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The Gucci Post [国際政治・経済・金融 × プロフェッショナル]

2009/11/02 00:00  | by Konan |  コメント(0)

Vol.8: 預金保険


今回はとても地味に、以前のぐっちー有料配信メルマガでも取り上げられた預金保険制度について。預金保険制度は、大恐慌時の銀行取付け騒ぎの教訓を踏まえ、1933年に米国預金保険公社(FDIC)が設立されて以降、様々な国で採用され、日本でも1971年に制度が始まっています。銀行取付け(とりつけ。bank run)とは、「銀行が潰れそうだ」と焦った預金者が銀行に殺到し、それをみた他の銀行の預金者が「自分の銀行も危ないかも」と思い、そこにも殺到するという連鎖が起き、金融・社会不安が生じてしまうこと。「銀行が潰れても、一定金額の預金は必ず返ってきますから、安心してください」と預金者を安心させ、こうした事態を防ぐための仕組みが預金保険です。一定金額は米国では10万ドル(ただし時限的に25万ドルまで引上げ中)、日本は1千万円です(1預金者、1銀行当たりなどの詳細はここでは省略します)。

さて、預金保険がないと預金者はどうなるのでしょうか。例えばある銀行の預金が100、資本が10、資産が110だったとします。資産内容が劣化し、30の損失が生じると、資本を食い潰し、20の穴が空きます。100の預金に対し80しか残らないので、預金が一律2割カットされる訳です。そこで、「一定金額は必ず保護します」という制度を導入したとします。100の預金の内訳が、「一定金額以下の部分」が60、「それを超える部分が40」だったとします。単純化して言えば、60は全て保護される、40は2割カットされ、32しか返ってこない、ということになります。60の部分は、預金保険がなければ2割カット(12の損失)されていたはずなので、この12を穴埋めする必要が生じます。その穴埋め資金を提供するのが、預金保険制度ということになります。

ここで1点注釈。日本の場合、8百万円の預金者は1千万円におさまっているので、全額保護されます。では、1千5百万円の預金者はどうなるか?上記例に当てはめると、1千万円部分は全額保護、残り5百万円部分は2割カットとなり、結局1千4百万円戻ってくることになります。上記例で「一定金額以下の部分が60」と書きましたが、この60は、ここでいうと、8百万円の預金者の8百万円分や、1千5百万円の預金者の1千万円分を足し上げた数字、と思ってください。

さて、以上は特段面白さもない話しですが、預金保険を巡り、2つの留意点を付け加えます。

第1に、上記のような預金カットは米国では普通に行われています。今回の危機で預金保険の資金が使われながら、預金カットを行わないという特別の措置がとられたのは、ワシントンミューチュアルの例くらいでしょうか?米国では10万ドルを超える預金を持っている人は限定的で、預金カットを行っても余り混乱は起きません(ただし、大銀行の場合、全体の口座数が多いので、限定的と言っても、預金カットされる人数の絶対数が大きくなり、混乱が生じかねないということもあり、ごく例外的に、預金カットが行われない例もある=ワシントンミューチュアルのように=訳です)。これは、ごく一部の金持ちを除き多くの人の金融資産が限定的であるということなのか(金持ちは預金以外の商品に運用しているということなのか)、借金を抱え預金どころでないということなのか、背景はよく分かりませんが、事実としてそうなっています。バーナンキ議長も、最近の講演で、「預金取付けによる危機は過去の話し」と整理しています(この辺、いつか触れたいと思います)。

翻って、日本では、預金保険制度導入前には、預金取扱金融機関破綻の際、預金カットが行われることがむしろ普通でした。しかし、導入後は、預金保険制度対象の金融機関で預金カットが行われたことはありません(ややマニアックですが、日本の預金保険制度では外銀支店は保護対象になっていません=日本法人化したシティバンク銀行は対象です。念のため=。このため、1991年にBCCIが破綻した際、日本でも預金カットが行われ、その際損を被ったのが当時の興銀のような人達でした)。日本の新政権下、そうした「初預金カット」を行うか行わないか、大英断を求められるようなことがないことを祈るのですが、ただ、いわゆる「ペイオフ=預金カット=解禁」は小泉政権の重要政策のひとつでしたので、反小泉の新政権は、万一の場合も預金全額保護を行うのかもしれません。

第2に、預金保険の財源は何かということ。基本的には預金保険の対象となる金融機関から保険料を集め積み立てる方式が日米では採られています。預金保険で便益を受けるのは預金者ですので、本来は預金者が払うべき保険料を金融機関が代わって納めていると考えてもいいのかもしれません(保険料の分、預金金利が低くなり、預金者にコスト転嫁されているとも言えます)。しかし、それが枯渇したらどうなるか?現に90年代の日本では枯渇し、現在、米国でも100を超える地域銀行の破綻に伴い枯渇しつつあり、特別な保険料を集めるとか、数年分の保険料を前払いさせるといった提案もなされてます。集めた保険料では足りなくなると、一定金額以下の預金も保護されないのか?

それでは、預金保険の安心機能が失われます。このため、財源が枯渇すると、預金保険機構が借金できることになっています。米国ではTreasury等から、日本では政府保証付きで民間金融機関や日本銀行から、という仕組みです。要は最後の最後は財政がバックアップする訳です。ここで、ぐっちーの指摘に結び付きます。財政は持つのだろうか?!こんなに国債を増発して大丈夫だろうか、という論点と(単純に言えば)原理的に同じ問題に行き着く訳です。この辺、次回以降いつか触れたいと思います。

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