「モノづくりという長期的経営とは相容れない。」
    反対意見には事欠きません。

    でもきっと、自分ないし自分の組織が、ある企業の株式を保有したり売買したりするときは、かならずIFRSを重視してみるはずです。

    ちょうど、90年代後半に海外格付け会社が「勝手格付け」と称して企業格付けを公表して批判を浴びたときと同じものを感じます。
    自分の企業は格付けされるのは反対だけど、投資している立場ではこっそり格付けをチェックしていたように。
    IFRS(国際財務報告基準)とはそういう性質を持つ物だと思います。投資家が便利と感じる会計を目指しているということです。

    企業側がイヤなり正当性がないと思うならば、自分が適正と考えるスタンダードを提示・提唱すればよいのに、ダダをこねている年寄り連中のなんと多いことか?

    ここ10年間の国際会計基準に関連する、一連の議論を聞いていると、幕末のころの迷走劇を想起してしまいます。

    そう、皆さんもよくご存知のあれですよ。

    欧米列強が日本周辺に進出していることはわかっていた。米国が黒船でやってくることはオランダ商館経由で幕府は把握していた。
    しかし、抜本的に対策を誰も講じようとはせず小田原評定を重ねるだけ。いざペリーが浦賀にやってきてから、砲台をつくりはじめた。射程距離がおそろしく短い大砲のために。
    とりあえず来年返答するから今回は帰ってくれといってなんとか時間を稼いだ(問題の先送り)。
    ところが、「来年くる」との約束で、年が明けた「数ヵ月後」にペリー艦隊はやってきた。幕府は12ヶ月程度時間稼ぎした思っていたのに。
    しかたがない、江戸が火の海になることが最大の心配だったので、朝廷の反対を押し切り開国した。
    通訳もロクに揃っていなかったので、外交など機能せず「砲艦外交」に屈して不平等条約を締結してしまう。その結果、日本の銀はどんどん海外に流出してしまう。
    けしからん!、と総理大臣に当たる井伊直弼が暗殺される。攘夷、攘夷の大合唱、倒幕運動と連動していくことなるが、それは逸材、知識人をばしめとした多くの人々の血が流されることになる。でもそんなこと(内ゲバ)では事態が良くなるわけもなく、明治維新、文明開化、日清・日露戦争を経てようやく不平等条約解消にこぎつけた。

    という歴史となんだかよく似ている展開と思われません?
    勝海舟がいったように、「おまえさんら、攘夷攘夷といったって、刀や槍じゃぁ攘夷もヘッタクレもねぇよ。」「本当にこの国を守りたけりゃー、洋書を読み、外国の技術を学び、列強に負けねー国にしなきゃ話になんねぇ。」「つまりゃー開国するってことよ。」「オメエさんらの目指すのはちいさぇ攘夷、小攘夷にずきねえ。おいらのめざすのは開国攘夷、これを大攘夷ってんだ。」

    IFRS(国際財務報告基準)をきっかけに企業が自身のこととして制度会計だけでなく、管理会計を強め、長期的価値創造力、事業収益力を築くためのPDCAを回していくようにするのが、世の変化をポジティブにうけとめ建設的方向に自身の組織を導く、大人であり妥当かつ合理的な思考と思います。

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