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The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2010/03/15 00:00  | by Konan |  コメント(1)

Vol.27: 企業は誰のものか?


今回で27回目になります。年52週とすると、開始以降丁度半年経過したことになります。週1回ペースをどこまで維持できるか自信はありませんが、可能な限り頑張ろうと思います。

今回は、先月の大ニュースの1つであったキリン・サントリーの統合断念との関連で、「企業は誰のものか」的な話しを取り上げたいと思います。統合断念の経緯について、マスコミ情報以上の事情は知りませんが、佐治社長の「オーナー企業の良さ」という発言と、「先々上場も視野に入れたい」という発言の関係に興味を引かれたということが、本件を採り上げる背景にあります。

「企業は株主のもの」という考え方は、とくにホリエモンや村上ファンドが隆盛を極めていた頃、よく話題に上りました。また、間もなく東大を退官される岩井克人先生が本件に関し学術的な著作を公表されたりもしました。恥ずかしながら岩井先生のこの著作は読んでいませんが、偶々本件に関する講演を聴く機会がありました。記憶するところでは、「会社は株主のものではあるが、株主の利益を少し中期的な視点で捉えると、株主にとっても企業が成長を続けることが大事。企業の成長は、これまでのように如何に良い設備を持つかということより、高い知的創造力やロイヤリティを持った社員・従業員が如何に企業価値を高める活動を行うかに左右されていく。このため、従業員を大事にすることが株主の利益になる。従って、会社は株主のものと単純に捉えるのではなく、従業員のものでもあると考えた方がよい」といった論旨だったと思います。

その株式が上場され株主が幅広い層にわたるケースと、上場されず限られたもの(オーナー、創業家)が株主であるケースがこれまでみられました。佐治社長が、これに対し「上場するが、オーナーが発言力を維持する」という第三の道を示された点で、おもしろいと思った訳です。「上場=非オーナー」という考え方は、「企業が資本市場調達を拡充し事業を拡大するためには、上場が不可欠。その際、幅広い投資家をひきつけるためには、オーナーが企業経営を牛耳るような不透明性を極力排除する方がよい」という、ある種自然な考え方に立ったものと思います。佐治さんはそれに挑戦しようとしている訳です。

多分、佐治社長のイメージは、「自分の持ち株比率(報道では現在90%)が2/3から1/3程度まで低下しても構わない」「その範囲で上場により新たな投資家を確保し資金を調達しよう」というものと推察されます。オーナーとして絶対多数ないし拒否権は維持しつつ、新たな株主・資本を求める訳です。

私はその考え方は十分成り立つと感じています。サントリーを新たに支配してやろうと意気込むファンドをさて置けば、新たな株主は精々保有シェア数%の投資に止まります。彼/彼女にとって、サントリーの中期的な成長力を確信できれば、それで十分です。さらに言えば、成長戦略をしっかり描くことができるなら、オーナーが大株主であることは2つの点でむしろ有利かもしれません。ひとつは、TOB的な動きに左右される恐れが低いこと、もうひとつは、サントリーの商売が上手くいかないと佐治さん自ら大損害を蒙るので、佐治社長がまじめに働くだろうとの期待を持てるためです。要は、大株主&オーナーが従業員でもある構図です。岩井先生流に言えば、従業員である佐治さんに期待する投資家をターゲットに、しっかりした成長戦略を立て、株主への説明責任を果たしながらそれを実行していくことができるか否か、という論点に帰着することになります。

こうした観点で、サントリーの今後を注目したいと思います。

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One comment on “Vol.27: 企業は誰のものか?
  1. アシュラ王 より
    注目に値しますね

    一代としては信用されるも、子供にまではなんとも。と言う点に置いて。

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