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The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2012/02/27 00:00  | by Konan |  コメント(1)

Vol.129: 世界経済を振り返る(4)


前回は「もうひとつの課題」という言葉で終わりました。これを一言で表すとすれば「不平等」の問題です。「ウォール街を占拠せよ」に象徴される問題と言い換えることもでます。

2000年代の経済成長には2つの原動力(お互いに関係しますが)がありました。新興国の台頭と金融の拡張です。前者は、大きく言えば1990年代の冷戦の終結を契機に、旧「東」諸国、典型的には中国と、旧「南」諸国、典型的にはインドやブラジルが世界経済に統合されていった過程を意味します。安い労働力、あるいは資源を武器に、当初はITバブル崩壊後の景気回復過程における先進国の成長に後押しされる形で、次第に新興国が世界経済の成長をけん引する形で、今や新興国抜きで世界経済を語ることはできません。

後者、すなわち金融は、証券化商品に代表されるように、新たな技術力を背景にそれまで金融が相手にしなかった分野にまで金融の恩恵をもたらしました。単純に言えば、サブプライムの借り手のような低所得層が住宅ローンを借り家を持つことを可能にしました。

しかし、先進国における後者のような層は、実はとても危うい基盤に乗っていました。新興国の台頭は、世界経済の中で相対的に付加価値が低いものやサービスの生産を、新興国が担うことを意味します。先進国でそうした生産を維持しようとすれば、移民を含め安い労働力の導入や自動化が必要です(日本でもコンビニなどで非日本人の店員さんが増えています)。要はこれまで先進国で低中所得層にあった人たちの雇用機会が失われる恐れと裏腹の形で、世界経済が拡大していた訳です。リーマン危機までは、金融に支えれた世界経済の拡張の中で、世界のパイが拡大しその恩恵が及んだ結果、この問題は顕在化せずに済みました。同時に、金持ちは一段と金持ちになりました。

しかし、信用バブルが崩壊し、先進国における低中間所得層の居場所が急激に危うくなったことが、ここ数年の典型的な現象と思います。

高所得層は、バブル期ほどの儲けはありませんが、それでも過去の蓄えを含めそれなりの羽振りを維持します。そうなると、格差も広がり、感情的に持ち堪えることが難しくなります。これがウォール街占拠の背景と思います。こうした不安定さは、政情の不安定化やポピュリズムの台頭をもたらしかねません。また、金持ちへの不満が行き過ぎると「反資本主義、市場主義」の動きが強まり、経済成長への制約ともなりかねません。本当に難しい問題です。

日本でもよく小泉政権の頃格差問題が議論されました。最近あまりそうした議論を聞かなくなったのは、問題が解消されたからではなく、「反小泉」のモメンタムが失われ、かつ格差解消の切り札とも言われた子供手当が不評に終わったことによるものと思います。ただ、日本であまりウォール街占拠のようなことが起きる気もしないのは、日本人の大人しさに加え、ぐっちーが時々指摘するように、日本の状況が世界的にみれば相対的にマシだからなのかもしれません。

今回の問題、昨年末に取り上げた民主主義の問題とも裏腹の本当に大きく難しい問題で、これ以上私に付け加える力はありません。ただ、米大統領選挙などの大きなイベントの動向を占ううえでも、気にし続けておこうと思います。

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One comment on “Vol.129: 世界経済を振り返る(4)
  1. ペルドン より
    中産階級の崩壊

    それはギリシャが・・
    先行して・・実験をやっているのでは・・?
    但し・・
    ユーロ圏内の狭い実験室・・
    本気で・・民族の素質を問われる訳ではない・・・

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