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The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2009/12/21 00:00  | by Konan |  コメント(0)

Vol.15: リーマン危機回顧(その3)


今回は、今般の金融危機を振り帰るシリーズの最後として、今回の危機に金融技術が果たした役割について触れたいと思います。本件、まさにぐっちーの専門領域であり、本当は、彼に付け足すことはありません。彼は今でもよくこの話題を取り上げていますし(ベアスターンズ社員が無罪になった話しなど)、私も彼のブログから多々学んできました。ただ、実体経済の動き、金融政策が危機を生んでしまった話しと流れてきた締めとして、金融技術の話しを避けて通れないと思った次第です。

思い起こすと、2007年夏以降、「サブプライムローン」「証券化商品」という言葉を聞かない日は無いほどでした。今回の危機はそうした金融技術の発展の成れの果て、という感覚が当時支配的であったと思います。実はそうではないというのが前回の話しのポイントでしたが、そうは言っても、金融技術の発展は無視し得ない影響を及ぼしたと考えています。

金融機関が信用膨張を続けるためには、資産拡張を支える資金調達が不可欠です。その資金の出し手からみると、どのような場合であれば、安心して金融機関に資金を出すでしょうか?第1に、借り手の金融機関の自己資本がしっかりしていて、無担保で資金を貸したとしても、貸し倒れる心配がない場合です。第2は、しっかりとした担保を借り手の金融機関から確保できる場合です。

さて、金融機関がサブプライムローンのように内容が怪しい貸出を行った場合、金融機関は貸し倒れリスクを抱え、自己資本が毀損する可能性に直面します。また、そのような怪しいローン債権を担保に提供しても、信頼して資金を貸してくれる人はなかなか現れません。ところが、そこで、「1本1本は怪しい貸出であっても、千本を束にすれば、リスクが分散されるので、しっかりした資産に化ける」と錬金術のようなことを考え出した人たちがいます。リスクをエクイティとして切り出し誰かに引き受けてもらえれば、残りは立派な、AAやAAAに格付されるようなシニア債券に衣替えできる訳です。そうなれば、それを売却したり、担保として提供することで、資金調達が可能になります。売却できればリスクも負わなくなるので、自己資本の毀損も防げます。要は、金融機関は、本来怪しい資産を健全な資産に作り変え、それを元手に資金調達し、また怪しい資産を増やす、という、レバレッジ拡大の循環プロセスに入っていくことが出来た訳です。

このプロセスは2つの点で崩れました。まず、結局分散したはずのリスクが分散されていなかったということ。米国全体の不動産価格が下落を始め、千本の貸出が全てだめになるという、考えもしなかった事態が起きてしまった訳です。そうなると、担保価値もなくなり、金融機関に資金を出していた貸し手から、「追加担保をくれ」と迫られ、金融機関はどんどん資金繰りに詰まっていきます。次に、「売却した」と思っていた資産が戻ってきてしまったこと。SIVのようなところに売却していた債権を、結局買い戻さざるを得なくなり、その結果、資産の毀損リスクが金融機関本体に戻ってきてしまい、資本不足に陥った訳です。要は、金融技術により資本、流動性両面で万全の態勢を確立できた「天国」の状況から、資本、資金繰り両面で窮地に陥る「地獄」の局面に転落した訳です。

今回の危機が始まった頃、ある知人に、「人類はなぜ何度も似たような過ちを犯してしまうのだろうか」と聞かれたことがあります。今回の危機はよく「百年に1度」と言われましたが、1930年代の大恐慌を含め、その後も何度も金融危機が生じたというのが歴史的事実です。そうした過去の経験を踏まえ、金融政策、金融技術、いずれも「今度こそ誤らない」と信じ、2000年代半ばのユーフォリアを作り上げ、しかし、はかなく失敗していく。今回の危機は、人間の限界を改めて感じさせる出来事でした。

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