2011/05/23 00:00 | by Konan | コメント(6)
Vol.89: 東電をどうするか
まず、「機能」と「会社」の扱いを区別することが大事です。「東電を潰せ」と思っておられる方でも、現在東電が所有する発電所の機能やそこからの送電が止まることまでは望んでいないと思います。我が国の経済や国民生活を支えるうえで不可欠な発電とその供給能力の維持は大前提です。
ところで会社の消滅は何を意味するのでしょうか?まず(かつてのホリエモンの言葉ではありませんが)会社の所有者は株主です。したがって、東電の株価はゼロになるべきです。次に、経営責任は重大であり、経営陣は全て首を切られるべきです。会社が潰れる、潰れかける訳ですから、リストラにより職員が痛みを受けることも不可避です。遊休資産や職員の福利厚生施設の売却は勿論、原発をに支える技術者や危険手当を除き賃下げも必要です。以上を前提に、分割やtake over等を考えていくべきです。無論受け手がみつからなければ東電は存続します。ただ、その東電はこれまでの東電とは名実ともに(経営陣も株主も)入れ替わっていることになります。
金融機関のうち、貸し手である銀行に関し、ぐっちーは全額債権放棄せよとの考え方ですが、私はこれには反対です。貸し手として数百年に1度の大災害を前提に金を貸せと言うことは、現実的とは思いません。つまり、非期待損失(unexpected loss)が大きい借り手に貸す場合、銀行はそれに見合う自己資本を積み増す必要がありますが、原発事故まで想定して自己資本を積むことは銀行にとって割に合わない話しなので、銀行は融資を止めざるを得ません。電力会社は民間資金調達が出来なくなり、必要な機能も維持出来なくなります。そうなると、電力会社国有化という話しになりますが、経営効率向上のインセンティブが失われます。
私はこの問題は同じ金融機関の中でも「保険」により対応すべき領域と思います。殆ど予想もし得ない事故への対応は銀行ではなく保険の仕事という考え方です。保険会社が負担を行い、しかし保険会社が再保険等の手段を講じても賄い切れないほどの負担を負って破たんに追い込まれる場合に、国による救済の是非を考というのが、正しい姿ではないかと思います。
次に、電力料金については、仮に原発リスクを従来以上に意識し、原発事故防止にこれまで以上に金をかける、あるいは他の(よりコストが高い)発電方式への切り替えを進めるのであれば、電力会社のリストラは大前提ですが、利用者もコストを負担せざるを得ません。今回のような大震災が起き得る前提で物事を考え直すと、これまでとコストの前提が全く異なってきます。その負担を利用者が全く負わないことはあり得ません。それが嫌なら、つねに計画停電状態を覚悟するしかありません。
以上をまとめると、仮に今回の大震災以前に今回のような大震災の発生を見通せていたとすれば、東電は福島第一の耐震対策をもっと行い、また、火力等の比率を上げていたはずなので、その分は電力料金引上げの形で利用者が負担していたはずです。また、それでも起きうる賠償を想定し、もっと地震保険を掛けていたはずです。銀行は、こうしたより極めて安全な借り手を前提に、国債並みの金利で貸し出していたはずです。そうなっていない状況で大震災が生じたので今更言っても詮無きことですが(たとえば、保険に入っていなかった以上、保険会社に事後的に負担を求めることは出来ません)、東電問題はこうした本来あるべきだった姿に近付けるにはどうすれば良いか、という視点で考えることが大事と思っています。
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6 comments on “Vol.89: 東電をどうするか”
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実務的且つ理性的な御提案・・
ただ
今の首相に出来るか・・?
原発・・東電・・地震ツナミ災害・・日本再生の問題も・・全て・・
その一点にある・・
日本の悲劇・・
どうも ありがとうございます。
今回の大震災が起こるまで、電力がどのように供給されているのか、まったく意識せずに生活していたことに、初めて気がつきました。
私には、日本における電力会社の役割と仕組みが、まだ、全然 飲み込めていませんので、先日、かんべえさんの『不規則発言』に何度も登場している「松永安左エ門」の評伝『まかり通る』(上下・2巻)を図書館から借りてきましたが(かんべえさんは、「買って読むのが大事」とおっしゃいますので、ここはスルーしてください)、残念ながら、改訂版ではなくて、40年ほど前に出版された本だったので、字がものすごく小さく、本を開いた次の瞬間、閉じてしまいました(すみません、ここも、やっぱり、スルーしてもらったほうがいいかも。。。)
池上彰さんに、わかりやすく解説していただけるとありがたいんですが、すでに充電期間に入られているので無理でしょうし、どうすれば理解することができるのか困っていました。 なので、Konanさんの、ポイントを抑えた、タイムリーな解説のおかげで、少し霧が晴れました。
ただ、わからないながらも、「このままでは、マズイ。。。」と痛切に感じたのは、東日本と西日本の電力周波数の違いです。 最初の一歩を間違えたことが、ここまで大きな難題になっているとは。。。 これまで過去に何度も解決への模索がありながら、その都度、そのままになってきたそうですが、今度こそ、解決への合理的な道筋をつけないと、抜き差しならないところに行きそうな気がします。 大震災からの復興も、最初の一歩が肝心で、電力会社の黎明期の轍を踏まないことが大事だと思います。
ところで、最近つくづく、日本の政治家の人たちが、党派や立場、主義主張の違いにかかわらず、世界の動きにまったくついていけてないような気がしてきました。 2012年を目前に控えて、これはコワイですね。 今、日本と世界が直面している現実は、明治維新の時代より、はるかに厳しいものだと感じています。
現状の冷静な分析と、将来を見通すビジョン、逆風に耐えて実行する胆力が、残念ながら、表舞台にいる政治家の人たちに全然ないような気がします。 そろそろ、限界が近づいているのかも。。。 この難局に対峙して、現状打破ができない政治家は、もう、退場してもらったほうがいいのかもしれませんね。 平成の坂本龍馬はいずこに?
レベル7の原発事故が発生した以上、まず電力事業のビジョンと戦略を創らないと有効な事後処理に繋がって行かないのでは。
原子力賠償法でしたっけ?規定されている、免責条項が、考慮されてないのではないですか?
そもそも、今回の責任の所在は?東電を責める方が多いようですが、法令に違反した、オペレーションは犯していないはずではないでしょうか?無過失責任を負う旨の規定もありますが、裁判となった場合には、異常に大きな天災と認定されることは、十分考えられます。東電以上に供給責任を果たせる企業は、現実問題として、なかなか現れないのではないでしょうか?
かんべいさんの溜池通信最新号を読んでみてください。個人的には、原子力の国有化,日本原子力発電または電源開発へ各電力の原発を売却し、過半数以上の株を国が保有するってのが、いいのではないかと思います。後は現行の体制を残置する。60年間溜め込んできたノウハウを代替できる企業体は、なかなか見つからないのではないのでしょうか?
かんべえさんの最新の『溜池通信』を既に拝読していたんですが、私には、残念ながら、基本がかなり飲み込めていません。 それで、かんべえさんが紹介されていた本を読んでみたいと思ったんですが、あまりにも字が小さくて。。。 あれだけ小さいと、本の分量も倍の4冊分くらいあるんじゃないかと思い、アッサリ引いてしまいました。
あらためて、「かんべえさんの読書量、すごい!」と感じました。 超多忙な中、どうやって多読されているのか、お聞きしてみたいです。
電力はライフラインの要なので、安定供給が重要であるにもかわらず、地震列島の日本において、今回の大震災が起きるまで、東日本と西日本の電力周波数の違いを、なぜ、明治時代そのままにしておいたのか、電力行政や電力会社の考え方もナゾです。 現在は、対策がとられようとしているようですが。。。
超巨大地震に耐えた原発が、続く大津波で大きな被害を受けましたが、実際にどういう状況だったのか(特に初期対応)、IAEAの査察による精査、検証の結果を見ないと、事実関係がはっきりしないように感じています。