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The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2010/09/20 00:00  | by Konan |  コメント(1)

Vol.54: 日銀騒動回顧


今回と次回、8月末に展開された日銀の金融政策を巡る「騒動」について感想を記したいと思います。今回は政策そのものの是非、次回は政府との関係に焦点を当てたいと思います。

今回のテーマの前提として、日銀法の2つの条文を紹介します。

第2条:日本銀行は、通貨及び金融の調節を行うに当たっては、物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資することをもって、その理念とする。

第40条第2項:日本銀行は、その行う外国為替の売買であって本邦通貨の外国為替相場の安定を目的とするものについては、第36条第1項の規定により国の事務の取扱いをする者として行うものとする。

第2条の意味は、「金融政策の最終的な目的は、物価の安定を通じた日本経済の健全な発展への貢献である」ということ、第40条第2項の意味は、「円相場の安定のための為替介入は国の仕事であり、日銀は国の手足に過ぎない(事務を手助けするだけ)」ということです。第2条では、「物価」という言葉が意図的に使われています。日銀法改正時、円相場の安定を含む「通貨価値の安定」を目的とするか、それとも「国内物価の安定」を目的とするか識者により議論され、後者が選ばれたという経緯があります。そして「円相場の安定」は日銀の仕事ではなく、為替介入で円相場を安定させる仕事は国の仕事と整理されました(介入の決定権は国、事務は日銀という役割分担)。

こうした整理になった背景には、「為替介入権限を手放したくない」という政府(当時の大蔵省)の縄張り意識もあったかもしれませんが、理念的には「国内物価の安定と円相場の安定には二律背反の関係が生じ得るので、同じ主体に責任を負わせることは不適切」という考え方がありました。単純な例を挙げれば、「円安にしてくれ」という要望が高まり介入で円安を目指す一方、円安に伴うインフレ効果を抑制するため金融政策を引き締めるという「ちぐはぐ」さを回避するということです。

日銀は法律の枠内でしか行動が出来ません。そして、上記のように、「円安(円高)にする」ことを直接の目的として政策を遂行することは許されません。出来るのは、「円高により日本経済の健全な発展に支障が生じると考える場合、それを防ぐための政策を行う」ことだけです。その政策は、間接的には円相場に影響を与え得るので、一見円相場対策か否か見分けにくいのですが、「日銀は法律の下でしか動けない」という前提を踏まえると、直接円相場を狙う政策はあり得ない(円相場への影響は間接的なものでしかない)ということになります。

8月10日の「金融政策維持」決定と同日、FRBが金融緩和(FRBの資産規模を維持する一種の量的緩和政策の継続)を決定したことを契機に円高化が進行し、「日銀の無知・無策」が非難される経緯となりました。ご案内のように、8月30日に臨時の金融政策決定会合(金融政策を決定する会合については、予め日程が定められ公知されています。その予定日以外に開催される会合を臨時会合と呼びます)において、固定金利オペの期間・量の拡大が決定されました。このオペの意味は、従来は3ヶ月間0.1%のオペを行っていたが、今後は「6ヶ月0.1%のオペも行う」ことにより、低金利の効果を期間3ヶ月から6ヶ月まで延ばすというものです。かつての量的緩和政策においては、「消費者物価が安定的に前年比プラスになるまでゼロ金利政策を続ける」と極めて強いコミットメントを行っていたことに比べると、「期間半年のみ」という形で「値切った」訳です。

政策自体への感想を3つ。まず、「円高」そのものについて、私はぐっちーと近い立場です。自国通貨が強くなることを嘆くというのは、どこかおかしいと感じます。ただ、今回の円高は欧米経済が余りに不確実であるため、相対的に不確実性が低い円が買われているだけなので(要は日本経済の相対的な「マシ」さが買われているだけ)、絶対的には強いとは言えない日本の状況からみると、確かにきつい面があるとも思います。

第2に、「日銀は緩和政策をとれば円安を実現できるのに、しないのは怠慢」という批判はおかしいということ。法治国家の中央銀行が、「円相場の安定は日銀の仕事ではない」という法律の枠を超えた政策を行うことはあり得ません。

第3に、そうした批判ではなく、「円高に伴う日本経済に対するリスクへの対応として、8月10日の決定は無神経であり、30日の決定は中途半端」という批判であれば、十分理解できますし、私もそういう気持ちを持っています。私は欧米経済の不確実性は深刻な問題であり、日本ももう少し構えを取る方がよいと感じています。恐らく日銀の気持ちは、「不確実性は高いが、経済回復の可能性も相応にある。それにもかかわらず、前回量的緩和時のような強いコミットメントを行うことは危険」ということではないかと推測します。それは結果的には正しいかもしれませんし、正しいことを祈ります。ただ、誤りかもしれないことを意識し、次の政策オプションを真剣に考えておく必要もあると思います。

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One comment on “Vol.54: 日銀騒動回顧
  1. ぺルドン より
    俗と聖

    神殿が・・
    銀行を兼ねていた・・
    長い歴史・・
    キリスト様が・・神殿で・・お暴れ・・
    聖と俗が分離・・

    中央銀行総裁は・・汝の勤めを・・引き受ける事になった・・

    歴史は教えてくれる・・
    正しい決定が・・正しくなかった・・あるいは・・正しかった・・例を・・
    正しくなかった決定が・・正しくなかった・・あるいは・・正しかった・・例を・・

    歴史の解答は・・時間がかかる・・・

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