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The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2009/09/28 00:00  | by Konan |  コメント(0)

Vol.3: アイフル破綻


今回は、アイフルの事業再生ADR(私的整理)について取り上げようと思います。本件の市場への影響や貸金業界の裏話については、ぐっちーのような専門家に譲るとして、本件が、鳩山政権の今後の政策判断プロセスに持ちうる含意に焦点を絞り、記述したいと思います。

そうは言っても、簡単な背景説明が必要と思います。貸金業界では、かねてよりかなり高い金利で主に個人への貸出を伸ばしてきました。この金利水準は、ある法律(利息制限法)では禁止されるほと高かった(確か法律上の上限は18%と思います)一方、別の法律上は違法でないようにも読めたため、このグレーゾーン(合法か違法か判然としない)領域で商売がなされてきた訳です。

ところが、最高裁を含めた司法判断で、グレーゾーン金利は違法、法の上限を超える分の契約は無効なので、その分は利息を払わなくてよい、これまで払ってしまった利息は取り戻せる、という考えが示されました。こうした司法の流れや、多重債務問題の深刻化の中で、「借り手は可哀そう、貸し手は悪質」という認識が広まり、国会で貸金業法の改正が決められ、貸出金利の上限が明確に定められるとともに、借り手の年収の1/3以上貸してはいけない、という総量規制も導入されることになりました。

このため、貸金業界では、多くの過払い金返還訴訟に直面し、収益、資金繰りの両面で苦境に陥りました。また、新たな貸出金利はこれまでより低く、また総量規制も意識せざるを得ないため、貸出量も伸ばせないということで、収益力も大きく低下しました。この結果、メガバンクの後ろ盾がなかったアイフルが、大手4社の中でついに白旗を上げた、という経緯になった訳です。

ところで、普通に考えると、「借り手は可哀そう、貸し手は悪質」となる訳ですが、本件、もう少し冷静に考えてみる必要があります。これまで貸金業者がグレーゾーン金利で貸出を行ってきたのは、単に悪質な商売をしよう(あるいは闇社会に資金を流そう)ということだけではありません。銀行を含め、お金の貸し手は、借り手の信用度を判断し、貸し倒れリスクを考えた上で、貸し倒れ損失をカバーしうる利益を確保しないと、結局自分が倒れてしまう宿命にあります。このため、借り手の実態との関係で、場合により高い金利を求めざるを得なかったという面もある訳です。単純に言えば、貸出金利の上限を厳しく設定されると、真に信用上問題のない借り手にしか貸せなくなる訳で、少し苦しい(信用の判断が微妙な)層に貸すことはできなくなります。最高裁の判決や、貸金業法の改正は、その裏で「そういう人たちにはもうお金が回らなくてもよい」という判断をしていることになるということです。

やや詳しく言えば、貸金業からの借り手は、主に以下の3つに分類されると言われています。第1は、1年を通じた収入は支出を上回っているが、月給では不足し、賞与でカバーする層です。ボーナス日まで借りて、返済し、また借りて返済するイメージです。こうした層の信用度は安定しているため、貸出金利上限が厳しくなったとしても、貸し手の商売は成り立ちます。第2は遊興費、とくにギャンブルのために借りる層。単純に言えばギャンブルで勝てば借金を返済できるが、負けると返せず貸し倒れる層です。こうした層の信用度は第1の層ほどではないので、上限金利が厳しくなると、貸してよいかどうか、かなり迷います。第3は、本当に生活に困り、借金に追い込まれる層です。こうした方たちは、非連続的な収入増(定職がみつかるなど)がない限り、実際には返済のあてがなく、信用度は極めて低い層ですので、貸し手の立場からみると、相当高い金利をとらないかぎり、ペイしません。以上をまとめると、本件に関する司法や国会の判断は、第2、第3の層に関し、貸金業という民間の枠組みでお金を回すことは、最早しなくてもよいという判断をしたことと同じことになる訳です。

第2の層は、日本の国民性から考えると余り同情を集めない層かもしれませんし、「切り捨てやむを得ない」ということかもしれません。ただ、遊興・ギャンブルも立派なGDPの項目ですので、その切捨ては景気にマイナスのインパクトを持つということを認識しておく必要があります。第3の層は、本来は、借金を重ね更なる苦境に陥る前に、国の政策として、最低の生活水準を保証すべき対象かもしれませんが、逆から言えば、貸金業法改正と同時に、そうした保護政策に踏み込んでおく必要があった訳です。

新政権になり、亀井大臣がモラトリアムの導入に関し積極的に発言しています。また、派遣業の規制(是正)もマニフェストの重要な公約です。こうした政策の考え方は、弱い借り手、弱い立場の労働者を守るという点で、有意義なものであり、そうした判断が全面的におかしいということではありません。ただ、冷静にそのマイナスの影響を考える必要があります。

モラトリアムについては、例えば3年間元本返済猶予となると、借り手は万々歳と思われるかもしれませんが、景気動向如何に拘らず競争力を失ってしまった企業が、企業価値がまだ残っているうちに商売をたたみ、再スタートに挑戦する機会を奪ってしまう可能性があります。貸し手からみれば、3年間回収等の措置をとれないとすれば、今後の新たな貸出について、相当きつい吟味をせざるを得ず、既存の借り手は守られるが、新たな借り手からみると、貸し渋りの問題を生じさせかねません。

派遣の問題も、悪く考えれば、企業としては面倒な派遣を使わず、正社員の残業で切り抜けようとするでしょう。正社員からみると、収入が上がる訳ですが、新たな雇用を求めていた人には雇用や収入が回らなくなる可能性もあります。

鳩山政権は政治の判断、決断を大事にしています。その際重要なのは、判断過程を明確に国民に示し、そのうえで、何を拾い、何を捨てたかを明らかにしたうえで、大きな決断を行うことと思います。これまで、官に丸投げされてきた時代では、官の中では、政策のプラス、マイナス面を結構慎重に吟味してきました。しかし、政に上げる段階で、単純に結論だけを示し、「これで行きましょう」という形で単線的に物事を進めてきた傾向があったことは、否定できないと思います。

官が冷静にプラスマイナスを分析し、その内容を政に上げ、政はその両面を理解し、苦悶したうえで大きな判断を行い、その過程を国民に示す、こうした新たな政官の仕事のスタイルを確立していくことが、鳩山政権の最大の課題なのかもしれません。

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