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The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2023/03/20 06:30  | by Konan |  コメント(0)

Vol.186: SVBとCS


日銀の話を書こうと思っていましたが、Silicon Valley Bank(SVB)とCredit Suisse(CS)の話に切り換えます。報道以上のことは分からず、憶測を交えた書き物になってしまう点ご容赦ください。

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どうして追い込まれたのか
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SVBはベンチャー企業からの大口預金がここ数年急激に増加。その運用を国債等の長期債券中心に行いました。FRBの利上げにより保有債券の価格が下落し、それを不安視した預金者が引出しに走りました。まさに取付け(bank run)です。債券売却も追い付かず、売却すると損失が実現してしまう状況に陥ったSVBの経営は、たちまち行き詰まりました。

ここまでは有り勝ちな話ですが、そこから異例な展開をたどります。日本と異なり米国では、銀行の破綻時に大口(25万ドル以上)の預金が一部切り捨てられることが通常です。しかし、今回は満額保護が決定されました。また、FRBは銀行の流動性を支援する新たな枠組みを導入しました。さらにバイデン大統領が演説まで行いました。FRBや政府がここまで異例な措置を取ったことは、一方で市場関係者や多くの預金者に安心感を与えましたが、他方で「ここまで慌てるほど銀行システムはおかしくなっている」との不安感を与え、銀行株価は大きく値下がりしました。

この余波を受けたのがCSです。このスイスの大銀行は、ここ数年経営の失敗が続き「大丈夫か?」との見方をされていました。それでも「破綻」まで心配する向きは限られていましたが、世界的な銀行株価下落の中で、世界で最も弱い大銀行として狙われる形となりました。2015年頃であればドイツ銀行が狙われていたでしょうか。スイス中央銀行や政府が流動性供給策を打ち出し、今のところ何とか持ち堪えています。

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ノーベル経済学賞の先見性
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預金が集まる一方で貸出が伸び悩む多くの日本の地域金融機関は、資産の相当部分を長期債券を始めとする有価証券で運用しています。このため、仮に日本で米国のように金利が上昇すると資産内容は急速に悪化します。

ただ、SVBとは2つの点で異なります。1つは金利上昇の程度が異なること。仮に植田総裁が黒田政策を修正したとしても、米国ほど金利が上がるとは思えません。また、預金もSVBのように大口に偏っておらず、粘着性が保たれています。このため、SVBのようなことが日本で起きるとは思いません。別の言い方をすれば、SVBは銀行と言うよりあのリーマンのような資産・負債構造だったのに対し、日本の地域金融機関はまだ古典的な銀行色を残しているということでしょうか。

ただ、今回改めて浮き彫りになったのは、銀行や広く金融における「信認」の重要性。SVBで取付けが始まったことも、その余波でCSが狙われたことも、論理必然的な動きと言うより「偶々信認が失われた」と見る方が自然です。この「偶々」が起きるか否か事前に予測することはとても難しいことです。世界の金融当局や中央銀行は、この予兆を探るため必死に検査やモニタリングを行い、金融機関の自己資本や流動性に関し規制を行います。この規制はリーマン危機後大幅に強化されましたが、米国ではトランプ政権下で大銀行を除き大分簡素化されました。その反省も既に聞かれます。しかしどのように強固な規制やモニタリングがあったとしても、「信認」を完全にコントロールすることは難しいというのが、今回の教訓と思います。

昨年のノーベル経済学賞を受賞したのは、Bernanke、Diamond、Dybvigの3人。「金融危機の研究」が受賞理由でした。私もかつてDiamond & Dybvig論文を読みました。この論文は取付けのメカニズムを解明した画期的なものです。ノーベル賞選考者は、今回の危機を予想していたのでしょうか。

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金融政策はどうなるか
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今週行われるFOMC。0.5%利上げ説はすっかり消え、今や0.25%利上げ説より据え置き説が有力に思います。他方でインフレ率は高止まったままです。FRBはどう動くか?

すぐに外れることを覚悟で言えば、私は0.25%派です。今回の危機の広がりはとりあえず防がれ、実体経済面の強さやインフレ圧力は残ったままです。上記のようにFRBや政府が異例とも言える手厚い対応を行った背景には、金融システム問題での憂いを忘れ、金融政策に集中する意図があったのではないかと思っています。

他方、日銀は少し立ち止まって考えるでしょう。世間では植田総裁登場後最初の金融政策決定会合(4月27・28日)での政策修正を予想する向きもありますが、金融システム面の状況を含め、もう少しじっくりと検討するように思います。

前金融庁長官である氷見野氏を副総裁にするアイディアを出したのが誰か分かりませんが、ノーベル経済学賞選考者同様、先見の明がありましたね!

今回はこの辺で。次回は何もなければ日銀財務の健全性について書こうと思います。

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