2010/03/08 00:00 | by Konan | コメント(1)
Vol.26: 保育所はなぜ不足するのか?
新年特集で成長戦略を取り上げました。今回はそのテーマの一環として、「保育所」問題を取り上げたいと思います。本件も私の専門領域ではないので誤解もあるかもしれませんが、その点ご容赦頂けると幸いです。
ところで、新年特集の際「成長戦略は需要の話しか、供給の話しか」と問題提起しました。需要と供給を分断することは出来ません。例えば、新政権の重要政策である子育て手当は需要面の政策の典型例と言われます。ただ、例えば、子育て手当を元手とした需要増に引っ張られる形で、ある産業が伸びる(それはパチンコ業界かもしれませんが)とか、子育て手当により、ようやく保育料が払えるようになり、子供を預けて働けるようになる(労働供給が増える)といったメカニズムを考えれば、供給と無縁ではありません。従って、需要か供給かという論争は、最後は水掛け論になってしまいます。ただ、個人的には、需要面の政策は主に短期の、供給面の政策は主に中長期の経済への影響が強い、そして、「成長戦略」は中長期の日本のあり方を考えるべきである、従って供給面をしっかり考えていかなければならない、とも思っているところです。この点を、保育所の問題を例に採り上げたいと思います。
「子育て手当てと保育所整備の支援と、どちらが有効か」という議論が聞かれます。保育所を巡る状況は、経済学的に考えるととても不思議な事態です。まず、待機が多いということは、需要超過(保育所の需要が供給を上回る)ことを意味します。もし市場メカニズムが働くと、保育料が上がり、それをインセンティブにして保育所の供給が増え均衡します。ところが、実際には供給は増えないだけでなく、若い保育士の多くは、極めて安い給料での重労働に悩み、定着率が必ずしも良くありません(看護に比べればマシかもしれませんが)。保育所の供給が増えないこと自体は「規制」の問題と理解しやすいのですが、給料が上がらないことには、3つの解釈が成り立ちます。1つめは、保育士になりたい人は多いが、保育所の数が制限されているため、安い給料に甘んじて職の確保に走っているという仮説です。2つめは、保育士の仕事は労働生産性が低い(大したことがない)ものである、従って高い給料に値しないという仮説です。3つ目は、子供を預けようとする世帯の所得が低いため、高い保育料を払えないので、それに合わせた人為的に低い給与体系がとられているという仮説です(更に言えば、公立保育園の場合、年配の保育士が保護され、高い給与をもらっているので、その分若い保育士の給与が低いということもあるかもしれません)。仮に3つ目の仮説が正しいとした場合、給与の低さを背景に、保育士になりたいという供給が減少し、保育園を増やしても、保育が成り立たないことになりかねません。
どの仮説が正しいか自信はありませんが、3つ目が正しいと想像しています。また、そうだとすると、上記の意味で問題は大変深刻です。
子育て手当は、保育所に保育料を払う余裕を子育て家庭に与える点で、保育所問題の解決に向けて重要な一歩となり得ます。しかし、手当は何に使われるか分からず、その効果が消費刺激という一般的なものに拡散してしまう恐れもあります。他方、保育所に関する規制を緩和・撤廃するとともに、保育士になるインセンティブを確保するためにも、保育所に補助を行うことは、とてもストレートなアプローチです。成長戦略を考えるうえでは、労働人口の確保が重要であり、そのためには、出生率の上昇と女性の労働参加率の上昇の双方が不可欠です。また財政問題が深刻であるとすれば、財政支出を効果が高いものに集中することも求められます。その点で、私は子育て手当より、保育所の支援・補助の方を支持します。
なお、規制緩和という場合、保育所の需要の状況に合わせる必要がある点も、合わせて指摘したいと思います。想像するに、保育所に預けたいという需要は、(子育ての負担から少しでも解放されたいという精神的な理由を別にすれば)、家計を支えるためどうしても働かざるを得ない場合か、家計に余裕はあるが自分のキャリアを大切にしたい場合か、いずれかによることが多いと思います。前者では、高い保育料は払えないので、補助により最低限のレベルでのサービスを提供することが適当ですが、後者は、補助無しで高い保育料を求めるより私企業的なサービスがソリューションになり得ます。こうした保育所の二極化も重要な論点ではないかと考えています。
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One comment on “Vol.26: 保育所はなぜ不足するのか?”
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子供手当で伸びる産業が(・・・)って、相当な辛口ですねw
日本の親がそこまで酷くないことをこひねがふ。いやホンマに。