2011/04/04 00:00 | by Konan | コメント(1)
Vol.82: 日銀の調査レポート
今回は、日銀の調査物を2つ紹介します。日銀の調査も、金融システムレポートが休刊になるなど大震災の影響を受けているようですが、今回は昨年12月に出たもので、賞味期限を過ぎてしまいましたが、結構おもしろいテーマを取り上げていると思ったので、紹介する次第です。
(新興国への資本流入と米国への還流について)
1本目のタイトルは上記で、金融市場局の小林俊さん、吉野功一さんが執筆者です。新興市場国への資本流入の動きを取り上げたもので、ポイントは、
(1)新興国間の資産価格変動の相関が、過去に例を見ないほどに強まっており、国際分散投資のメリットが低下していること。要はどの新興国の資産価格も同じようにどんどん上昇し、その間の違いが余りないので、複数の国に分散投資してリスクをコントロールする戦法が役に立たなくなっているという指摘です。
(2)新興国は自国通貨の急激な上昇を防ぐため自国通貨売り、ドル買いの為替介入を大規模に実施しているとみられること。買ったドルを大量に米国債で運用するため、長めのドル金利に低下圧力を生んでいる可能性があること。
(3)こうして米ドル長期金利が下がってしまうと、投資家からみたドル資産の魅力が薄れてしまうので、益々新興国投資を増やすというフィードバック・ループ(悪循環)が生じていること。
(4)結果として、万一取引の巻き戻しのような事態が生じると、新興国資産価格の急激な下落といった大きな変動が起きる可能性(マグマ)を溜めている可能性があること。
などです。
(米国の構造失業率を巡る最近の論点)
2本目のタイトルは上記で、国際局の大澤直人さんと増島雄樹さんが執筆者です。最近の米国失業率の高止まりに注目したうえで、
「景気後退という循環要因だけで失業率の上昇を説明することは難しく、構造要因が影響している。言い換えれば、構造失業率(どのような政策を実施したとしも、これ以上下がらない失業率水準)が上昇しているのではないか」と指摘しています。
構造失業率上昇の要因として、1)産業間労働需要のばらつきの拡大、2)住宅価格の下落による地域間労働移動の阻害、3)失業保険給付の拡大、4)失業期間の長期化に伴う履歴効果が指摘されています。要は、日本でもみられるような労働需給のミスマッチの拡大、および失業対策の影響が背景として指摘されている訳です。そしてこの問題の含意として、「仮に構造要因の寄与が大きいと考えれば、金融緩和によって失業率を下げる余地は乏しいとの割り切りから、金融緩和からの出口戦略を早めに取る可能性がある」との趣旨の記載がされています。
それぞれ、疑問が無い訳ではありません(1つ目については、その後の米国長期金利上昇の動きを視野に入れていない、2つ目については、住宅価格の下落などは循環要因として捉えるべきではないかなど)が、こうした形で調査物が出る背景に、日銀の問題意識を感じ取ることが出来るかもしれないと思った次第です。
なお、日銀のHPは2ヶ月ほど前にリニューアルされ、少し見やすくなりました。是非一度訪れてみて下さい。
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One comment on “Vol.82: 日銀の調査レポート”
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ツナミに・・押し流され・・
原子力の火に・・炙られた・・
肝心の首相は・・心神喪失・・
世界の動向も・・不明・・
ママと頼る相手も・・いない・・
百姓になるか・・・