2023/04/24 06:30 | by Konan | コメント(0)
Vol.191: 日銀金融システムレポート
今回は21日に公表された日銀金融システムレポートを紹介します。毎年4月と10月に公表され、日銀によるわが国金融システムの安定性の評価を示します。このコーナー開始以来、公表の都度紹介してきました。今回はシリコンバレー銀行やクレディスイス破綻の直後、そして植田新体制発足直後の公表となり、いつもより注目を集めました。
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問題意識と総括評価
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ふたつの問題意識が示されます。
・世界的な金融引き締まり、すなわち利上げの影響。これが、保有する有価証券の評価損拡大、融資先の信用リスク増加をもたらします。さらに、上記の米欧金融部門を巡る不確実性の影響も気になります。
・国内民間債務増加の影響。いわゆるゼロゼロ融資の返済が本格化し始め、不動産・住宅向け融資も増えています。国内での信用リスク面で問題が無いか?
日銀の総括判断は以下の通りです。
・わが国の金融システムは、全体として安定性を維持していると評価できる。今年3月の米銀破綻をきっかけに米欧の金融部門を巡る不確実性が高まったもとでも、わが国の金融システムは健全かつ頑健である。
・もっとも、テールリスクへの警戒は引き続き重要である。
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日銀が気にしているリスク
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以下では、日銀がリスクとして警戒する点を紹介します。
・増加した民間債務の中に、相対的に返済能力が低い債務者もみられること。とくに、住宅ローンや空き家率が高まるなかでも増加している不動産業向け貸出に注目しています。
・零細企業の財務の脆弱さ。実質無利子融資の返済が本格化しても、半数以上の企業は十分持ち堪えることができます。しかし、零細企業の中には手元資金が不足する企業群が存在します。
・海外貸出の信用リスクも気がかりです。海外大口貸出先が邦銀大手行の間で重複したり、貸出が大口化していたり、あるいは財務レバレッジが相対的に高い融資先が含まれることもあり、今後海外経済が大きく減速する場合、邦銀に影響を与える懸念があります。
・海外金利上昇が有価証券損益等に与える影響も心配のひとつです。この点、邦銀は地域金融機関を含め手を打ち、外貨金利リスク量は抑制されてきています。しかし、金利上昇への備え方には金融機関間で違いがあり、「評価損の拡大は、実現損と同様に、配賦資本や分配可能額の減少を通じて、銀行財務に影響を及ぼすことに注意が必要である」とされます。
以上を踏まえ、「日本銀行は、考査・モニタリング等を通じて、これらの潜在的な脆弱性に対する金融機関の取り組みを後押しするとともに、マクロプルーデンスの視点から、金融機関による多様なリスクテイクが金融システムに及ぼす影響について引き続き注視していく」と結んでいます。
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書かれていないこと
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日銀金融システムレポートの分析レベルは世界的にみても高度で、個別金融機関のミクロデータも駆使しながら、詳細な分析を進めます。また「全体として安定性を維持している」との評価も間違っていないと思います。
ただ、(全文を詳細に読んでいないため、読み落としがあるかもしれませんが)日銀自体が認めるように「金融機関の基礎的な収益力の低迷」が続いています。そうした中で、植田新体制の下で黒田政策から脱却し国内金利が上昇する場合の影響は、本レポートの対象外です。恐らく執筆する金融機構局内で既に様々な分析が行われ、前金融庁長官の氷見野副総裁を含む幹部にインプットされていると想像しますが、この点への見方が今後問われていくことになると思います。
今回はこの辺で。次回は植田総裁初の日銀金融政策決定会合と、内閣府月例経済報告を合わせて紹介します。
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