2024/01/15 06:30 | by Konan | コメント(0)
Vol.220: 日銀と政治
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日銀法改正後の不幸な歴史
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改正後の新日銀法が施行されたのは1998年4月。日銀は「独立」したと言われました。その前の日銀は、単純に言えば政府の言うことを聞かざるを得ない存在でした。仮にその前から「独立」していれば、1980年代に早めの利上げが行われ、バブルの大きさが少しは抑制されたかもしれません。ただ、今更言っても仕方ないことです。
ところで、日銀法には「独立」という言葉は使われていません。第3条第1項で「日本銀行の通貨及び金融の調節における自主性は、尊重されなければならない」と書かれているだけです。また、第4条では「通貨及び金融の調節が経済政策の一環をなすものである(中略)政府の経済政策の基本方針と整合的なものとなるよう、常に政府と連絡を密にし、十分な意思疎通を図らなければならない」ともされます。
人事面でも、金融政策を決める政策委員会メンバー(総裁を含めて)は「両議院の同意を得て、内閣が任命」します。
新日銀法の下でも、条文を見る限り「独立」感が強い訳ではありません。
また、日銀法改正後の各総裁は、政府との関係作りで苦労しました。速水総裁はゼロ金利解除で強く非難され、持論の円高論は政府との不協和音を生みました。福井総裁は途中まで良好な関係でしたが、終盤の利上げは不興を買いました。白川総裁は、政権にあった民主党と言うより野党自民党に敵視され、安倍総理誕生の陰の立役者になりました。黒田総裁は、逆に安倍総理と蜜月過ぎたことが、一部の不信を招きました。
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なぜ独立が必要か
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国により中央銀行に関する法制度は一様でなく、中銀独立性に関し世界共通のスタンダードがある訳ではありません。ただ「中央銀行が政府の言いなりになるのは良くないこと」との雰囲気はある程度共有されていると思います。その背景は、以下の2点に集約されます。
まず、「インフレ」との関係です。最近のコストプッシュ型インフレと異なり、需要の強さがインフレを呼ぶことがあります。要は「景気が良いから物価が上がる」局面です。景気が良いので皆ハッピーです。しかし、行き過ぎたインフレは良くないので、中央銀行が金融引き締めに動き、景気を冷まします。皆がアンハッピーになるこの政策を心を鬼にして取らざるを得ない訳です。
次に、「財政ファイナンス」との関係です。景気が悪くなると、政府は財政政策を発動します。その財源の面倒を中央銀行がみてくれれば、政府はハッピーです。しかし、それが度を越すと、インフレや金利上昇が起きかねません。中央銀行は心を鬼にして、財政ファイナンスを断る必要があります。
要は、常にではないにせよ、時々政府と中央銀行の立場は対立します。その時、政府と異なる識見を持つ中央銀行の意見を尊重する方が、結果的にその国の経済にとって良いことが起きる可能性が大きいという考え方が、中央銀行の独立性の根拠と思います。
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実際に独立できるのか
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現実はそう単純ではありません。まず、中央銀行が間違えることがあります。コロナ以降の欧米のインフレは、中央銀行の判断ミスによる利上げの遅れに起因した面が大きいと思います。次に「正しいか誤りか」すぐ分かる訳でもありません。金融政策の効果発現には1年以上要するとも言われ、その間、中央銀行は孤独な立場に置かれます。また、経済・金融は理解が難しく、仮に中央銀行が正しい行動を取ったとしても、政治家や国民には理解されないかもしれません。要は、独立性の背景にある「中央銀行の識見」が疑われたり、理解されなかったり、時に誤っていたりすることがある訳で、そうした中で独立性を維持することは至難の業です。
また、中央銀行の政策は単純化すれば金融緩和か引締めの何れかです。しかしながら、緩和で皆が得をすれば良いのですが、損をする人もいることが別の意味での難しさです。最近の例では、黒田総裁末期、「物価上昇の許容度が高まった」との趣旨の発言が物議をかもしたことがありました。円安は輸出企業を助けます。しかし物価上昇は多くの国民を苦しめます。金利上昇は貯金を持つ人を助けますが、住宅ローンを借りる人を苦しめます。政治の難しさは、どちらの層の声が強いか、時により変化することと思います。政治との関係に気を付けていたが、虎の尾を踏んでしまうこともあり得ます。
いろいろと書いてきましたが、結論として日銀が政治に強いとは思いません。ただ、それは、日銀法の仕組み、日銀法改正後の歴史、元々ある独立性維持の難しさなど様々な要因によるもので、植田総裁以下の現体制のせいという訳でもないと思います。
現体制の強みは、正副総裁3名の知的レベルの高さです。余計なことを考えずに率直な気持ちで結論を出し、愚直に説明していくしかないように感じます。
今回はこの辺で。
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