プロが語る世界情勢・政治・経済金融の最前線!

The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2010/06/14 00:00  | by Konan |  コメント(3)

Vol.40: 音楽と経済


今回は趣向を変えて、「音楽と経済」について。ワールドカップが始まり、世間の関心も政治や純粋な経済問題から離れる頃なので、それに合わせてみました。

大学生の頃の思い出話しです。私は、ある人たちに頼まれ、東京文化会館の前でビラ配りをしていました。内容は、初来日間近のウィーン国立歌劇場の公演について「それまでのメトロポリタン歌劇場の来日公演等に比べ高過ぎるのではないか」というもの。順調に配っていたところ、突然手を捉まれました。相手は何と公演の招聘元の社長とその取り巻き。「営業妨害だ」「お前は誰だ」「もう配るな」と脅されました。一応その場は喧嘩沙汰にはならず収まりましたが、その後の音楽雑誌でこの話題が取り上げられたりもしました。

ところで、私は誰に何故ビラ配りを頼まれたのか(私は法学部生で、クラッシク音楽業界者ではありません)。時効なので種明かしをすると、依頼主は知人の若手音楽家数人。依頼の趣旨は「仮にこの高価格が常態化すると、数少ない日本のオペラファンは、予算を外来公演で使い尽くし、日本人の公演、まして若手の公演に使わなくなってしまうだろう。そうなると、我々の将来が無くなってしまう」という危機感によるものでした。要は、依頼主は、外来オペラと「国産」オペラは、経済的に代替関係にあり、一方が伸びると、一方が食われてしまうと恐れたわけです。

結果的にみると、依頼主の心配は少なくとも2000年頃までは杞憂に終わりました。その後のバブル経済に乗ったこともあり、ウィーン、スカラ、メトロポリタンといった世界有数の歌劇団の公演の高額チケットは飛ぶように売れ、日本におけるオペラの認知度や人気は高まりました。オペラファンの層が広がった結果、国産オペラも何とか生き延びることが出来たと思います。代替仮説は市場一定を前提としたものだった訳で、それが外れたということになります。

さて、そうは言っても、「失われた10年」を経て、日本経済が緊縮型に入る過程で、クラッシク業界も苦戦が続くと聞きます。国内では、各地のオーケストラの経営、あるいはバブル期に乱立したホールの経営問題が取り沙汰されます。ホールは需要見積もりの誤りによる典型的な過剰設備問題ですが(他産業でもよくみられます)、過剰オーケストラ問題は不思議な現象です。オーケストラの数が多過ぎ、十分な集客が出来ず、楽団員の給与も十分払えず、バイトで生計をつないでいる場合、本来は淘汰され、供給が縮小することで問題が解決するはずですが、それだけ音楽を愛する人、音楽を生業にしたい人が多く、構造的に供給超過になりやすい、と理解せざるを得ません。

そこでよく論点とされるのは「公」「官」がどこまで支援すべきかという点です。音楽のような重要な文化を支えるのは公の使命との考えもあれば、そんなことに金を使う余裕があれば、もっと生活に困っている人を救えという議論も成り立ちえます。私の意見は、国は手を出すな、ただ地方公共団体の支援はあってもよい、というものです。音楽のような文化をどこまで大切にするかという点が国全体で一律ということはあり得ず、その地域地域でどこまで文化を大切にするか、あるいは例えば札幌交響楽団のように地域オケを「売り物」にして地域の魅力を高めるか、各地域地域が判断し、支出すべきと感じています。無論、さらに、日本でも「寄付」の概念が税法上の扱いを含め広がれば言うことがないのですが。

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3 comments on “Vol.40: 音楽と経済
  1. ぺルドン より:
    おくり人

    まだ
    ビラ配りが続く・・音楽家の代理人・・
    さりながら
    今回の方が難しい・・ビラの内容が・・

    古代ギリシャ・ローマ時代は・・音楽に生活が包まれていた・・公私共に・・音楽なしの食事・仕事なんて考えられず・・音楽なしの宴会や・・寝屋なんて・・考えられず・・美人の楽師は・・それ以外の仕事も要求され・・昔風に言えば・・ぐっちーポストも室内楽団を抱えていた・・音楽は心を癒すと認識していた・・当然音楽学校も出来ていた・・音楽人は実入りが良く・・四世紀頃には同業者組合に・・・ほぼ全員が加入していた・・
    だからと言って
    我が地方行政が・・音楽のパトロンになれるとは思わない・・
    歴史の根が違う・・

    大前さんによると・・後輩は「失われた十年」の下手人の一人・・今や・・宰相・・強い日本を目指す・・とか・・

    ビラ配りは今後も続くでしょう・・・

  2. しま より:
    地方自治体の実情

    お世話になっております。毎回楽しみに拝見しております。
    各地域の判断ということですが、現状の地方自治体の状況を見る限り、最終的に国に「つけ」を回すような判断になるのではないかと危惧いたします。
    理屈としては各地域が決めるべきというのは賛同いたしますが、一方で地方自治体の意思決定の主体たる地方議会と地方行政の現状は、共に大半の地域において、地域として独自に「稼ぐ」という意識に乏しく、いたずらに「カネ」を使うだけと感じます。この結果、地方の破綻と国の支援(暗黙の政府保証がある関係で)は必定となるように思います。
    音楽関係者の方には厳しいかもしれませんが、直接、市民や地域の企業の方々との関係を築いていく外ないように思います。

  3. 匿名希望 より:
    地方自治体の多目的ホール

    ちょっと話が飛ぶかもしれませんが、
    各地の小地方団体に、あれほど豪華な多目的ホールは不要と思います。

    重点地域を絞って、そこ限定でお金を投資した方が、文化振興にもなるのでは?

    で、アトはどうやってソレを票に結びつけて、政治家が自発的にやるように仕向けるかですね〜

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