2011/04/25 00:00 | by Konan |
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Vol.85 : 大震災と経済
今回は経済について取り上げます。阪神淡路の例を引き合いに、「震災復興による経済回復」シナリオが良く語られますが、多くの識者が気付き、指摘を始めているように、今回の問題は複雑です。
まず、「震災復興」シナリオの想定を簡単に説明すると、GDP統計上、災害による建物等の毀損はマイナスとしてカウントされない一方、公共事業を含む復興需要はそのままプラスにカウントされる仕組みになっています。言い換えると、GDPは一定期間内の生産を計るフローに関する統計で、ストックの減少が直接的には反映されません。このため、震災後の混乱期における生産活動の停滞を反映したマイナス成長後、急速に成長率が高まることになる訳です。
今回の問題は、東北地区の日本経済における位置付けと、電力不足問題の2点により複雑化しています。前者について言えば、1985年のプラザ合意後、日本の製造業は海外展開を続け「空洞化」が叫ばれました。逆に言えば、そうした中でも日本に残った生産拠点は、極めて付加価値と効率性が高いものに限られ、かつ、東北や九州北部など、人件費が相対的に低い地域に集約化される構図になりました。また、高品質な部品や素材、あるいは半導体や液晶等の製造装置など、世界の工業生産の鍵分野における日本のシェアは極めて高い状況です(これが日本の最大の強みでした)。その地域が直撃された訳なので、日本は素より、世界のサプライチェーンが止まってしまう問題を引き起こしています。元々在庫を少なくする仕組みを取っていたので、在庫が尽きる日も間近であり、その影響は計り知れません。
日本の製造業の底力は凄まじいもので、様々な工夫により切り抜けていこうとするでしょうが、生易しいものではないことを認識しておく必要があります。
もうひとつは、電力不足問題。少なくとも今年一杯その影響が続きます。これは、首都圏における消費停滞(宴会自粛など)を通じ景気に影響を及ぼすだけでなく、これまでずっと続いてきた「デフレ」を転換させる可能性を秘めています。要は、生産をしたくても出来ないので、需要増が即物価上昇に結び付く可能性が生じています。欧州利上げ等を背景に少し円安が進みましたが、円安傾向が続けば物価上昇を助長します。「デフレ脱却は良いこと」と思う方も多いでしょうが、需要増によらない物価上昇はとてもまずい現象です。金融政策運営も単純な緩和の発想では済まなくなります。
この点で、4月末に日銀が出す展望レポートに注目したいと思います。ここ数年日銀が出してきた中でも、もっとも重要なレポートになるはずです。
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御説・・御もっとも・・・