2024/11/11 06:30 | by Konan | コメント(0)
Vol.253: 日銀金融システムレポート
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金融システムレポートとは
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毎年4月と10月、金融政策決定会合の1週間前頃に公表されるレポートで、日銀の金融システムの安定性に関する評価を示します。日銀は、日銀法第1条で物価の安定と金融システムの安定の2つの使命を負っているとされ、実際に金融危機などが生じた際に市場に流動性を供給できるのは、政府(金融庁や財務省)ではなく日銀です。
また、日銀の金融政策の中で重要な展望レポートでは、金融政策運営に関し「第1の柱」「第2の柱」の2つの考え方が示されます。第1の柱はいわゆるベースラインシナリオを、第2の柱はそこから外れるリスクを検討しますが、この第2の柱の中で金融システムの安定性の評価に言及されます。この意味で、金融システムレポートは金融政策判断の重要な材料のひとつと位置付けることもできます。
旧ひとり言の時から、公表の都度紹介してきました。
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安定性を維持:4つの視点から
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結論は「わが国の金融システムは全体として安定性を維持している」です。勿論いろいろな注釈がついていますが、安心して良いことになります。
今回は、とくに4つの点が点検されました。
・8月に起きたような株価の急落に耐えられるか
・不動産市場が崩れ、金融システムに悪影響を与えることはないか
・利上げを続けても大丈夫か
・企業倒産が増えている影響は
結論は以下の通りです。
(株価)
現在の株式市場にバリエーション上の大きな過熱感はみられない。ただ、日本の金融機関は相応の株式リスク量を有しているので、留意が必要
(不動産)
今の不動産市場は一部指標ではミニバブル期を上回る状況にある。仮に都市圏の商業用不動産価格が下落しても、金融機関の経済損失はマクロ的には(全体では)限定的だが、不動産関連投融資が趨勢的に増えているので、先行き注意が必要
(利上げ)
金融機関、家計、企業とも、全体としてはある程度の金利上昇に耐えられる。家計の中でも住宅ローン借入れ世帯の負担には留意が必要だが、返済負担についての激変緩和措置が当面の負担増加を抑える方向に働く。企業に関しては、一部に手元資金に余裕が無い企業もある点が懸念材料
(企業倒産)
企業倒産の増加が金融システムの安定性を損なう可能性は小さい。ただ、企業財務のばらつきは大きく、売上原価と人件費負担が売上高対比で大きい企業や、手元資金に余裕のない企業では、コスト上昇圧力がデフォルト確率の大きな上昇につながる恐れがある
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マクロストレステスト
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最後に、「地政学リスクなどを起点とした内外の原材料価格の上昇を背景とした海外金利の上昇と、海外経済の減速が生じるリスク」と「国内外の金融市場において、リスク性資産を中心に、リーマンショック並みの調整が発生し、内外の実体経済も大きく悪化するリスク」が検討されます。
結論から言えば、こうしたリスクが顕在化すれば、当然ベースラインシナリオ対比で自己資本が毀損します。ただ、それでも「平均的には規制水準を上回ることを踏まえると、金融機関はこうした大幅かつ急激なストレスに耐え得る充実した資本基盤と安定的な資金調達基盤を有していると評価される」とします。
ただし、「過去と比べると金融機関の基礎的な収益力は低下しており、いったん資本が毀損すると、自己資本を復元するには、相応の時間を要する金融機関が増えている可能性がある」とも指摘します。
まとめると、金融機関、企業とも全体としては大丈夫だが、格差が広がっており、リスクの生じ方次第で少なくとも一部の先には結構な打撃を与える可能性に注意が必要、との結論と受け止めました。
今回はこの辺で。
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